第129話 3つ目の強化メモリ

「すごいすごい! 本当に一人で倒した!」


 アイラがこちらへと駆け寄ってくる。

 俺は赤いビー球を拾った。


「俺もビビった。これまでに手に入れた技を駆使したらここまで余力を残して上級魔人を倒せるようになってんだぜ? 素直に嬉しい!」

「ヤシロってもしかしたら魔王様と同じくらい強いんじゃないの?」

「流石にそれはないだろ」


 グロスクロウみたいな奴を一人で倒すなんて想像、全くできない。

 でも魔王の右腕である使徒は倒したんだよな。


「じゃあ……後は伝説の武器を取るだけなんだよね?」

「ああ。あそこにあるのがそうなんだよ」


 俺が指差した先には、階段の上に置かれた宝箱がある。

 もう今までに2回見たことがある景色だ。


「ちょっくら行ってくるよ」

「うん」


 階段を駆け上がる。

 背後からの脅威を一切気にしなくていいというのは、こんなにも清々しいものだったなんて。


 宝箱に辿り着き、一呼吸置いてから蓋を開ける。

 出でよ神龍シェンロン! とか言いたくなるな。

実際にでてくるのは魔王なわけだけど。


 開けると同時に世界が固まり、ヴィルモールの残留思念が現れる。

 随分と久し振りに会う感じだ。


「ついに3つ目か」


 よう、順調だろ? 見てくれよ。

 上級魔人も倒してきたんだぜ?


「お前のこれまでの記憶は全て覗いた。上級魔人を倒したのは凄いことだが、俺の作った武器をあまり活用してないんじゃないか?」


 仕方ないだろ。

 火力不足がどうしても否めないんだよ。

 一点集中型散弾銃ショットガンは確かに凄いけど、上級魔人には効かなかった。


「メモリ不足……ってわけじゃないが、その武器の本質は魔人を使役できるところにある。あまり出し惜しみしないで使うべきだな」


 使うタイミングがなぁ……。

 ところで、俺の記憶を覗いたんだったら、魔王の一人グロスクロウを倒したことも知ってるよな?


「ああ」


 魔王ってのはどいつもこいつもあんなに化け物じみてる奴ばかりなのか?


「いや、グロスクロウを人間が殺したというのは正直なところ驚いている。奴の戦闘センスは魔王の中でもトップクラスで、上から数えた方が早いぐらいだ」


 そうなの?

 魔王が全員グロスクロウみたいな強さってわけじゃないの?


「魔王といえども、個々の能力には差がある。戦闘向きなスキルから、俺のように非戦闘向きなスキルのようにな」


 ちなみにヴィルモールのスキルってなんなの?


「…………教える必要はないだろう」


 何だよケチだな。


「その代わりに他の魔王について教えてやろう」


 同族を売りやがった……。


「魔王の中で最も戦闘能力が高いのは、バレットナイツ、次いでガゼル、3番目にグロスクロウだ。お前らが倒したのはこの位置にいる奴ということになる」


 じゃあ他の魔王はグロスクロウに比べれば弱いって解釈でオケ?


「実際の戦闘になれば、どうなるかは知らん。俺の知識も死ぬ前のものまでだ。他の奴らがそれ以降に何かしているかもしれない」


 なるほど……。

 あ、他にも聞きたいことあるんだけど。


「手短にしろ」


 前にヴィルモールは、『魔王も異世界から来た』って話してたよな?

 この部屋に入る資格があるのも異世界から来た者だけって話でさ。

 あっちにいる魔者のアイラも、魔族だから開けられるかと思ったんだけど開かなかったんだよ。

 それってどういうこと?


「異世界から来たというのは俺達魔王だけだ。魔族の寿命が長いといっても、当時から生きているのは魔王ぐらいのものだろう」


 でも魔物とかって、『魔の者が連れてきた生物だから魔物』って言うんだろ?

 魔者とかも異世界から来たんじゃないの?


「それは人間が勝手に決め付けてそう呼んでるだけだろ。魔者や魔物は、俺達がこの世界に来た時に生じた瘴気に当てられて生まれた生物だ。魔者も元はこの世界の何かしらの生物だったはずだ。あのガキも、この世界で生まれた魔族の子供なんだろ。なら異世界人とは呼ばない」


 なるほど……確かに。

 そうするとアイラは3世代目あたりの魔者ってことか。


「それだけか?」


 あと一つだけ!

 物体転移魔導砲についてなんだけど……ヴィルモールはそれを造ったことはある?


「それか…………俺も構想はしたことがある。仕組みはお前の持つ銃と同じだ。お前の記憶からその形状の武器にしたが、要は魔力を別のものに変換させ、それを射出させるというアイディアが、俺の考えた武器の本質だ。最終的な到達地点を魔人の使役化に持っていったが、その制作途中の段階で転移も作れた」


 結局作らなかったのか?


「場所を定めることができるのなら使えたかもしれないな。だが、無差別に転移させるだけなら意味がない。ガゼルの使徒が使う転移魔法の下位互換なんざ興味ないからな。何よりも、魔力の消費が大きすぎて使い物にならなかった」


 やっぱりお前も作成を考えてはいたんだな……。

 その攻撃を防いだりとかって出来ないのか?


「お前の雷魔法の『避雷神』を使えば回避できただろう。だがどちらにしろ、その場合も連れの女は転移しただろうがな」


 やっぱりそうか……。

 あの状況じゃ、どうしようがシーラとは離れ離れになってたってことか。


「そろそろ時間も限界のようだな。強化メモリは既に付与してある。前回のを威力型だとするならば、今回のコンセプトは連射型だ。効率良く使えよ」


 連射型…………機銃掃射マシンガンか!


「最後に一つ忠告しておく…………ベルファイアには気を付けろ」


 そう言い残してヴィルモールは姿を消した。


 ベルファイアって確か、魔王ベルファイアの事だよな?

 気をつけるも何も、魔王は全員気を付けてますけど。

 抽象的なアドバイス過ぎて参考にならんな。


「ヤシロー! 何か入ってたー!?」

「バッチリあったよ」


 ホントは何も入ってないけどね。

 説明しようにも、何でヴィルモールが現れるのかは俺も仕組みがよく分からないし、特に話すことでもないか。


「じゃあ戻ろうか。いじめっ子達の所に」

「何でそんな言い方するの!?」

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