第95話 ソウグラス大陸の実情
「ざっくりとした魔王達の情報は、ソウグラス大陸で買った本の中に載ってるんですよね」
「へぇ……。魔王達についてまとめた本はあまり無いんだけどね。真偽を確かめたいから見せてもらってもいいかな?」
「どうぞどうぞ」
俺は荷物の中から変なジジイから買い取った『魔族の種類について』と書かれた本を取り出し、グリムに手渡した。
グリムはそれをペラペラとめくる。
「ふむ…………結構鋭いことが書いてあるな……。中身については本物と言えるし……書いてあることも魔族についてかなりの知識が無いと書けない内容だな……………………ん?」
最後のページでピタリと手が止まった。
最後のページに何か書いてあったかな。
正直、最後まで読み終えてないから分からん。
せっかく買ったのにね。
てへぺろ。
「これは…………驚いた」
「どうしたよグリム」
「最後のページにこの本の著者の名前が書いてある。見てみなよ」
「………………げっ! マジかよ。フェリスが喉から手が出るほど欲しくなるだろうな」
「えっ? えっ? ちょっと私にも見せて……………………えええええええ!?」
何か盛り上がってきた。
スゲーお偉いさんが書いたやつ?
高く売れる? 高く売れる?
「俺にも見せて下さい」
「ヤシロは最後まで見てないのか?」
「途中までしか読んでないんですよね」
「この本の価値を分かってねーで読んでたのかよ」
「最後のページに書かれてる著者の名前は…………『ヴィガン・シューベル』」
…………………………誰だ?
シューベルトなら、よく聞いたことあるんだけどね。
バッハとセットで出てくる音楽家。
でも絶対違うよね。
ここで音楽家の名前出てくるわけないもんね。
そんな「皆さんご存知の!」みたいな感じで言われても俺分からんし。
知ったかは…………討伐ギルドの総本部で恥ずかしい目にあったしなぁ……。
素直に言ったれ。
「すいません。誰でしょうか」
「ヤシロは何にも知らないんだな」
「人間側じゃあ有名な人物なのか?」
「知名度で言えば勇者の次にはあると思うね。『ヴィガン・シューベル』という人物は、2代目勇者の仲間の1人で、無詠唱魔法の先駆者とも言われている人物だ」
それじゃあガルムの元お仲間の人が書いた本だったんだ……。
ホントにあいつなんなんだよ。
あいつが何者なのか本当に分からん。
いや、2代目勇者なんだろうけども。
「この人は本当に凄いんだよ! 無詠唱魔法、いわゆるマスター級の魔法における発動条件のロジックを解き明かした人物なんだから!」
「フェリスはこの人の事をえらく尊敬していてね。彼女の魔法に対する熱意は『ヴィガン・シューベル』から来るものなんだ」
「へぇ〜。あんなボケたジジイの所で掘り出し物が見つかるとはね」
「ちょ、ちょっとこの本借りていい? すぐ返すから!」
「どうぞどうぞ。擦り切れるぐらい読んでいいですよ」
「やった! ありがとうヤシロ君!」
お礼を言ってフェリスは端っこの方に移動し、黙々と本を読み始めた。
まるで欲しいものを買い与えられた子供のようだ。
「話が逸れたが…………基本的にあの本に書いてある事は正しい。多少、書いてある情報は古かったが、概ね変化はない。まずソウグラス大陸に現在いる魔王は2人。『魔王ガゼル』と『魔王ディオーサ』」
出た魔王ガゼル。
本当ソウグラス大陸でも厄介なことこの上なしだったわ。
スサノ町で中級魔人と戦い、森の中にあった村では魔者と戦い。
良い思い出はないぜ。
「『魔王ガゼル』は言わずもがな、全ての魔王の中で一番攻撃的な魔王だ」
「ホントクソですよねこいつ」
「ああ、クソだな」
「15人の魔王がこの世界に現れてから約130年、休む間も無く永遠と人類を滅ぼさんと攻撃してきているのはコイツぐらいだ。故に、俺たちは早急に討伐しなければならない」
「何を隠そう、サンクリッド大陸から魔王ガゼルの軍勢を蹴散らしたのは俺達なんだぜ」
「自分の手柄のように言わないの〜。各国の支援があったからでしょ〜?」
シャイナがたしなめるように言った。
既にシーラは寝落ちかけているのかウトウトとしている。
そんなにそこが心地いいのか。
どれ、ちょっとお兄さんと変わりなさい。
「戦いの中心はいつも俺達だったろ? こういうのは言ったもん勝ちなんだよ」
「イッたもん勝ち……?」
「イントネーションおかしいぞ淫乱」
うわエッロ。
艶めかしすぎるぜ。
「話が脱線してるが…………ナイルの言った通り、魔王ガゼルの軍勢は現在ソウグラス大陸へと押し戻した。当分はこの大陸に来ないだろう」
「魔王ディオーサって奴は?」
「3人いる女魔王のうちの1人だ。ただ、この魔王については詳細があまり知られていない。予想されるのは、隠匿魔法か何かで自身の所在を隠していることだが…………俺個人としても教えられるようなことは少ない」
「確かに本にも詳細不明って書いてあった気がする」
「俺がヴェイロンの所に仕えていた時から、魔王ディオーサについては情報が入ってこなかったな。一部では死んでるんじゃないかとも噂されていた」
噂通りに死んでいるのであれば、こっちにとって好都合なことはないな。
まぁ、魔王討伐を目指してない俺には関係ないけどな!
「次はアクエリア大陸についてだ」
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