第94話 実態把握

「奥の部屋を予約しておいて良かった。外だとまともに話ができなさそうだったからね」


 そう言いながらソファーに座ってくつろぐ勇者。


 3代目勇者達はまるで芸能人かのような脚光を浴びながら討伐ギルドへ入ってきた。

 わちゃわちゃと人混みを掻き分け、受付の人に何かを話したかと思えば、そのまま奥へと消えていった。


 遅れて入ってきたゼロは、入り口で勇者から話を聞いていたようで、「ギルドの奥の部屋に来てくれ」という話の元、俺達も受付のお姉さんに事情を話すとすんなりと奥に通してもらえた。


 そして今、客間のような所で8人の男女が集まっている。


「人気者は大変そうですね」

「だろだろ〜? でもそのおかげで、可愛い子ともお近づきになれるんだぜ」

「ちょっとアンタは口閉じてなさいよ。そんな話が聞きたいんじゃないんだから」

「勇者の仲間ってのは随分と色物がいるんだな」

「お前も充分色物だと思うぜ? 魔者なのに人間側についてるなんてな」


 ナイルゼンと呼ばれる剣士とゼロが、少しバチバチと火花を散らす。

 気の強いもの同士、磁石のように反発し合うのだろうか。


「ゼロ、挑発するの禁止」

「ナイル、彼に敵意が無いのは俺が証明している。無駄に敵を作ろうとするな」

「「…………了解」」


 全く、何で俺が仲裁みたいなことをしなくちゃいけないんだ。

 本当はもっとボケたいのにツッコミがいないから困るぜ。

 なんてね。


「すごい髪が綺麗ね〜。真っ赤なのに指でくと全く絡まないわ〜。手入れとかって何かしてるの?」

「…………ん。特に何もしてない」

「レッカ族というのは話に聞いたことはあるが、本物は初めて見るな。実在するとは驚きじゃて」


 端っこの方でシーラは、お姉さんに抱きしめられながら髪をといてもらって気持ち良さそうにしてる。


 そこ俺と変われ!


「まずは、A級討伐者に昇格おめでとう。そもそも君がC級討伐者だったことに驚いたよ」

「ああ、いえ、おかげさまで。俺もさっき知って驚きました」

「魔王討伐に貴重な一石を投じたんだから当然さ。2代目勇者のガルムが魔王討伐してから20年、ようやく人類が反撃することができた瞬間なんだ。間も無く国からも正式に発表されて、全世界に情報が発信されるだろう」


 魔王が死ぬってのはそれだけ凄いことなんだなぁ。

 元々は勇者を目指して、でもあらぬ疑いをかけられて勇者を目指すのをあきらめ、のんびりとシーラの故郷を目指してたはずなのに、気付けば魔王を倒してるんだもんな。


 悔しいことにガルムの奴が期待してる展開になりつつある。


「本当は君達の存在も国に伝えるべきなんだが……国は勇者が倒したと喧伝けんでんしたいみたいなんだ」

「奴らは『勇者が魔王を倒した』ということを全面的に支援して自分達の利益にしようと考えてやがるんだ。ただじゃ転ばないぜ全く」


 ナイルゼンが憤慨したように言う。


「俺は命が助かっただけでも充分ですよ。皆さんが来なかったら死んでたかもしれないんですから」


 これは本心だ。

 俺は何度死にかけているか分からない。


 中級魔人にはシーラに、魔狩りのドリトルにはゼロに、今回は勇者に助けられた。

 フカンして見ても俺はこの世界でも生きていける力を持っている。

 それでも何度も死にかけているということは、死なないように生きていくのが下手くそなのか、それとも単純に実力不足なのか。


 だって俺がこんなに何度も死にかけてたら、普通の人達はどうなるよ?


 もっとあっさり死んでるぜ?


 俺が異世界から来た人間だから巻き込まれやすいのか、自分ならやれると過信しすぎて余計なことに首を突っ込みすぎていたのか、どちらにせよ今後は気を付けていく必要がある。


 そのために勇者に時間を取ってもらったんだ。


 本当は最初の国のシャンドラ王国で行う予定だった情報収集だ。

 聞くぜ聞くぜ〜。


「そもそも魔王って何人いるんですか? 最初に現れたのは15人って話だけど、詳しいことって俺よく分かってないんですよね」

「おいおいそのレベルかよ大丈夫か?」


 カチンと来るな。


「いいよ、説明してあげよう」

「あ、じゃあその話終わったらアレ見せてよ。ヤシロ君が使ってた雷魔法」

「もちろん。どういう魔法なのか一緒に調べて下さい」

「やった」

「それじゃあいいかい? 簡単にまとめると、今この世界にいるのは12人の魔王だ。もちろん、討伐したグロスクロウを除いてね」

「確か、初代勇者と2代目勇者が1人づつ倒したんですよね」


 ここは勇者本人であるガルムから直接聞いた。

 本人は自分が勇者だとは言ってなかったけどね。


「その通り。実質相打ちみたいな感じだけどね。そして現在、この大陸にいる魔王は3人。『魔王シルバースター』『魔王ライアットシーネ』『魔王ヴェイロン』。この3人以外にも侵攻してきている魔王はいるが、実質的にはこの3人がサンクリッド大陸の中心だ」


 この大陸に来た時に、本の情報と聞いた情報を擦り合わせて予測を立てたのと同じだ。

 特にシルバースターって奴が厄介だって。


「ヴェイロンとライアットシーネは実際の所、討伐の優先順位は低い。なぜならライアットシーネは近隣諸国と不可侵条約を80年前に結び、それ以降表立った接点はないからだ。ヴェイロンに関してはシャッタード都市の魔導砲によってほぼ陥落している。討伐は時間の問題だろう」

「討伐は時間の問題…………ね」


 ゼロが何か言いたそうに顔をしかめた。

 元々魔王ヴェイロンの国にいたゼロにとっては、思うところがあるのだろう。

 一族で仕えてたって言ってたしなぁ。


「そっちの彼は何か言いたそうだね」


 鋭いな。

 伊達に勇者やってないってことか。


「いや、昔世話になったからちょっとな。だが、今の俺はいとしの彼女さえいれば問題ない。いざとなれば俺がトドメを刺しても構わねー」


 愛の戦士ここに極まれりだな。

 この大陸に来た時から意見は全くブレてない。

 もしそんな場面になっても、ゼロにそんな酷なことはさせないと誓おう。


「へぇ……そこまで言い切るたぁ、おとこだな、お前」

「惚れた女のためには当然のことだろう」


 お、この2人、意外な形で仲良くなれるか?


「ま、俺の場合は俺に惚れてくる女ばかりだから分かんねぇけどな」

「「女の敵」」


 全然ダメだった。

 ナイルゼンが割りかしクズっぽい。

 味方のはずのフェリスにも言われてるし。


「それじゃあ他の大陸にいる魔王についても説明していこうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る