第137話 入国

「ゲヴィッター属国にとーうちゃく」


 魔王ジェイドロードの最西端に位置する国に到着した。

 とてつもなく大きな湖の中央にある国だ。


 湖といっても水平線が見えない。

 ほとんど海と変わらないな。


「陸から一本道が続いて中央の国に繋がってるのか」

「元々は人間の国だったらしいよ。それを侵略したんだって」

「嫌な話だな」


 ということは、あのバカでかい国も人間が作ったものになるのか。


「国に入るのに、特に検査とかそういうのはないんだな」

「別に魔族は人間が領土を取り戻しに来るとは思ってないからね。それほどナメられてるんだよ」

「確かに……」


 今までも領土を取り戻そうとしている国は無かった。

 唯一、『開戦区域バルフィード』における大規模討伐作戦がそれに近かったはずだ。

 後は勇者一行におんぶに抱っこというイメージがある。


「他の魔王の所にいる種族達が来る可能性は?」

「あるんじゃないかな。でも別に大きな問題は起こされた事はこれまでないし、特に気にしてないみたいよ」

「あれ? じゃあ別にローズフィリップの領土にアイラが入っても問題は無くないか? 俺はともかくとして」

「いい顔はされないよ。それに、全員が私と同じような考えを持ってるとは限らないし、排斥しようとする人がいるかもしれない。ただでさえローズフィリップは多種族との差別化が激しいことで有名なんだから」

「やっぱりそーいうもんなのか」


 結局、この国で上手い方法を考えないとダメってわけね。




 一本道を歩きながら、傍から下の湖を覗き込む。


 もの凄い透明度だ。

 かなりの深さがあるはずなのに、光が差し込んでいるところは全てハッキリと見えている。

 生き物が水の中を優雅に泳いでいるのが見える。


 そう……あれは人魚…………人魚!?


「ちょっ、アイラ! 人魚がいるんだけど!?」

「人魚? ああ、シーマイン族だよ。水陸どちらでも生活ができる魔族」


 魔族はそんなのまでいるのか……。

 人魚を見るなんて、そんな経験ができると思わなかったぜ。

 ま、惜しむらくは…………人魚が胸毛の生えたオッサンだということかな。


「なんでオッサンなんだよ……」

「え? 普通は男の人でしょ?」

「何その普通。異常にしてくんないかな。頼むから異常にしてくんないかな」


 などと話していると、気付けば国内に。

 建物だったりは割りかし綺麗だ。

 それどころか建築レベルの高さが伺える。

 これは人間が作ったものをそのまま利用しているのか、それとも魔族で新たに作り上げたのか。


 どちらにせよ、入ってすぐに分かる。

 住みやすい国だと。


「スゲー高い塔。いくつも立ってるけどなんなんだろう」

「えっと、ちょっと待ってね……。塔に住んでるのは、この国の貴族に当たる人達だって。貴族っていうのは、いわゆる魔王様達がこの世界に存在した時と同じころに生まれた第1世代が多いみたい」

「魔族にもそういうのあるんだな」


 人間社会とやっぱり変わらんな。

 歩いてる奴らも、基本的に人間と同じだし。

 そりゃちょっとは違うけど。

 というか、やっぱり魔王が異世界から来たという話は知らないわけか。


「お、獣耳だ。アイラと同じシルヴァード族じゃね?」

「うん。そうだね」

「声掛けてみるか」

「え〜? やめといた方がいいよぉ。私達ってほら、プライド高いから。知らない人とはあまり話したがらないんだよ」

「なるほど恥ずかしがり屋さんか。じゃあ辞めとこう」

「なんか解釈の仕方変わってるけど……」


 もう少し国の奥の方へと進んでいく。

 アイラが帽子を脱いで耳を見せているからということもあるが、俺は全く不審がられていない。

 帽子1つでここまで変わるとは驚きだ。


「ん……?」


 二人で散策していると、一人の少年を見かけた。

 その少年はボロ切れを身に纏い、一生懸命物を運んでいる。

 少年には首輪がついており、隣にいる女性の手元へと鎖で繋がっていた。


 この光景は何処かでも見たことがある。

 これは…………最初に訪れた国、シャンドラ王国でシーラを見かけた時と同じだ。


 要は奴隷の証。


 だけどその時とは状況が違う。

 鎖に繋がれている少年は人間で、その隣にいる女性が魔族であるということだ。


 シャンドラ王国の時とは立場が反対なんだ。


「奴隷…………っていうのはやっぱり魔族でもあることなのか?」

「そう……だね。同じ人間であるヤシロには辛いかもしれないけど、耐えて欲しい」


 シーラを見た時は、事情を何も知らなかった。

 思わず正攻法で解放したけど、お互いに同じような事をしていると知ってしまった以上、あの時ほどの憤りは感じなかった。


 それに、敵の中心地で暴れるほど俺はバカじゃないし、そんな度胸もない。


 だから彼には申し訳ないけど、無事を祈ることしかできなかった。


「大丈夫、変なことはしないよ。人間も向こうでは魔者を奴隷にしてるんだ。こっちでも同じことをしていても不思議じゃない」

「そっか…………」


 ……………………なんか重苦しい雰囲気になったな。

 こういう時は俺から何かを話して切り替えないと…………。


「おい嬢ちゃん」


 突然背後から声を掛けられた。

 アイラと同時に振り返ると、そこには横にも縦にもでかい大男が立っていた。

 下の歯から牙が二本飛び出ているから魔族なのは間違いない。

 というか背丈が2m超えているからそれだけでも間違いない。


「な、何?」

「俺は奴隷商をやっている者だから分かるが…………そっちの男、そいつ人間だろ」

「「!!!」」


 なぜバレた!?

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