第125話 現在0歩
迫り来る魔物を千切っては投げ、千切っては投げ。
ほとんど『獅子脅し』による銃撃のみで処理できてしまう。
下級魔人、中級魔人もいたが、
否、殺してしまうと
兎にも角にも足を止めることなく、グングンと地下へと下っていく。
「本当に凄いんだね……」
「ふぅ。それでもずっと動いてると疲れるな」
「それならコレあげる。ロークロイビーの蜜から作った私の特製のドリンク。疲労回復の効果があるんだよ」
「へぇそんなのあるんだ。頂きます」
アイラに手渡されたのは小瓶に入った黄金色の飲み物。
蜜というだけあって蜂蜜に近いものなんだろう。
でもそれほどドロドロはしていない。
どちらかというとサラサラしていそうだ。
一口ぺろりんちょと…………!
「あぅまぁい!」
「えっ、何て?」
「美味いなコレ!」
「で、でしょ!? ふふん、私が作ったものなんだから当然ったら当然よね」
「メチャクチャ甘いのを想像してたけど、飲み物としてはこれ以上ないほど絶妙な甘さの飲みやすさ……! 一口飲んだだけで疲れが吹っ飛んでいくようだ! うおおおおおテンション上がってきたぁ!」
「そ、そんな危ないクスリみたいな飲み物じゃないんだけど…………」
「さっきの食事もそうだったけど、アイラはこういうのは得意なんだな」
「魔法が出来ない分、他の人よりも知識や雑用部分が出来るようにならないといけなかったから、必死で勉強したんだ〜」
エヘヘとアイラがはにかんだ。
おっと、危うく右手が勝手にアイラの頭を撫でようとしていた。
シーラにしていた時のクセが。
「うん、元気出たぜ。もういっちょ頑張りますか!」
「お〜!」
その後もアイラの食事面での手助けもあり、サクサクとダンジョンを踏破していく。
そして遂に、雰囲気の変わる部屋へと辿り着いた。
恐らくここがダンジョンボスである
「ここがアイラの目的地っぽいな」
「この先にいるボスを倒せば…………私は……」
〝イジメられなくなる〟と言いたいのだろう。
そのためには証拠が必要だ。
星降鬼の首でも斬り落として持っていければ充分な証拠になるはずだ。
そうすればアイラの目的は果たされる。
「そして俺は、アイラの耳を触り放題というわけか……」
「にゃあっ! なんか今すごい悪寒がした! ヤシロ今なにか言った!?」
「気のせいだろ。それよりも相手の攻撃を受けないように気を付けなよ。一撃でも食らえば、治癒魔法が使えない俺達は死へとまっしぐらだ」
「魔人がいるじゃん」
「これから出てくるのが下級魔人よりも上だとしたら?」
「そっか…………。うん、分かった! 私も頑張る!」
俺達は異質な部屋へと入った。
結構な広さがある。
おおよそ直径100mほどだろうか。
今までの洞窟内は、星が
しかし、この部屋ではまるで流れ星のように端から端に不透石が移動している。
どういう原理でそう見えるのかは分からないが、そのおかげで部屋の中は明るい。
そしてその中央。
恐らくはダンジョンボス、星降鬼。
体長3m近く、真っ黒な身体に光が反射してチカチカとしている。
なんだっけ。
ボスの身体の素材が何かに似ている。
あっ、黒曜石だ。
黒曜石っぽい身体をしてるんだ。
顔には大きな目が1つ。
1つ目鬼だ。
ゆっくりとその目が開く。
鬼は大きな目玉で招かれざる客である俺達をギョロリと睨みつけ、大きく咆哮を上げる。
「オオオオオオオオオオオオ!!!!」
耳をつんざくような大きさに、思わず顔をしかめる。
まるで上級魔人と同じような威圧感を与えてくる。
上級魔人よりも身体がデカイ分、初めて見たらこっちの方がビビるかもしれない。
「うああ……」
って思ってるとアイラが気圧されてら。
魔者と言っても、全ての魔物が魔族の味方をしているわけではないみたいだし、アイラも魔人を今まで見たことがないようだった。
それなら怖気付いても仕方がないか。
「どうしたよアイラ。元は一人でここにくるんじゃなかったの?」
「う…………そうだけど……こんなに怖いと思わなかったから……」
今にも泣きそうだ。
まだまだ子供っぽいところがあるじゃん。
「アイラ、その大きな三角帽は何のため?」
「……? これは……耳を隠すためなのと……帽子が似合う偉大な魔法使いになるためのもの……」
「ならコレがアイラにとっての第1歩だ。これから2歩目、3歩目と歩いていく勢いをつけるために、最初の1歩目は俺が背中を押すよ」
「……!」
鬼がこちらへ迫ってくる。
大股でドシドシと音を立てながらやってくる。
「一つでいい。自分の得意とする魔法を極めれば、どんな敵にも負けはしない!」
俺の身体の周りにバチバチッと電気が帯び始める。
鬼が手に持っていた石製の棍棒を振りかぶった。
「『
ドンッ!!
鬼が、持っていた棍棒ごと10mぐらい吹っ飛んでいった。
「え? え? 何で飛んでいったの……?」
「オリジナルの雷魔法だよ。俺は今でも雷魔法以外は使えない。それでも、こうして反則級の魔法を使えてるんだ。だから、アイラが水魔法しか使えないとしても、それを嘆くことなんてない。魔者は無詠唱で魔法を使えるんだから、努力次第でどうにかなるはずだよ」
と、雷魔法しか使えなくて散々嘆いていた俺が言ってみる。
でもそれほど間違っちゃいないはずだ。
人間はセンスがなければ無詠唱のマスター級魔法は使えない。
こればっかりは努力でどうにかなることじゃない。
でもアイラは魔者だ。
初めから無詠唱を使えるんだ。
扱い方さえ覚えれば、シーラの炎魔法のようにとてつもない威力の水魔法が使えるようになるかもしれない。
器用貧乏よりも、専門家の方が目立つものさ。
「第1歩を踏み出そうぜ」
「…………うん!」
対
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