アクエリア大陸 裏勢力編

第136話 そうだ、航路へ行こう

「まず、ここから海を渡ってサンクリッド大陸に行くにはどうしたらいいのか、という問題点だ」


 現在の場所を把握して、帰るルートを定める。

 これはやっておかなければ先々で苦労することだ。

 細かな部分はその場その場で考えていけばいいが、大まかなルートは先に決めておく。


「ここはそもそもアクエリア大陸のどのあたりになんの?」

「領土的には魔王ジェイドロード様の領土になるよ。ここから海岸を目指すとしたら、魔王ローズフィリップの領土を通るのが一番近いと思うよ」


 ローズフィリップには様を付けないのか。

 魔王同士では協力し合わないっていうのも本当っぽいな。

 ジェイドロードは確か……人類側の『裏』と繋がっている魔王だったっけ。

 ローズフィリップは…………エロいお姉さんだっけ?


 まぁそれはそれとして、この大陸を東西南北に分けるとして、東側にサンクリッド大陸へ繋がる航路があるということは、今いる場所は大陸の南南西辺りになるらしい。

 ここからは、直接サンクリッド大陸へ繋がる海岸へは行けないようだ。


「そうすると、俺達はローズフィリップの領土を通ることになるのか。アイラよりも俺の方が身バレしないようにしないとダメだな」

「身バレしないようにしないといけないのは私も同じだよ」

「何で?」

「私の耳はシルヴァード族にしか無いもので、同じ魔族といっても支配地域が違えば、排斥されることに変わりないの。だから私が耳を見せびらかせて通れば、向こうからすれば敵と同じなわけ」


 アイラが帽子のツバを掴み、深々と被り直す。


「人間でもそういう国はあるでしょ?」

「たしかに……」


 この世界ではまだ見たことがないけれど、元の世界だと人間同士の争い事は絶えない。

 共通する敵がいなければ、この世界もそうなっていたんだろう。


「でも案外普通にしてればバレない事の方が多いよな」

「魔族と人間の基本の姿は同じだもんね。見た目で違うところといえば、髪の色だったり身体の一部が人間と違ったりする所ぐらいだし」

「そうなんだよね」


 アイラは割りかし頭が良い。

 物事を論理的に考えることができ、その他知識についても豊富だ。

 魔法が得意でない分、努力でどうにかできる部分を伸ばしたということだ。


 でも魔法も別に使えないわけではないんだよな。

 魔力量もあるし、魔力操作も上手い。

 問題は魔法をアレンジして、攻撃魔法として繰り出すことができないんだよなぁ。


 炎魔法とかならそのまま発動するだけでどうにかなるけど、水魔法になると発想力が必要になる。

 水魔法を派生させて氷魔法とか使えるようにならないかな。


「そうだ。私が使ってた帽子を一応被っていく? 何もないよりバレにくいと思うよ?」

「お、いいねぇ。じゃあ借りていこうかな」


 アイラは部屋の奥のタンスをゴソゴソと探すと、アイラが被っている山高帽と同じ形で、赤色の帽子を引っ張り出してきた。


「結構目立つ色してんなー……」

「あ、じゃ、じゃあ私がこっち使うよ! 私が被れば別に変じゃないし」


 そう言って自分の被っていたものと取り替えた。

 確かに違和感はない。


「ヤシロはこっち使って」

「お、サンキュー」


 俺はアイラの被っていた黒色の帽子を頂く。


 よし。

 これをメル◯リで売ればマニアが…………。

 嘘だよ。

 例えあっても売らないよ。

 家宝にするよ。


「じゃあ行こうか」


 またしても長い旅が始まる。



 ※



 シルヴァード族の村を出てから何日かが経った。

 これまで表立ったトラブルは特に起きていない。

 いくつかの集落に立ち寄ったが、そこはまだ魔王ジェイドロードの領土内であり、アイラがむしろ率先して帽子を脱いで耳を見せつけていたおかげで、俺もシルヴァード族だと見られていた。


「ここからもっと東……つまりは右側に進んで、ローズフィリップの領土である『ブラーゼ属国ぞっこく』を目指す」


 途中で買った魔族領土内のポイントが示された地図を見ながら、今後の行動を話し合う。


 お金や買い物方法などは全てアイラに一任していた。

 金銭の流通が人類側とは違うということもあるが、何よりも買い物の仕方がアイラは上手い。

 良かろう安かろうはしっかりと見極め、高いもので必要なものはしっかりと値切る。

 俺と年齢がそれほど変わらないにも関わらず、一人で生きていただけあってしっかりしている。


 ちなみに、魔族領土内にも国がいくつか存在しているが、それらは全て『属国』と呼ばれている。


 理由として、領土は全て魔王が支配する国であり、その中で創られた国も、大元は魔王の支配下に置かれるためだ。

 そして集落や村と呼ばれているところは、主に特定の種族が住んでいるところを指す呼び名だ。


「そのためにはアレだよね。次に目指すところは『ゲヴィッター属国』だよね」

「その通りさね」

「さね?」

「地図を見る限りでは、ここが魔王ジェイドロードの最後の領土だ。ここで何かローズフィリップの領土に入っても不審がられない方法を考えないと……」


 今まで寄ってきたところは村や集落だった。

 魔族の国といえど、国になれば選択肢を増やす何かが見つかるかもしれない。


「ヤシロは大丈夫?」

「ん? 何が?」

「魔族に囲まれて生活してて……精神的に疲れない?」

「アイラがいるから別になんとも思わないけど」

「えっ!? な、なによ急に褒めたりなんかして……」

「えっ、別に褒めたつもりないんだけど……」

「えっ」

「えっ?」

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