第124話 思惑と意思
結晶獣の洞窟ではガルムに守られながら、青海龍の洞窟ではシーラとゼロと共闘しながら、そして今回の
シーラを守り切ることが出来なかった俺が、アイラを守りながらダンジョンを攻略していくというのだから笑い者だ。
これは俺自身への戒めでもある。
誰かを守ることができなければ、誰かを救うことは出来ない。
アイラには、彼女のためであるように体良く説明したが、その実、俺自身の実力を証明するのに利用してるに過ぎない。
聞こえは悪いけど、彼女にデメリットがあるわけでもない。
利用し合う対等な関係であるとも言える。
「ダンジョン攻略に何日もかけるつもりはない。出来れば今日中にはクリアする予定だから」
「えっ、無理だよそれは。だってこのダンジョンがどれだけ広いか知ってるの?」
「知らない。でもたかが知れてるさ」
結晶獣の洞窟は、地上に戻るのに3時間ほどだった。
青海龍の洞窟は目的地に着くまで10時間ほどだった。
とすれば、この洞窟もさほど時間はかからないはずだ。
最も、それは俺らの計算上の話で、ほかの人は何日もかかるものなのかもしれない。
「出て来る敵は全て俺が倒すから。ただ念のため、俺でも気付かない魔物がいるかもしれないから、これは保険」
敵がどこにいるのか、気配で察知したりすることは俺には出来ない。
もっと場数を踏んでる人とかなら出来たりするのかもしれないけど、そんな超感覚みたいなことは俺には出来ない。
だからこその保険。
俺はポーチから青色のビー球を1つ取り出し、親指と人差し指で砕いた。
砕かれたビー球から光が飛び出し、それは青い悪魔の姿へと変化した。
「ええええ!? 何でヤシロが魔人を使役してるの!? ヤシロって人間だよね!?」
「紛れもなく人間だよ。人間待った無し」
「じゃあ何で!?」
「そのうち教えるよ」
アイラが信用足る人物になった時にでもね。
下級魔人にアイラの護衛を命じ、これで準備は出来た。
「さぁ、攻略していこう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
サンクリッド大陸において、魔王シルバースターが人類側にとって重要な国家である1つ、シャッタード都市を堕としたという。
シャッタード都市は、魔王ヴィルモールがいない今、魔導科学において魔族も含めた中で最先端の技術を誇っていた。
そこに集う人も魔法に精通している者ばかりで、魔王にとっても迂闊に手を出すことが出来なかった国だ。
魔王シルバースターはどのような手を使ってシャッタード都市を堕とした?
「ガルム、何を考えている?」
声を掛けてきたのは剣聖ツォルクだ。
アクエリア大陸の滅びた国で彼を仲間に加えた。
「魔王シルバースターについてね」
「ああ、最近噂になっているな。サンクリッド大陸は荒れることになるぞ」
「人類側は勇者一行を失い、なおかつ主な主要国家の兵力も分散。それでも急いでシャッタード都市を取り戻さないと、物体転移魔導砲によって国を消される」
サンクリッド大陸全てを射程に収めている物体転移魔導砲は、魔族にとっての脅威となるはずが、人類にとっての脅威となってしまった。
「それよりも、そろそろ貴様の目的を教えろ。アクエリア大陸で私以外にも優秀な人材を勧誘し、『裏』へと引きづり込もうとしているのはどういうわけだ?」
僕はアクエリア大陸において、剣聖ツォルクのほかにも数人の人間を仲間に引き込んでいる。
闇魔法の契約によって従わせている者や、ツォルクのように利害の一致によって手を組んでいる者。
人数的には討伐隊のように見えなくもない。
「僕は僕の使命を果たしているだけさ。そのために、実力のある人間を必要としている」
「ミラージュ王国に恨みのある私を、人類に仇を成そうとしている私のような人間をか? 私は確かに『裏』と繋がっている。だが貴様は…………『裏』よりももっと直接的な何かと繋がっているように見えるが?」
「中々に鋭いね。2つだけ、僕が言えることは2つだけだ。まず僕が必要としているのは、人類を敵に回しても構わないという意思を持った人間ということ。そして2つ目は…………1つ目の目的は僕の意思じゃないということ。それだけだよ」
ツォルクが顔をしかめた。
僕の言っていることが分かっていない顔だ。
だけど僕は嘘はついていない。
僕に意思は存在しない。
あの日から僕の時は止まったままだ。
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