第113話 知力かつ非道
魔王の支配地域に入ってからもやる事は同じだった。
敵を索敵しつつ討伐。
各所で戦闘が始まり、状況によっては他の討伐隊と共同戦線を張り、進行していく。
『
そもそも魔人の数が少ない事が大きな理由だ。
中級魔人は先ほどの一度、下級魔人に関しても両手で数えられるほどしか出会っていない。
ほとんどが魔者であり、それも大して強くない。
無詠唱なのは当然だが、ほとんどの攻撃は中級魔法レベルの攻撃ばかりだ。
厳しい環境を乗り越えてきた屈強な討伐者達の敵ではなかった。
「ああああああああ!! 離せ! 離せ人間!」
「はははは、暴れんじゃねーよ。魔者がどんな具合か確かめてやるってんだ。おい、お前ら抑えてろ、はははは」
「ああああああああ!!」
「…………胸糞ワリーもん見ちまったぜ」
「やっぱりああいうことする奴らもいるんだな」
討伐者達が女の魔者を犯している。
犯すにあたって、魔法が使えないように両腕を斬り落としている。
笑い声を聞くだけでも吐き気がするが、ゼロにとっては許し難い出来事だろう。
元々人間は魔者を奴隷として飼うことを、国家ぐるみで許可している。
シーラも元々は奴隷として売られていた。
一方の話のみ聞かされてしまうと被害者意識しか聞こえない。
何もかも全て魔者が悪いと言っているように聞こえるが、実情は人間側も魔者に対して非道なことをしている。
思考を捨てないようにするためには、他方のみならず、両方の話を聞き、精査する必要がある。
そして、魔者が身内にいる俺にはそれができる。
「俺をガッカリさせるなよ人間……!」
「堪えてくれゼロ。あんな人間ばかりじゃないって、俺が証明するから」
「…………! 頼むぜ…………ヤシロの存在が、人間と魔者が共生できるという唯一の証明なんだからな」
何とか怒りの矛を閉まってくれた。
もしこんな所で造反なんてことになれば、絶対に収集が付かなくなる。
「奴らを擁護するつもりなんて微塵もないけれど、どの世界でも戦争中にはあることなんだ」
もちろん、元の世界の曖昧な知識によるものだけど。
それでも何百年と戦争してきた世界の歴史に基づいた情報だ。
「それに、魔者の中にも同じようなことをする奴がいるんじゃないか?」
「…………一概にいないとは言いきれねーな」
「…………? 何の話?」
シーラが聞いてきた。
さっきの場面も怪訝な顔をして見ていたが、知識がないシーラには何が起きていたのかは分からないはずだ。
特に知るような事でもないし、俺が教えるというのも変な話だ。
「何でもないさ。戦争には必ず悲しい背景があるってだけ」
「…………?」
人間がやる事は魔者もやる。
つまりは奴隷の存在も
人間が魔者を奴隷にするように、魔者が人間を奴隷にしているような状況もあるだろう。
そして魔王シルバースターは、捕まえた人間を奴隷として生かしているという情報が既にある。
ソウグラス大陸で俺達が戦った魔王ガゼルの軍勢は殺戮がメインだったけど、魔王シルバースターは違う。
この支配地域のどこかに人間の奴隷がいる。
ドォォォォン!
近くから爆発音が鳴った。
それほど大きくはないけど、爆発音だと分かる音。
「魔法の応酬が激しくなったんかね」
「いや…………どちらかといやぁ爆発魔法に近い音だ。本当の爆発音って奴。引っかかる所があるから見に行っていいか?」
「分かった。ミリとボルザノクには俺が声をかけるよ」
「先に確認してるぜ」
ゼロは風魔法によって移動していった。
俺とシーラは、先行して索敵している2人に寄り道する旨を告げ、ゼロの後を追った。
場所は俺達がいた所からそれほど離れてはいなかった。
すぐにゼロの姿を見つけた。
「うげっ! なんだこれ!」
そこにはグチャグチャになった人間だった
特に1人の損傷が激しすぎて原型をとどめていない。
「ボルザノクが倒れていた所と同じだな……」
「ちょっと気持ち悪すぎ……。俺、少し離れてていい?」
死体なんか見慣れたなんて言いたくないが、見慣れたと思っていたのにここまでグチャグチャだと、流石に気分が悪くなる。
まるで電車にはねられた人みたいだ。
「さっきと似てるっすね……」
「ああ、似てるっつーか、同じだろーな。1人が原型をとどめてなくて、周りに人が死んでいる……。まるでこいつを中心に爆発してるみてーだ……」
「!! 誰か来てるよ!」
ミリの一言で全員が臨戦態勢をとる。
だが、そこにいたのはボロ布を纏っていた小さい少年だった。
10歳ぐらい……?
酷く怯えてるようだけど、何でこんな所にいるんだ?
銃口は少年に向けたままにする。
「君は……誰だ?」
俺が呼びかけるも、反応はない。
だが、一歩一歩とこちらへ近づいてくる。
その足取りや、暗く重々しい雰囲気からは、当時のシーラの姿が重なる。
もしかして……魔王に捕まっていた奴隷?
「………………て下さい」
「なに?」
「助けて…………下さい」
助けを求めている……。
やっぱり奴隷なんじゃないか?
どこか近くに捕まっていて、この機に逃げ出して来たんだろう。
「ミリ達は討伐隊だよ! 魔王を討伐しに来たの!」
「…………助けて」
「安心してくれ! 俺達は人間だ!」
それでもなお足取りも表情も変わらない。
そして、少年とは別に震えている奴がいた。
「あ……あ……」
ボルザノクだ。
先ほどから頭に手をやり、震えている。
「ボルザノク?」
「お、俺…………思い出したっす……。何であそこで倒れてたのか……」
「このタイミングで?」
「助けて…………」
少年が涙を流しながらこちらへ近づく。
少年との距離はもはや数mだ。
「そ、そいつをこっちに近づけじゃダメっすよ!! 全員早く逃げて!!」
「お、おいどうしたよ?」
「そいつらなんすよ!! 爆発音の正体はーーーーーー」
少年の体が光った。
その瞬間にゼロが最大風力の風魔法を放ち、少年を遠ざける。
ドォォォォン!!
少年の体がバラバラに爆散した。
血が、肉が、周りに飛び散る。
決して大きな爆発ではないが、近くにいるものも巻き添えにする程度の爆発。
さっきのグチャグチャの死体はこれのせいだったんだ。
「……………………」
誰しもが放心状態だった。
少年は間違いなく人間で、魔者に奴隷にされていた子だろう。
奴らは、魔者は、何かしらの方法で奴隷の体に爆弾を仕込み、助けようと近づいてきた討伐者もろとも爆破させているんだ。
「…………こんなことって……あるのかよ」
「信じらんない……。魔者はこんな酷いことまでするの……?」
「俺の時もそうだったんすよ……。他の討伐隊が奴隷っぽい人に近づいたら爆発して……」
こんなの、思い付いても普通やらないだろ……!
奴らは人間を殺すためなら、人間すらも兵器にするのか……!
「許せねぇ……! 俺がヴェイロンの所にいた時ですら、こんなやり方聞いた事がねーぜ……! どこまで腐ってやがんだ魔王シルバースター……!」
ゼロが激しく激昂する。
さっきの強姦の時の比ではない。
俺も、敵がそういうつもりで来るのなら、いつまでも殺しが出来ないなんて言ってる場合じゃねぇ。
やるんだったらとことんだ……!
「あ…………あれ! ベイルじゃない!?」
ミリが指差した所に立っていたのは、間違いなくベイルだ。
まさかこんな所にいたとは。
唐突すぎて訳が分からない。
「やっぱり無事だったんだ! おーいベイルー!」
しかし、ミリの呼びかけに反応しない。
それどころか、目は虚ろでフラフラとしている。
まるで先ほどの奴隷の少年のように。
「嫌な予感がする」
頼むからこの予感だけは外れてくれと、俺は心の底から願った。
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