第112話 再集合するも叶わず
「ベイルがいなくなった?」
集合地点に戻ると、既にゼロ達が戻っていた。
ボルザノクが少しフラついているのが気になる。
「ボルザノクは倒れていたんだけどな、ベイルだけがどこに行ったか分からねーんだ」
「うーん…………俺とシーラは少し離れた所で戦ってたから、ここに来てたとしても分からないんだよね」
「ミリがね、何回も聞いてみてるけどね、ボルザノクは何があったか一向に思い出せないみたいなの」
「困ったな……」
討伐大隊でまた集まる前にトンズラこくつもりだったけど、ベイルを置いて抜け出すのもちょっとな……。
こうなると一度討伐大隊のほうに参加して、確認を取った方がいいかもしれないな。
討伐隊全体を指揮する『バックドラフト』は、ギルドから今回のクエストの参加名簿をもらっているはずだ。
今から再度召集をかけているのも、残りの討伐隊を確認したいからだろう。
うん、やっぱりそれがいいよな。
「そうしたら一度『バックドラフト』の所へ戻ろう。他の討伐隊も集合してる。他の討伐隊と一緒に集まってるかもよ」
「でももしいなかったら……」
「そん時はそん時だよ。ある程度覚悟しておく必要はあるけど、このクエストに参加してる以上、少なからず覚悟してきてるだろ?」
と、一番覚悟のない人間が申してみました。
誰にも心の中は分からない。
口だけなら何とでも言えるんだぜ。
俺達は今いる所から100m離れた所に作られた仮設拠点に移動した。
既に廃町を抜けた討伐隊がいくつか休んでいる。
それにしても、敵陣だっていうのに落ち着いてるな。
伊達にこの紛争地域で生き抜いてきた猛者達じゃないってことか。
アイツなんて寝っ転がって膝枕してもらってるよヤベーな。
つーかアレ『バックドラフト』のリーダーじゃね?
リーダーのスプライトじゃね?
いくらなんでもくつろぎすぎだろ。
戦場が故郷ですってか?
やかましいわ。
「スプライト、そろそろ人が集まってきましたよ」
「んー? まだいいでしょ。もう少し寝かして」
「指揮官としての務めを果たして下さい」
「ウーリーは真面目だなぁ。少しは息抜きしないとパンクするぜ?」
「あなたは息を抜きすぎなんです」
「へーへー分かったよ。よーしお前ら集まれ、ここにいる奴だけでいい、そう、もっと近づけ」
やる気のない集め方だな。
むしろ適当なぐらいが丁度いい指揮官やれるのかね。
「いいかー。こっから先は魔王シルバースターの支配地域だ。『
「1万……!?」
「そんな数の魔人を相手にしてるのか!」
「地獄絵図だな……」
1万ってとんでもない数だな。
その内の1割でいいから欲しい。
それだけ手駒にしておけば、かなり安心できるぜ。
「さっきから魔人の数が少ないのもそのせいだ。ほとんどが向こうに割かれてる状況だからな。ただ魔者の数は多い。すげー多い。あいつらも自分の土地を守るために必死こいて俺達を殺しにきやがる。だけどそんな奴らは返り討ちにしてこう言ってやれ、『ここは元々人間の土地だ』ってな。女だろうが子供だろうが容赦はいらねーぜ。人間の姿をしてるがそもそもの種族がちげーんだ。侵略者なんだ。さっさと魔王の首を掻っ切って、130年の恨みを晴らしてやろうぜ」
大したご高説だ。
伊達にA級討伐隊を率いてるわけじゃねーや。
というか、結局このまま進む雰囲気になってるけど、どの討伐隊が残ってるかとか確認とらなかったな。
討伐大隊とは言っても、所詮は同じ目的を持った個人ってことか。
「どーするよ」
「完全に読みが外れたなぁどうしよう」
「戻って確認するっすか? 意外と町中の死体とかはそのままにされてますし……」
「ボルザノク……お前はベイルが死んでると思いたいのか?」
「い、いやいや! 違うっすよ! あくまで可能性の一つとして!」
冗談にしても酷い発言だぜイエローカードだ。
しかし、これだけ待っても探してもいないということは、完全にはぐれてしまったわけだ。
ボルザノクの言うことも現実味を帯びてきている。
でもそんな簡単に諦めたくはない。
全く知らない人が死んでいるのを見た時、俺はあまり感情を揺れ動かされることはなかった。
他人に対して希薄なのか、それを現実のものとして受け入れていないのか。
思う所はたくさんあるけれど、それでも何日も一緒に旅をしてきた人が死ぬなんてことは嫌だ。
出来ることなら回避したい。
それが手の届く範囲の人なら俺が何とかしたいけど、手の届かない所にいる人はどうしようもできない。
ただ祈ることしか出来ないんだ。
「どうするよミナト」
ゼロが、ミリとボルザノクには聞こえないように俺に聞いた。
「…………………………もう一度さっきの所へもどってから先へ進もう」
「いいの? これ以上進んだら……抜け道まで戻れないよ」
「ベイルは置いていけない。このまま『ベルの音色』を放っておいて自分達だけ逃げ出すなんて難易度の高いマネ、俺にはできないな。ミリとボルザノクには先に進むことだけ伝えよう」
「オーケー」
ゼロが2人に説明しに行く。
このまま魔王の所まで辿り着いたとして、グロスクロウみたいな奴が出てくると思うと身体が震える。
殺される寸前で誰かが助けてくれるような奇跡は、そう何度も起きない。
俺達がやるのは他の討伐隊を魔王の所に運ぶ所まで。
それ以降は知らん。
若しくはベイルが見つかるまで、だ。
ガルムの思惑通りになんて進ませてたまるか。
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