第133話 旅立ちの朝に
「清々しい良い天気だ!」
窓から差し込む日光。
一夜明けて、陽気な天気にこちらも晴れやかな気分だ。
「んん……」
アイラはまだ寝ている。
携帯があれば『事後』っつって写真を一枚撮るというドッキリを敢行するんだが…………いかんせん文明の利器が手元にない。
ま、手元にあったとしてもツイッターに投稿して炎上すること間違い無しだとは思うけどね。
昨日のアイラとバネッサの一戦は、両者痛み分けという形で幕を閉じた。
アイラの水魔法は結局のところ、水圧レーザーといった攻撃魔法に切り替えることがまだ出来ない。
魔力操作に関してはバネッサよりも上であるために、バネッサの多種多様な魔法は全て防がれ、お互い魔力が尽きてしまったのだ。
それでも今まで馬鹿にしていた相手に引き分けるというのは、イジメていた側としては負けに等しいだろう。
気絶から目覚めた取り巻きの奴らを連れて、村の中心地へと帰っていった。
アイラにとって一対一で戦い切ることができたのは、彼女の中で大きな財産となることだろう。
「それなら俺が手助けすることも特になくなるよな」
せっかく寝ているのだから、わざわざ起こす必要もないだろう。
見た感じ、この辺りの地図といったものも見つからなかったし、このまま旅立つとしよう。
せっかく魔族としての誇りを取り戻せたんだ、人間と一緒にいるなんて知られたら、それこそ村の人と修復不可能な関係になってしまう。
「じゃ、美味い飯をごっそーさん」
「ヤシロ」
あれ……起きてた?
「何でしょう」
「それはこっちのセリフだよ。何で勝手にいなくなろうとしてるの?」
「せっかく寝てるんだから、起こさないうちにという気遣いだよ」
「…………」
アイラがじっとりとした目で睨んでくる。
なんかシーラにもそんな目で見られたことがある気がするんだけど。
恨みを買いやすい
「私も……」
「?」
「私もヤシロと一緒に行く」
おいおい何言っちゃってんの。
どうしたらそういう答えが出てくるわけ?
「一緒に行くって…………アイラが俺とついてくる理由なんてないじゃん。せっかく同世代とも同等になれたんだから、親の所にも戻れるんじゃないの?」
「パパとママは…………あの人達は、今さら私に対する評価は変わらないよ。期待なんて元々されてないし……。ヤシロも見たでしょ? 私達の一族は能力が全てで、他の人に大きい顔をしたいだけなんだよ。例え肉親であっても、私のような能力の低い人には厳しいんだ」
それはよく分かった。
最初に会った時のアイラがまんまそうだったしな。
「でも俺は人間だぜ? 人間と一緒にいるということが、この世界にとってどれだけ住みにくいことか分かってる?」
人類は魔者を奴隷として扱う以外に、共にいることは許されない。
それはつまり魔族にとっても同じことのはずだ。
魔族にとっても人間と一緒にいる奴というのは裏切り者として断定するだろう。
「でもヤシロだって今こうして私と一緒にいてくれるじゃん」
まぁ俺は元々この世界にいたわけじゃないし、魔族について強い恨みなんて持ってないから。
それどころか魔者と一緒に行動してたしな。
シーラは元々奴隷として買い取っただけだし、ゼロは人間に恋した変人だから、あまり参考にならないかもだけど。
「俺には帰るような故郷は…………ここには無いし、魔族と一緒にいようが問題ないからな」
「それなら私も……!」
「帰ってこれなくなるかもよ?」
俺はこの世界で帰る所はない。
目指すところはあるけれど、誰かが待っててくれるような所はない。
魔族と一緒にいる所を見られたからといって、困るような相手もいない。
「人間である俺と一緒にいる所を魔族に見られれば、アイラは二度と魔族側に戻れなくなるかもしれない」
「………………」
「それどころか、今から行くのは人間側の領土だ。アイラのように綺麗な水色の髪の毛は目立つ。下手をすれば迫害を受けるかもしれないんだぜ?」
「綺麗な……」
ちょっと。
俺いま真面目な話してるんですけど。
頰を赤らめてないでリッスントゥミー。
「そういう事にアイラは耐えられるのか?」
「でも、そういう時はヤシロが守ってくれるんでしょ?」
「…………何でそういう話になるんすか」
「だってさっきから一回もダメだとは言わないし、ヤシロって何だかんだ面倒見いいもん」
「いや俺めっちゃ放任主義だからね? 子を谷に突き落とすとかじゃなくて、飛行機からパラシュート無しのスカイダイビングさせるからね?」
「私はこの村にいても生き甲斐なんて何もない。こんな村に帰ってこれなくても問題ないよ。未練なんてない」
「そうは言ってもなぁ……」
「それに…………」
「それに?」
「ヤシロは…………私の……その……耳を触り放題なんだよ? いいの? 触らないまま行っても」
なん……だと……!
アイラ自らそれを交渉材料にしてくるだと……!?
なんて…………自分の売り方を理解しているんだ!
だがしかし!
そんなものには釣られクマーーー!!
「そこまで言うなら仕方ないな。確かにそれは俺にとって大きなメリットだ。いやむしろそれだけがメリットだ」
「…………酷くない?」
「後で触らせないなんて泣きついても、絶対許さないからな」
「うっ……大丈夫……のはず」
「揉みしだいてやる」
「ちょっとー! その言い方はやらしくない!?」
「じゃあ準備しようぜ」
こうしてアイラも共についてくる事になった。
何故だろう。
やっぱり俺についてきてくれるのは魔族ばっかりだ。
魔人を使役して、魔者がついてきて。
アレ?
これ魔王と同じじゃね?
俺、魔王じゃね?
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