第138話 鎖に繋がれ

「そいつ人間だろ」

「な、何でそう思うの?」


 俺は思わず腰の『雷鳥』に手をかける。

 もしかすれば最悪の状況になるかもしれない。


「俺は奴隷商人だからな。人間と魔族の微妙な違いにはすぐ分かる。帽子で顔を隠していても、臭いが人間のそれだ」


 臭い……!

 マジかよそんな所で判断されんのか……!?

 ってか、俺ってそんなににおう?


「あう………………」

「ダメだろ嬢ちゃん…………人間は……」

「ちっ」


 やるか。

 誰にも気付かれないように首を切り落として……!


「しっかりと鎖で繋いでおかないと」

「えっ?」


 ……………………鎖?


「ん? その人間は嬢ちゃんの奴隷だろ? 素直に横を歩いていることから調教は良くされているみたいだが……一応、何かあるといけないからな、鎖で繋いでおくのがこの国のマナーだ」


 これは…………あれか?

 俺がアイラの奴隷だと思われてるってパターンか?

 何という不本意な!

 こんなしっかりした服を着てる奴隷がいるか!


 と、反論したいところだけど、奴隷だと思わせていた方が都合が良いのか?


「あ、そ、そうなんですね〜。この子、とても大人しいから放し飼いしてましたぁ」


 放し飼いて。

 自分より小さい女の子にこの子呼ばわりとは。

 精神的にキツいものがあるな。


「そこでだ嬢ちゃん。今なら首輪と鎖をセットで安くしておくぜ。どうせなら買っていかないか?」


 コ、コイツ……!

 これが目的か!

 商人魂猛々しいな!


「アイラ……。首輪は持ってるので大丈夫って言って、この場をやり過ごそうぜ」

「………………」

「アイラ?」

「で……でもアレだよね……。首輪で繋いでた方が……周りにはバレにくいよね」

「えっ!?」

「すいません……1つ下さい」

「毎度!」

「アイラさん!?」


 ガッシャン。


 俺の首に鉄製の黒々しい首輪がはめられ、それに繋がった鎖をアイラが握りしめた。


「よく似合ってるぜ!」


 うるせぇバカ!

 首輪に似合ってるもクソもないわ!

 何のプレイだよこれは!


「じゃあ失礼するぜ!」

「………………アイラ。これは一体どういうつもりだ」

「えっ!? べ……別にヤシロが私の所有物になるから買ったわけじゃなくて……! ほ、ほら、臭いでバレる可能性があるから、こうしておいたら関係性がすぐ分かるじゃん! …………ハァハァ」


 その割には息を荒げて興奮してるのはどういうことだ。

 さすがに引くぞ。


「とにかく、少ししたらこれ外してくれよ」

「ご、ご主人様に命令するつもり!?」

「せいっ」

「あうっ!」


 アイラの額にチョップした。


「そのテンションを早く治さないと、立場逆にしてやるぞ」

「そ、それはそれで……」


 何でこんなバグっちゃったの。

 怖すぎなんですけど。


「もういいや。でもこれじゃあ俺は誤魔化せても、アイラは誤魔化せてないからローズフィリップの領土へは行けないぞ」

「これで行くつもりはないよ?」

「なんなんだマジで!」

「でもこれで、自由にこの国の中は動けるようにはなるでしょ?」


 あながち間違いではないから困る。

 全くの無意味でないだけあって、否定し辛いのだ。


「じゃあ行こっか」

「おい引っ張るなよ」


 じゃらじゃらと音を立てながら鎖を引っ張られていく。

 こんな光景を誰か知り合いに見られようもんなら、俺は破滅だ。

 特にシーラになんて見られたら、いつもの冷めた目で見られてしまう。

 炎魔法以外にも氷魔法も使えるとは大したもんですよ。


「ん?」

「あれ?」


 路地からスッと現れた男を見て、俺は足を止めた。

 その男もこちらを見て、ピタリと足を止めた。


 知り合いに見られたら、なんて冗談で思ってた。

 だってこんな魔族の国に、極小しかいない俺の知り合いなんているわけないと思うじゃん。

 でも目の前にいる男は、確実に知っている。


 そして向こうも俺のことを知らないはずはない。

 いつかは会うと思ってた。

 でもまさか、このタイミングだとは夢にも思わない。


「ガルム…………!」

「ミナト…………! うわぁ本当に? まさかこんな所に何で……………………何でそんな格好?」


 み、見られた!!

 一生に刻まれるであろう痴態を、俺をこの世界に呼んだ張本人、2代目勇者ガルムに見られた!

 左目に刻印された『勇者の証』が本物であることを証明している!


「いや…………これには色々と事情があって……」

「あ、なるほど理解した。そういうことね。ごめん人違いでした」

「待て待て! 何も理解してないから! 人合ってるから!」

「ヤシロの知り合いの人?」

「アイツは……」

「いえ、僕は関わったことないです」

「平然と嘘つくな! 全ての元凶はお前じゃねぇか!」

「元凶だなんて人聞きの悪い」


 元凶じゃなかったら何になるんだよ……。


 とにかく、だ。

 何故ガルムがここにいるかとか、今までどうしてたのかとか、俺が今まで何をしてきたのかとか、話す事はたくさんあるけれど、何よりもまず…………この状況を弁明させろ!

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