第132話 逆襲

 トントントントン…………。


 微かに料理をするような音が聞こえる。

 どれくらい眠りこけていたのかは分からないが、うっすらと目を開けると部屋に明かりが灯されていることから、外は暗くなっているのだろう。


 台所を見るとアイラが料理しているのが見えた。


「おはよう……」

「あ、ヤシロ起きた? 今、夕食を作ってるからちょっと待っててね」


 夕飯を作ってくれているとは……まるで新婚さんじゃないか。


 体を起こすとバキバキと骨が鳴る。

 久々に横になると体が凝り固まるな。


「これは……ランプに火を灯してるのか。アイラは火魔法使えたっけ?」

「指先に灯すぐらいなら……」

「日常生活レベルね」


 かくいう俺は雷魔法意外使えないからバカに出来ないけど。

 今が夜ということは、今日はこのままアイラの家に泊めてもらうとして、明日からどうやってサンクリッド大陸を目指すかが問題だ。


 地図があるなら地図で現在地を確認して、それなりの準備をした上でここをたないと。


「なぁアイ……」


 ガン! ガン! ガン!


 突然玄関を強く叩かれた。

 お客さんにしてはノック強すぎね?

 まるで蹴飛ばしたかのような強さだぞ。


「誰か来たけど」

「もしかして…………ヤシロは一応帽子被っておいて」


 人間だってバレたら面倒くさいもんな。

 三角帽を被って……と。


 ガチャ。

 アイラが扉を開けて外に出た。


 俺もどんな客が来たのか扉の隙間からコッソリ外を覗く。


「バネッサ……」

「ちょっとアーネスト? 何で家にいるのかしら?」


 バネッサと呼ばれた獣耳を生やした女の子の他に、数人の女の子と男がいる。


「偶然前を通ってみたら明かりがついてるから、何かと思えば…………ダンジョンのボスを倒す話はどうなったのかしら? ま、あなたのことだから、私達が居なくなった頃合いを見計らって逃げ出して来たんでしょうけどね」


 クスクスクスと周りの女の子達が笑う。

 ゲラゲラと男達が笑う。


 こいつらがアイラをダンジョンに送り込んだ、虐めている主犯格達か。

 バネッサっていうのはいかにも高飛車な感じがするな。


「そ……そんなことないよ……。ダンジョンのボス、倒したし……」

「はぁ〜? アンタみたいなシルヴァード族の恥さらしが、星降鬼を倒せるわけないでしょ?」

「い、痛い!」


 バネッサがアイラの髪の毛をぐいっと掴む。


 思わず飛び出しそうになったけど、なんとか踏み止まった。

 アイラの助けに入るとしても、まだ今のタイミングじゃない。


「証拠もないのに適当なこと抜かしてるんじゃないわよ!」

「そーよそーよ!」

「しょ……証拠ならあるもん」

「へぇ〜。またそうやって嘘つくんだ」

「う、嘘じゃないよ!」

「じゃあ見せなさいよ」


 乱暴に掴んでいた髪を離され、地面に倒れこむアイラ。


 こっから銃で一人ずつ撃ち抜いたろかな……。


「今持ってくるよ……」


 フラフラと歩いてアイラが部屋へと戻ってきた。

 思わずアイラに声をかける。


「俺が全員泣かしてやろうか? アイラがそれを望むならやってやるよ」

「ううん、大丈夫。私が一人でどうにかするよ」

「そっか……」


 アイラは鬼の首を水魔法で包み込み、浮かせた。

 果たしてコレを見せたところで彼女らが納得するのかどうか。

 いや、しないだろうな。


「行ってくる」

「おう」


 アイラが再び外へ出た。


「これだよ」

「…………プッ、あはははは! コレが星降鬼!? 冗談キッツいわアンタ。どうせそこら辺の魔物の首でしょ? まぁそれすらアンタが狩れるか分からないし、落ちてたものを拾ってきただけなのかもしれないけどね」

「ほ、本物だもん! コレが星降鬼の首だよ!」

「あーはいはい。分かったからもう。アンタ、まじウザいしさっさと死ねば?」


 バネッサが拳を振るうと、突然アイラの体が吹っ飛んでいった。

 直接殴ったようには見えなかった。

 あり得るとしたら風魔法か?


「あぅ……! うう……」

「やっぱりバネッサの風魔法はすげぇ威力だな!」

「私達同世代の中でも1番よね!」

「当然でしょ? 私は天才なんだから」


 やっぱりか。

 風魔法だとゼロが得意にしている魔法だ。

 それに比べたらショボいが…………人を吹き飛ばすということはそれなりに凄いのだろう。


「ダンジョンで死んでくれれば良かったのに……何食わぬ顔で家に帰ってるんだからムカついたわよ、アーネスト。アンタを裸にして村の真ん中に縛り付けて、この村にいられないようにしてあげるわ」

「うわぁバネッサひどぉーい」

「私なら死たくなっちゃうよぉ」

「うう……」


 さすがに限界か?

 もし本当にそうする気なら俺が……。


「私は……」

「ん?」

「私は…………いつまでもバネッサ達にやられっぱなしじゃないんだから!」


 水泡すいほうがバネッサを包み込み、閉じ込めた。

 突然のことでバネッサが苦しそうに水の中でもがく。

 バシャバシャと水が弾け飛んでいるところを見ると、中から風魔法を放っているのだろうが、アイラの魔力操作が上手いせいか、大した影響はない。


 このままだと溺死するだろう。


「バネッサ!? 何をしてやがるこの落ちこぼれめ!」


 取り巻きの男が雷魔法を放ち、アイラに命中した。


「きゃああああ!」


 アイラの集中が途切れたため、水魔法が解け、解放されたバネッサが苦しそうに息をする。


「バネッサ大丈夫!?」

「はーっ……はーっ……。こ、この……よくもやってくれたわね! 絶対に許さない! アンタらも一斉に攻撃しなさい!」


 ドンッ!


 バネッサの足元に銃を撃った。

 突然の出来事に、全員がこちらを見てくる。


「ヤ……ヤシロ……」

「何よアンタ! 誰よ!」

「一対一までなら様子見だったけど……他の奴が介入するなら話は別だ。俺が代わりに相手になってやるよ」


 正直、見てるだけというのも苦痛になってきていた所だ。

 このストレス、発散させてもらうぜ。


「誰だか知らないけど……アーネスト共々ボコボコにしてやんなさいアンタ達ーーーーーー」


 一瞬で移動し、バネッサの隣にいた男をぶん殴った。

 予想以上にめちゃくちゃ吹っ飛んでいった。


「え? 何がーーー」

つむげ、雷撃ショックボルト


 周りに聞こえないように詠唱し、取り巻きの女の子に初級雷魔法を放った。


「きゃあ!」

「ちょっ……!」


 取り巻きはあと4人。

 さすがに魔者はノーモーションで魔法が放てるだけあって、素早く魔法を放ってくる。


電光石火ライズ


 バチッと一瞬で移動し、もう一人の男の背後についた。


「確かアイラに雷魔法撃ったのはお前だよな」

「なっ!?」

「紡げ、雷撃ショックボルト

「あぎゃあああああああ!!」


 さっき放ったものよりも魔力を多く込めて、威力を数倍にしたものを撃ってやった。

 ザマァみろ。


 残りの3人も殴り飛ばし、剣圧で吹っ飛ばし、気絶させた。

 残るはバネッサだけだ。


「な……なんなのよアンタは!?」

「一人を多人数で追い込むなんて弱い奴のすることだ。そんなことも分からないのに天才だなんだってお山の大将気取り……恥ずかしくないのか?」

「シルヴァード族の一人のくせに、ろくに魔法が使えない方が悪いのよ!」

「そのろくに魔法を使えない奴に殺されかけたのは誰だ? 取り巻きに助けてもらってなかったら、小さい水の中で溺れてたぞ?」

「うるさい!」


 怒りに震えながら頰を紅潮させるバネッサ。


「まぁお前をやるのは俺じゃないけどな。アイラ、立てるか?」

「う……うん。ありがとうヤシロ……」

「邪魔者は全部片付けた。あとはアイラがやるべきことだ」

「………………うん!」


 アイラがバネッサに正面切って構える。


「バネッサ……私はあなたのことが大嫌い」

「私もよ。死ぬほどね」

「私はあなたに言われなくてもこの村を出るつもりよ。だけどその前に……全てを清算しておきたいの」

「だったら今ここで殺してあげるわよ」

「…………負けない!」


 アイラの水魔法とバネッサの風魔法が勢いよくぶつかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る