第131話 仮住まい

 滝を割り、道なりに外に出ると久々の眩しさに襲われる。

 洞窟の中は基本暗かったから、日差しがキツイ。

 転移する前も外は明るかったし、これは1日経って夜が明けたってことでいいのかな。


 道幅は10mほどで、どうやら洞窟は滝の中腹部あたりにあったようだ。

 両脇は落ちたら滝壺にまっすぐドボンといきそうでビビる。

 高さ的には30mぐらいありそう。


 洞窟からそのまま緩やかに下るように道が続いており、悪ふざけしなければ問題なく下ることができる。


「アイラを虐めてた奴らは外で見張ってるって話だったよな……」

「でもさすがにもういないみたいだね……あ、でも村まではすぐだよ。うちの村が1番星降鬼の洞窟から近いんだ」


 前の2つは人間側の領土にあったけど、ここは魔族側の領土にあったってことか……。

 普通に探してたんじゃ見つからないだろうな。


 20分ほど川沿いを歩くと村が見えてきた。

 ここからじゃ全体が見えないくらいには大きい。


「アイラの家に直接行く感じ?」

「家……っていっても私が一人で住んでるんだけどね」

「親御さんは?」

「……私が出来損ないだからって、捨てられちゃった」


 えへへと笑いながら話しているが、無理しているのはすぐ分かる。

 少し劣るからといって自分の子供を捨てるって、どんだけプライドの高い種族なんだ?


 でもアイラも自分でシルヴァード族だって自慢してたし、そういうことなんだろうか。


「まぁ同じ村には住んでるんだけどね」

「なおさら変だよそれ。俺が口を出すような事じゃないんだろうけど……」

「弟がいるんだけど、そっちは私よりもよっぽど優秀なんだ。水魔法をアレンジさせて氷魔法を使うの」

「でもアイラも洞窟で水魔法による攻撃の仕方を覚えたろ?」

「それでも……私なんかじゃ全然敵わないよ。パパもママも、今さら私に対する評価は変わらないと思う」


 そんなことはない、なんて軽々しく口には出来ない。

 無責任な言葉ほど相手を傷つけるものはないから。


「入り口には誰もいないな」

「この辺りで特に襲われることもないからね。見張る人がいる必要なんてないし、普通の人達にとっては住みやすい場所だと思うよ」


 それは暗に、自分は住みにくいと言っているのか?


「私の家は少し離れた所にあるから」

「おっけ。その鬼の頭、魔法だと目立つから俺が持ってくよ」

「でも重いよ?」

「確かにちょっと重いけど、持てないわけじゃないさ」


 そう言って地面に置いた鬼の首を持つ。

 ズッシリと重力に身を任せる首、ガルムの恩恵が無ければ絶対に持てない重さだ。


「大丈夫なの?」

「マッチョな俺には超余裕」

「どこがマッチョ……?」


 村の中を進んでいくが、アイラはなるべく人が多いところを避けて裏道を通っていく。

 それは俺への配慮なのか、それとも自分が見つかりたくないのか。

 その真意については分からなかった。


 村で見かける人達はアイラと同じように青色の髪の毛をしている人が多かったが、中には薄い水色や白色に近い人達がいた。

 必ずしも青色というわけではないようだ。


 しかし、共通するのは獣の耳がもれなく付いていること。

 老若男女問わず、種類は違えど頭の上の部分についている。


 種族の問題上仕方ないことではあると思うけど、ちょくちょく目に毒だから男は全員それ引きちぎれ。


「着いたよ」


 アイラの家は他の人達の家よりもお粗末で、家というよりも小屋に近かった。

 扉を開けて中に入るとワンルームで終了。

 広さは8畳くらいあるが、いかんせん所々ボロボロだ。

 欠陥工事というか、むしろ欠陥じゃないところのほうが少ない。

 もし不動産屋にこの家を紹介されたら、紹介人をコンクリートで固めて海に沈めるレベルだ。


「これが家……」

「何さ。でもちゃんと台所とかあるんだよ!」

「ほんとだ。だから料理はあんなに美味かったのか」

「そ、そうでしょ? 料理は得意中の得意なんだから」


 またしてもえっへんと無い胸を張るアイラ。

 魔法が苦手な分、別の所で頑張ってたんだなぁ。


「布団は……あぅ……一枚しかない」

「雑魚寝でいいぜ」

「それじゃぁ悪いよ」

「いや、アイラが」

「私が!? 今のはヤシロが雑魚寝で大丈夫って流れじゃないの!?」

「お客さんを床で寝させる気かよ」

「厚かましっ! どういう感情でその発言できるの!?」

「冗談冗談。洞窟内だと岩ばっかりだったし、それに比べたら全然床でマシ」

「じゃあ…………せめてオールドベアの毛皮を下に敷いて使って」

「魔物?」

「うん。この辺りに出てくる魔物から取れた毛皮なんだけど、普段はそれを掛けて寝てたから。これ敷くだけですごい違うと思う」


 うお、確かにフワフワだ。

 それにアイラの帽子と一緒でいい匂いする。


 …………変態か俺は! そうだ変態だ!


「はぁー疲れた! じゃあもう寝るよ俺は」」

「う、うん……。人の家来てすぐに寝るっていうのも凄いね……」

「そうか? だってマジで疲れてるし」

「でも……仮にも女の子の家来てさ…………すぐ寝るって……もっと緊張とか……」

「え? 女の子? どこに?」

「ちょっと! 目の前にいるじゃん!」

「………………へっ」

「何でいま胸見たの!? ねぇ!? まだ成長期だからこれからだもん!」

「でも魔力覚醒は終わってるんでしょ?」

「お……終わってるけどぉ……」

「…………おやすみ」

「哀れむような笑顔やめてよぉ!」

「大丈夫だって。胸なんかなくたってアイラは可愛いから」

「え……ちょ、何よ急に……」

「耳とか」

「結局そこ!? 全然嬉しくない!」


 ケラケラ笑いながらアイラをからかっている間に俺は、知らず知らずの内ににまぶたを閉じていった。

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