第93話 昇格&昇格&昇格

「ゼロ、私にも魔法の扱い方、教えて」


 夜になり、勇者グリムとの待ち合わせのために討伐ギルドへと向かっている途中、シーラが珍しくゼロにお願いをした。


 当初、魔法の理解が足りない俺とシーラは、魔法に精通しているゼロに教えを請う予定だった。

 丁度青海龍のダンジョンに潜る前の頃だろうか。


 結局シーラは、ゼロの高圧的な態度が気に入らないという子供っぽい理由で、魔法のコントロールを聞くのを嫌がっていた。

 俺は教えてもらえたおかげで魔導級、引いては無詠唱まで可能になり、命まで助かった。


「珍しいじゃねーか。俺に教わるのは嫌だったんじゃねーのか?」

「嫌だよ」

「嫌なのかよ!」

「でも…………それ以上にミナトが傷つくのはもっと嫌。私はミナトを守れるようになりたい」


 魔王との一戦で自分の力の足りなさを痛感したのだろうか。

 結局のところシーラの攻撃は単調なものばかりで、火力にものを言わせたものばかりで。

 防ぐのは簡単なのだろう。


 それにしてもお父さん嬉しい!

 まさかシーラの強くなりたい願望の根底が、俺のためだったとは!

 こうやって子供は成長していくんだねぇ……。

 見た目は一緒だけど。


 だけど俺はまだ介護されるような立場じゃないぜ。


「俺がシーラを守ってやるから大丈夫だよ。今回は全然ダメだったけど……。ていうか、基本的に俺って勝率が低い気がするけど……」


 雑魚相手には勝てるけど、相手が強くなると勝てない。


 あれ?

 俺ってば雑魚専?


「嫌! 私だって戦えるもん!」

「そうは言ってもなぁ……」

「良いじゃねーか。元々レッカ族は使徒並みにつえーんだからよ。自分を守るって意味でも必要だろ。それに、元々はお前も賛成派だったろ?」

「そりゃそうだけどね」


 自分を守るって意味では必要。

 確かにそれもそうだ。


 ゼロに教えてもらえれば、もっと魔法の幅が広がるはずだ。

 それにこれから会う勇者達にも魔法のスペシャリスト達はいる。

 彼らに聞くのもアリだと思うしね。


「じゃあ今度教えてやってよ」

「任せろ」




 討伐ギルドに到着した。


 結構人だかりが出来ている。

 アレだけのことがあったのだから、情報を得るためにもここに集まるのは必然か。


 中に入ると討伐者達がワイワイと騒いでいた。

 やれ勇者が来ているだの、やれ魔王の1人が死んだだの、国が正式に声明を出していないため、みんなは確信がとれていないのだ。


「この様子だと勇者はまだ来てないみたいだな」

「それならちょっと人が多すぎるから外にいねーか?」

「いや、俺はちょっと受付に行って話聞いてくるよ」

「あの行列に並んでか?」

「……あの行列に並んでだよ」


 受付にはズラリと人が並んでいた。

 仕方がないこととはいえ、行列を見ると人気のラーメン屋とかを思い出すな。

 あ、久しぶりにラーメン食べたくなってきた。


「じゃあ俺は外にいるぜ。用事終わったら呼べよ」

「了解。シーラは?」

「ん……ミナトといる」


 ゼロはフードを深くかぶってギルドの外へと出て行った。


 約10分後ぐらいで俺達の順番が回ってきた。


「次の方、どうされましたか?」


 受付の人の顔にも、かなりの疲労の色が伺えた。

 きっと朝から似たような説明ばかり続けてきたのだろう。


「今回の緊急クエストに関してなんですけど……」

「一律で報酬が出ています。その他に大きな活躍をされている方ならば、特別報酬も出ていますが。討伐者IDをかざしてください」


 俺の前に魔法陣が現れた。

 そこに自分の討伐者IDを置くことで、自身の情報がギルドの方に流れる仕組みのようだ。


「え〜っと…………C級討伐隊『紅影あかかげ』の……ヤシロミナトさんですね? 報酬が出ています。え〜報酬が…………………………!!」


 受付のお姉さんがギョッとした顔になった。


 何だろう。

 俺、何かやらかしたんだろうか。

 確かにいろんな所でやらかしてるけど。

 シャンドラ王国からやらかしてきてるけど。


「特別報酬が出ていますね……! C級討伐者からA級討伐者に昇格……! お連れさんもB級討伐者に昇格で、討伐隊もA級に昇格です! すごいですね! 飛び級なんて初めて見ましたよ!」

「……………………マジで!!」


 マジかよA級討伐者になっちゃったの俺!?

 あの殺されかけた細目のシジミと同じ!?

 しかもシーラまで上がってるんか!

 何でや!


「り、理由ってなんなんですかね?」

「え〜…………『魔王討伐の一端いったんにない、討伐の端緒たんちょになったことから、その行動が評価されたもの』だそうです……。しかも推薦者は3代目勇者様だそうです! 凄いことですよこれって!」


 勇者からの推薦……!

 なるほど……勇者の一声って、やっぱり影響力スゲーんだな〜。

 お姉さんも興奮してるな〜。


「どういうこと?」

「階級が上がったんだって。実力が認められたんだよ」

「ふーん…………?」


 たぶん分かってないな。


 確かA級になると色々特権があるとかなんとか聞いたことがある。

 有名になるとシャンドラ王国で王様に喧嘩売ったことがバレそうだけど、流石に大陸が変われば問題ないでしょ。

 あれから追われたことないし。


 いや〜でもやっぱり昇格とかするとテンション上がるなぁ。


「こちらが特別報酬になりますね……っと」


 ドンッ! と、大量にお金が詰められているであろう皮袋がカウンターに置かれた。


 うへへ。

 小金持ちだぜ。


 でもそうすると『ベルの音色』が可哀想だよな。

 たぶん彼らも戦ってたのを勇者達は知らないだろうし、推薦されてないと思うんだよね。


 ………………やっぱり半分渡そう。

 お金よりも大事なものはいくらでもあるんだ。

 人の繋がりとかね。


 お金の切れ目が縁の切れ目とも言うけど、その逆もまたしかりだ。

 お金で人の繋がりが強固になる時もあるんだぜ。


 突然、ギルド内のざわつきが一層激しくなった。

 みんなが入り口を見ている。

 俺達も釣られて視線を移すと、そこには彼らが来ていた。


 3代目勇者一行だ。

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