第126話 風穴
星降鬼が体制を立て直し、再度こちらへと向かってくる。
俺は『獅子脅し』を抜いて連続して撃った。
星降鬼の体に当たるたびにガキンという金属がぶつかり合うような音が響く。
血が吹き出すわけではなく、当たった部分が砕けていることから、まるで大理石を削っていくようだった。
鬼が再度棍棒を振り下ろしてきたが、現在進行形で『避雷神』を使用中のため、鬼はまたしても反発するように吹っ飛んでいった。
「すご…………」
「魔法の力って偉大だよな。いくら身体を鍛えようが、剣術に優れていようが、近づけなければ意味がない」
本当ならこの鬼を倒すのは至難の技のはずだ。
『獅子脅し』でも削りきれない硬さ。
通常の剣では傷一つつけることすらままならないだろう。
そして身体の防御力はそのまま攻撃力に直結する。
鬼の攻撃を一撃でも受ければ致命傷は免れない。
俺自身は勇者の加護だかなんだか知らないけど、ガルムの影響で多少の物理攻撃などには耐性があるみたいだ。
それでも頭を殴られれば一撃で死にそう。
だからこの魔法はまさしく神がかってる。
物体だけでなく全ての魔法を弾き、引き寄せることができるこの力は、敵を一切近づけず、自身がいる場所を最強の
そしてこちらからは高火力の遠距離攻撃だ。
「
銀色の銃がバチバチと発光し、姿をショットガンの形へと変えていく。
すぐに魔力を込めて弾を装填させる。
通常の30倍の魔力を流し込み、ガシャコンッという音と共に装填が完了された。
『避雷神』に『
「この一撃、弾いた奴はいたけど防いだ奴はまだいない。お前はどうだろうな」
引き金を絞る。
ドンッッッッッッ!!
「ダンジョンボスでも、防ぐことはできないか」
「ええー…………」
鬼はそのまま意識を失ったかのように倒れた。
「今のもヤシロの魔法なの?」
「魔法…………じゃないけど、魔力を用いて攻撃する武器だよ。他のダンジョンも踏破したって言ったじゃん? ヴィルモールが残した武器さ」
「ホントに存在したんだ……」
「魔族の間でも有名なん?」
「そりゃあ有名だよ。それを手にすれば魔王と同等の力を手に入れられるとか言われてたし。あ、だからヤシロは魔人を使役できるの?」
「そうだぜ。その下級魔人もこの武器のおかげさ」
「へぇ…………ごめんね嘘だと思ってて!」
これでアイラの信頼はそれなりにゲットできたな。
というか、なんか俺って人よりも魔族の方が仲良くなったの多い気がする。
なぜだ。
まさかコミュ障が魔族には通じないからか。
「とりあえずこの鬼の首を持って帰ろうか。そうすればアイラがバカにされることなんてないはずだ」
「でも凄い重そうなんだけど……というより頭斬り落とせるの?」
「確かに……」
『雷鳥』で斬れるか微妙だな……。
同じ硬いでも、上級魔人の肉体を斬るのと石みたいなこいつを斬るのじゃ訳が違う。
下手したらこっちが折れそうだ。
「じゃあ地道に銃撃で削っていくか」
ガリガリと削れていき、10発ほど撃ったところでガキン! と根元からとれた。
「パラパラッパラ〜。見事鬼の首を手に入れた」
「何その不穏な言い方……」
今なら慣用句の〝鬼の首を取ったように〟をリアルで行うことができるよ。
「お……結構重いなこれ……」
「ホントだ……これ持ってけないよ」
俺でもちょっと手こずる重さだ。
アイラが持てるわけがない。
でも俺達には魔法があるじゃないか。
「アイラ、水魔法でどうにかできない?」
「えーーーーーー」
水魔法で鬼の頭を包み込み、宙に浮かせる。
そうすることで持ち運びが可能になった。
「水魔法で包めばその中には重力が発生しないのか……」
「こんなことできるなんて私も知らなかった……」
「これ人にやったら水責めの拷問になるんじゃね?」
「確かに…………。試していい?」
「いいとも〜! って言うわけないだろ! 下手したら死ぬ奴だぞそれ!」
「イイじゃん減るものじゃないんだから!」
「減るどころか命が消滅しそうなんだが!?」
「ケチだなぁ」
「命を出し惜しみしてケチと言われる日が来るとは思わなかった」
自分でも攻撃魔法が使えるんじゃないかと思い始めてから調子乗り始めたな。
いや悪いことじゃないけど、俺を実験台にしようとするのはやめてくれ。
「とりあえずアイラの目的はこれで達成したな」
「じゃあもう戻る?」
「冗談。ここまで来たら最深部まで行くさ。『獅子脅し』の強化メモリを手に入れないといけないからな」
アイラの目的は達成しても、俺の目的は達成されてない。
そして今回は、俺一人で上級魔人を倒してみせる。
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