第123話 交換条件
「私……生産魔法が水魔法しか使えなくて……。水魔法を使って攻撃できるようなセンスもないから、同年代の人達に馬鹿にされてるの。お前みたいな奴がシルヴァード族とか、恥さらしだ! とか言われて……。だから私も売り言葉に買い言葉で、『一人でダンジョンに潜って主を倒してきてやる!』って言っちゃって……」
「で、ここにいるわけか……」
どこの世界でもあるわけなんだな、
大した力があるわけでもないのに、自分よりも弱い奴を井の中で
残念な話、案外そういう奴らの方が長生きしたりするから困る。
「その子達が入り口の所で見張ってるから、出るに出られくて……」
「ほとんど自殺教唆に近いじゃん。攻撃魔法が使えないのにヴィルモールの作ったダンジョンに入れさせるとか」
「だからダンジョンの外に出るなら、今来た道を反対に進めばすぐだよ」
そんな話聞いて一人置いていくことなんてできるかよ。
それに、どうせアクエリア大陸のダンジョンに来たんだ。
いずれはここにも来る予定だったんだから、『獅子脅し』の強化メモリをゲットしていこうじゃん。
サンクリッド大陸に戻るのはそれからだ。
「よし、じゃあここのダンジョンボスを倒して、アイラを虐めてる奴らに一泡吹かせようぜ」
「えっ!? い、いいよ迷惑かけるし! それに、ここのダンジョンは普通のダンジョンよりも魔物が強いんだよ!? 魔人もいるし……」
「人を見た目で判断しちゃダメだぜ。こう見えて実は俺、魔王ヴィルモールが造ったダンジョンは既に踏破してる」
「う……ウッソだー! 絶対ウソ! 戦う人の格好じゃないもん! スゴイ弱そう!」
ほう。
そこまでボロクソに言うかね。
どんだけひ弱に見えてるんじゃ俺は。
「さっきも魔物を一撃で倒したろ」
「それは……さっきの魔物が弱かったとか」
「おい! さっきこのダンジョンの魔物は強いって自分で言ってたじゃねーか!」
「…………」
なんか俺って結構舐められるタイプだよね。
高校生の時も部活の後輩とかによく舐められてた。
馬鹿にされてるとかそういうことじゃないんだけど、イジられやすいというか、弄ばれるというか。
今度からキレ芸でいこうかな。
なんなんだよ!!
先輩だよ!!
キレてねーよ!!
みたいな。
なんか某芸人みたいだ。
「とにかく、アイラはどちらにしろ外には出れないんだろ?」
「啖呵切っちゃったし……」
「ここで外の奴らが帰るまでずっと待機っていうのも、いつ魔物が出て来るか分からなくて危ないしな」
「でも、攻撃は出来なくても防御は出来るよ」
そう言ってアイラは水魔法を自身の周りを覆うように発動させた。
確かにこれなら中途半端な攻撃ではアイラに届かないだろう。
だけど下級魔人辺りにはすぐに突破されそうなほど脆い。
「それだけじゃこのダンジョンは生きていけないだろ」
「同年代の子の魔法は防げたよ」
「ふーん」
俺は『雷鳥』を引き抜き振り下ろし、剣圧を水魔法にぶつけた。
一瞬で水魔法が引き剥がされて消える。
アイラは驚いた様に目を見開いていた。
「こんな感じでアイラの魔法はすぐに吹き飛ばせる。ここにいる魔物が違うとは言い切れないだろ?」
「び……びっくりした……」
「そこらの魔物とかなら全然俺は勝てる。俺ならダンジョンのボスを倒す手助けをすることができる」
「でも……」
「どちらにせよ、一人でこのまま行くんでしょ? なら外にいる奴らにボスの首でも持っていって、ドヤ顔してやろうぜ」
「でもヤシロに迷惑がかかるよ……」
無償で助けるってことに抵抗があるのかな。
なら交換条件か何かつければいいってこと?
それなら……。
「じゃあこうしよう。俺はアイラに協力してこのダンジョンのボスを倒した後、地上まで送り届ける。その代わり、俺からも成功報酬を要求する」
「成功報酬……? わ、私が可能なことであれば……」
「アイラの耳を好きに触っていい権利をプリーズ」
「へぇ!?」
そう。
俺は別に金や地位が欲しいわけじゃない。
そのネコ耳を触っていたいだけだ。
俺は昔から犬や猫といった
それはもうすこぶるだ。
家で猫を飼っているが、俺が撫でようとすると逃げる。
そのくせ俺が寝っ転がっていると、ここぞとばかりに背中や頭にのしかかってきて、
だからさっきアイラの耳を触った時、感動した。
こんなにも動物の耳は気持ちがいいのかと……!
「どう?」
「い……やだやだ! 耳は触られるとくすぐったいもん! それを自由に触られるなんて嫌!」
「ならどうする? このままいじめっ子達の所に戻るか、無謀にも一人でダンジョンに潜って無惨に死ぬ?」
「う………………うう〜」
「答えは2つに1つだと思うけどね」
「………………分かった。無事に帰れたら…………触っていいからっ……」
よし、言質をゲット!
……………………ってあれ? アイラ涙目になってる。
この状況……ポリスメンがいたら俺ヤバい状況?
なんか無理強いして答えさせてるみたいな……。
社会的に死ぬやつ?
「触る時は…………痛くしないでね……」
ナニコレ良心が凄い痛む。
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