第122話 アイラ

「…………………………」

「…………………………」

「……………………ねぇ、付いて来ないでってば」

「出口が一緒なだけだから」

「こっち出口じゃないけど! 奥に進んでいってるんだけど!」


 食事を終えたアイラは、ダンジョンボスである星降鬼ほしふるおにを討伐するためにさらに地下へと下っていった。

 俺一人で外に向かうことも考えたけど、ここは仮にもダンジョンの中。

 下手に動き回れば迷ってしまう恐れがある。


 食べ物も何も持ってないのに迷ったら、それこそ飢餓で死んでしまう。


 それなら彼女に付いていった方が生存確率は高そうだ。

 A級の魔者や魔人がいる人工ダンジョンをソロで潜っているぐらいだし、この女の子もかなりの実力者なんだろう。


 それに何より魔者だ。


 ゼロと同等の実力を持っていると仮定してもいいはずだ。


「アイラって魔者なんでしょ? 人間のこと嫌いなんじゃないの?」

「別に好きってわけじゃないよ。ただ、私は人間よりもムカつく奴が他にたくさんいるってだけ」

「それってどういう……?」

「アナタには関係ないことよ」

「アナタ、じゃなくて名前で呼んでほしい……」

「そこ!? 今気にするところはそこじゃないよね!?」

「せっかく名前教えたのにアナタ呼びはちょっと」

「アナタだって私の名前省略して呼んでるじゃん! そっちの方がよっぽど失礼じゃない!?」

「アーネスト……ホニャララシルブプレ?」

「スゴイ適当じゃん! 何、シルブプレって! 私はアーネスト・イライザ・シルヴァード・シュールレ! 覚えてよ!」


 そんなにまくし立てなくても……。

 そりゃピカソの本名に比べれば屁でもない長さだけど、なんか4人分の名前を覚えないといけない感じがする。


「もうっ! 知らない!」


 とりあえずアイラの後について行くとする。

 このダンジョンの特徴は、結晶獣や青海龍と違い、比較的暗い。

 その中でも天井、壁、地面が点々と光る何かがある。

 この暗さと散りばめられた光。


 まるで宇宙を漂っているかのような錯覚に陥らせられる。


「スゴイとこだなここ……。この光ってる奴って何だろう」

「…………それは不透石といって、辺りが暗ければ暗いほど光を発する石だよ。珍しい石だし、掘り出して売れば結構な価格になると思う」

「へぇ……詳しいな」

「そ、それぐらい知ってて当然だもん。私天才だし」


 天才が関係あるかどうかは分からんけど、アイラは異常なまでに自信家だな。

 まるでそれが自分のアイデンティティかのように。


「………………なぁアイラ」

「…………」

「なぁって」

「何さ」

「いや、魔物来てるよ」

「えっ!?」


 俺が言った通り、正面からボロボロの衣服を纏った骸骨がガチャガチャと音を立てながら走ってくる。

 元の世界のお化け屋敷とかだったらガチビビリする奴だ。


「うわわわ!」

「ほい」


 ドンッ!


『獅子脅し』による一撃が骸骨にヒット。

 バラバラに砕け散った。


「魔物はそんなに強くないな。アイラ大丈夫?」

「………………」

「アイラ?」

「へっ!? だ、大丈夫だし! 全然、ビビってなんかないんだから!」


 ええ…………嘘下手か。


「アイラって魔法使えるよな?」

「あ、当たり前じゃん。私魔族だよ? 人間なんかよりよっぽど魔法得意だし、馬鹿にしないでよね。今のはちょっと驚いただけなんだから」

「じゃあ火魔法」

「………………今、魔力ないから」

「無いわけなくね……。魔力覚醒とかって終わってるよな?」

「とっくに終わってるよ。何でそれ聞くの?」

「いや、見た目も子供っぽいし……」

「生まれつきだよ!」


 魔法はきっとこれ得意じゃないんだろうな。

 やっぱり魔者の全員が全員、魔法が得意ってわけじゃないのか。


「ねぇ、何でそんな憐れむ感じで私のこと見るの」

「いやぁ、見方を変えて改めて強がってる所を見ると、可愛く見えるなって」

「なっ!? ば、馬鹿にしないでよね! 魔法ぐらい使えるし、見てなさい!」


 そう言ってアイラは水魔法を生成する。

 どんどんと大きな水泡が作られ、一軒家ぐらいのとてつもない大きさの水泡が出来上がった。


「おおーすげー」

「ふふん。別に魔法が使えないわけじゃないんだから」

「で、これはどうやって攻撃するものなの?」

「え? ………………攻撃は……出来ないけど」


 バシャンと水膜が割れ、大量の水が滝のように地面に溢れる。


 攻撃が出来ないんだったら、これ何の意味があるんだ?

 消火活動か?


「………………何さ」

「いや何さって…………もしかして攻撃魔法が使えなかったりする?」


 アイラがビクッと身体を震わせる。

 下を俯いて唇をキュッと横一文字に結んだ。


「攻撃魔法使えないのに、何でこのダンジョン入ったの? むしろどうやってここまで下りてきたのか」

「…………さっきの魔物が初めて会った魔物だったから」

「え、すごい運じゃねそれ」

「というか、入り口からまだ100mぐらいしか進んでない」

「ええっ!!」


 つーことは反対に進んだらすぐ出口かよ!

 完全に風景に騙されたぜ!


「何で…………一人で入ってきたんだ?」

「それは…………」

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