第111話 回収

 シーラが起こした失態をカバーしつつ、その場にいた敵を全て排除したみなとは、怪我をさせた討伐者に謝罪した。


 大した怪我ではなかったのと、その討伐隊には治癒魔法を使える人がいたため許してもらえた。

 むしろ敵を倒してくれてお礼を言われたぐらいである。


「徐々に周りも廃町を抜けて来てやがるな。お前らも一度『バックドラフト』の所に集合するんだろ?」

「まぁ…………ちょっと仲間がまだ向こうにいるので何とも言えないです」


 湊は少し言葉を濁した。


 本当なら早々にこの町から抜け出す所ではあったが、中々抜け出せずにズルズルとここまでやって来てしまった。

 さらに、また討伐隊で集合しようものならば、なし崩し的に魔王の元へと向かって行ってしまいそうだからだ。


「とりあえずゼロ達と再度合流して……」

「下級魔人だ! 7体来るぞ!」

「……どうするの?」

「……とりあえず倒してからにするか」


 湊は下級魔人であれば時間はそれほど時間はかからないと考え、他の討伐隊の援護をすることに決めた。



 一方でゼロとミリは、ベイルとボルザノクの元へと来ていた。

 だが、その場に2人の姿はない。

 数名、ズタズタな姿で死んでいる討伐者と魔者が死んでいるため、ここで戦闘があったのは間違いないだろう。


「2人はどこに行ったんだ?」

「まさか……殺されたなんてことないよね……」


 ミリが心配そうに声をあげる。


 ミリが心配するのも無理からぬことである。

 元々2人の実力はそれほど高くない。

 単身ではB級討伐者であり、一騎打ちでは下級魔人にすら殺されてしまう。


 それを3人の連携により、下級魔人、引いては中級魔人とも戦えるレベルになるのだ。

 ミリが欠けただけでもそのバランスは崩れてしまう。


 その中で殺された討伐者達の姿を見れば、ベイル達も殺されてしまったのではないかと考えるのも致し方ないことである。


「見た感じだとここに2人の死体はねーな。敵の死体もあるし、戦い終えて別の場所に移動したんじゃねーのか?」

「それならいいんだけど……」


 ゼロは死んでいる討伐者を確認し、その死に方に疑問を抱いていた。


 1人は完全にその原形を無くしており、慣れていないものが見れば吐き気を催すほど凄惨な状態である。

 他の死体はどこか一部が欠損しており、まるで爆発にでも巻き込まれたかのような死に方をしている。


 だが、この辺りの建物で爆発で壊れたような所はない。

 考えられるのは爆発魔法による攻撃だが、爆発魔法は扱いが特に難しい魔法であり、人間でも使えるのは極一部で、魔族においても扱えるのは、炎魔法のスペシャリストであるレッカ族ぐらいである。


 ゼロ自身も試したことはあるが、成功したことはなく、諦めたほどだ。


「レッカ族がこの戦場に来ている……? いや、だとすりゃもっとド派手にやるはずだな。あいつらの魔法がこんな小規模なわけがない。この町全体を燃やすぐらいのことはできるはずだ。じゃあこれは一体…………?」

「ゼロさん! ボルザノクがいたよ! 生きてる!」


 ミリが少し先の建物の陰にボルザノクが倒れているのを発見した。

 ゼロもすぐさま駆け寄る。


「う……うう」

「見た感じだと、大きな怪我はしてねーみたいだな」

「ボルザノク大丈夫!?」

「ここは……どこっすか……?」

「クエストを受けて戦争中だよ、分かる?」

「……ああ、そういえばそうだったっすね」

「何があったかは覚えてるか?」

「何が……? 痛っ!」


 ボルザノクが痛みに顔を歪めながら後頭部を抱えた。


「大丈夫!?」

「何があったか……思い出せないんすよね……」

「頭を打ったか。一時的な記憶障害だな。一応治癒魔法はかけとくぜ」

「ベイルはどこにいるか分かる?」

「ベイルは…………一緒に苦戦している討伐隊の所に助けに来て…………ダメだ分からない」


 苦悶の表情を浮かべ、その時の状況を思い出そうとするが、ボルザノクは思い出すことが出来なかった。


「まぁ一時的な記憶障害だから、時間が経てば思い出すだろう。それよりもベイルを探した方が良い」

「ベイルもこの辺りにいると思いますか?」

「可能性は高いだろうぜ。この状況でボルザノクを置いて一人でどこかに行くとは思えねーしな」


 だが、逆に言えばこの状況のボルザノクを一人にしていたということは、ベイルもどこかで倒れているのか、はたまた既に…………と、ゼロは考えるが口には出さない。


「敵にも見つかる可能性は高いが……状況が状況だしな」


 ゼロは風魔法を使い、自身の体を浮かせて建物の屋根へと移動した。

 高い位置からベイルの所在を探そうとしたのだ。


 各地で魔法が飛び交うのが確認できる。

 戦闘地点が徐々に町の外側になっているのを見ると、こちらの討伐大隊が敵を押しているのが分かった。


 だが、付近を見てみるもベイルらしき姿を確認することは出来なかった。


「ゼロさんどうですか?」

「……ダメだな。ここから見える限りじゃベイルはいない」


 再度風魔法を使用し、ゼロはフワリと地上へ降りた。


「どうしよう……」

「とりあえず一度ヤシロの所に戻るか。もしかしたらベイルと入れ違いになったかもしれねーしな」


 そして3人はその場から離れ、一度集合場所に戻ることにした。

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