第128話 決め手

 左手に『獅子脅し』、右手に『雷鳥』を把持はじし、ガルム流の剣術を用いて型のはまらない戦い方をする。

『獅子脅し』は一点集中型散弾銃ショットガンから片手銃ハンドガンに戻した。


 一点集中型散弾銃ショットガンは片手で持つには衝撃が大きすぎて、0距離でないとブレすぎて当たらないからだ。


「部屋の中には入るなよ。というか、入り口にすら近付くなよ。上級魔人は離れた位置からでも攻撃してくるから」

「わ、分かった」


 上級魔人は咆哮を上げたものの、定位置から動こうとしない。

 やはり部屋に入ってくるものにしか攻撃を加えないよう、命令式が組まれているようだ。


一点集中型散弾銃ショットガンでも致命傷を与えられない以上、遠目からの攻撃じゃ意味がない。魔導級の雷魔法も室内で使うと自分にも被害を被りかけない。接近戦で斬り落とすしかないよな」

「ヤ、ヤシロ!」

「ん?」

「…………死なないでね」

「…………了解!」


 地面を思い切り蹴飛ばした。

 最速で上級魔人の元へと向かう。


 俺が部屋に入った瞬間に、上級魔人は凶々しい剣をどこからか取り出し、構えた。

 下級魔人は素手、中級魔人は長剣ちょうけん、上級魔人は凶剣きょうけんだ。


 ただし、魔人は剣は使えど、剣術は使わない。

 魔人にあるのは機械的に動く知能と、人間を超える身体能力だけだ。


 だから上級魔人が振りかぶってきた凶剣は、フェイントなども一切使わないため、僅かに剣筋を避けるだけで攻撃を捌くことができる。

 なお、その攻撃を捌く動体視力と身体能力があればの話だけど。


 凶剣をかわしながら上級魔人の右腕を斬りつけた。

 鎧のような見た目の体から、赤い血が飛び散った。


 だが致命傷ではない。


 続け様に、上級魔人が左手で殴ってくる。

 俺は両足の力を一気に抜いて、グニャリと立ち膝の状態になり、頭の上をこぶしが突き抜けていく。


 伸びた腕に対して発砲した。


 魔力で作られた弾が銃口から飛び出し、頭の上にある上級魔人の腕に当たる。


 またしても鮮血が散った。

 だがこれも大したダメージではない。

 表面を撫でたような、皮膚が少し陥没した程度のダメージだ。


 片手銃ハンドガンモードでは、上級魔人に対してほとんど効果がない。

 やはり決め手は『雷鳥』か。

 いくら上級魔人の防御力が硬いといっても、ダメージは蓄積されていく。


『雷鳥』は軽空石と呼ばれる珍しい石で作られた剣だ。

 石だからサビもしないし、刃こぼれもしないほど強度が高い。


 俺の太刀筋さえ悪くなければ折られる事はまずないだろう。


 一度距離を取るために離れる。


 構わず上級魔人は追撃してきた。


「紡げ、雷撃ショックボルト


 初級魔法と言えど、魔力を大きく込めれば威力はそれに比例する。

 下級魔人程度なら一撃で死ぬレベルの魔力を込めたが、上級魔人がその追撃を止めることはなかった。


「グオアアアアアアアア!」

「くっ!」


 思い一撃を『雷鳥』で受けきる。

 だが、片手で受けきることが出来ずに、力で押し負け、脇腹に押し返された『雷鳥』が浅く刺さった。


 チクリとした痛みを感じる。


電光石火ライズ!」


 一瞬にして30m近く離れた位置に移動した。

 あのまま受けていたら、上半身と下半身がバイバイしなければならなかった。


 気付けば目の前に、いつもの宝箱がある階段の前にいた。

 正直な所、このまま階段を登っていくことも可能だ。

 わざわざ馬鹿正直に上級魔人と戦う必要もない。

 でも、ここで上級魔人を一人で倒すことができたのなら、それは自分にとっての大きなステータスになる。


 魔王という存在を自分の目で目の当たりにした以上、この世界で生き抜くためには力がいる。

 今よりもっと、世界に通用する力を。


 世界を救う力だとか、困っている全ての人を助けられる力だとか、そんな大層なものは求めていない。

 ただ、自分の手の届く範囲の人を守れる力だけで充分だ。


 俺は勇者でも、英雄でもないのだから。


「そのために、お前を斬り捨てる」


『獅子脅し』を拳銃入れに仕舞い、『雷鳥』を両手で把持し、攻撃に備える。


「グオアアアアアアアア!!」


 階段に近づいたからか、ブチ切れたように咆哮をあげる上級魔人。

 恐らくはアレが来る。


飛撃ひげき!」


 両手で『雷鳥』を振り落とし、衝撃がくうを切って上級魔人へと向かっていく。


「グオアアアアアアアア!」


 上級魔人が凶剣を振り回し、飛撃と同じ斬撃が幾重にも重なって、部屋の至る所へと飛んでいく。

 俺が放った飛撃は見事に相殺された。


 さすがに片手で衝撃波を飛ばせる上級魔人に、両手で放つ俺が勝てるわけがない。

 それなら無理して張り合う必要はない。


避雷神ひらいしん!」


 体に纏った電流が、無造作に飛んでくる斬撃を全て散らした。

 物体でなくとも、魔法でなくても弾くことができる最強の魔法。

 絶対的な防御。


 だけど決して過信はできない。

 なぜなら、その絶対的な防御を持っているにも関わらず、死んだ魔王を知っているから。


 もしかしたら相手の魔法を無力化するような敵がいるかもしれない。

 その時に対応できるように、この魔法は奥の手として使っていく。


「グオアアアアアアアア!!!」

「確か3代目勇者のグリムが使っていた神剣流は…………」


 剣道のように剣を構える。

 右足を半歩前に出す。

 現在も斬撃は飛んできているが、全て弾いてるため全く気にならない。


「このまま踏み出し…………最速で敵の首を……斬る!」


 一直線に飛び出す。

 上級魔人の動きがスローモーションに見え、斬撃が横へと逸れていく。


 残り数メートル、上級魔人が剣を振り下ろしたタイミングで、避雷神の性質を弾くのではなく引き寄せる方に反転。

 さらに振り下ろそうとしてくるよりも速く、首元へと剣を突き刺した。

 俺の力と、避雷神で引き寄せられる力により、鎧のような首元ですらも、剣が貫通した。


「ゴッ……ゴアッ……」


 上級魔人が大量に吐血する。

 俺は即座に『獅子脅し』を掴み、大量に魔力を流し込んだことで、カチリと音を立ててたまからたまへと変化したのを確認した。


「喰らいやがれ!」


魂心こんしんの一撃!』


 銃口から放たれた光が上級魔人を包み込み、ギュルギュルと回転した後、赤いビー球に変わり地面に落ちた。


「勝った……勝ったああああ!」


 この世界に来てからの勝率の悪い戦績に今日、大きな一勝が刻まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る