第92話 アポイント
その後、使徒や生き残った魔者は全て逃走。
3代目勇者一行が来たことにより、戦況は終着へと向かっていった。
国の被害関係、死人負傷者の確認、敵の討伐数の確認、各国への情報の伝達等々、やることはたくさんあるようだが、それらは戦いに参加しなかった国の兵士やD級C級討伐隊が担うようだ。
俺達もC級討伐隊であるためにクエストが発令されていたわけだが、強制力が特にあるわけでもないため、そのままシカトした。
国に所属していればこうはいかないだろう。
安定した給料の割に、優秀な人材が国ではなく討伐ギルドに属するのもある意味納得できる。
カンバツ王国は夜通しに魔王襲撃の傷跡を回復しようと、リカバリー活動を行なっていた。
もちろんそれには3代目勇者一行も関わっており、国の機能が完全停止しなかったのも彼らの存在が大きいだろう。
人類の希望である彼らがこの国に滞在していること、それに魔王の1人が討伐されたこと。
この2つの要因が王族、引いては国民や討伐隊の士気を下げずに済んだ。
それほどまでに彼らの存在は替えの効かないものであり、それほどまでに依存しているのだ。
そして仮設の休憩所にて。
「俺達は一休みした後、国王の所に謁見しにかなくてはならないんだ。それが終わった後にでも話を聞こう」
「いいんですか? 忙しいのに時間を取らせるようで……」
俺はダメ元で勇者のグリムに話をしたいと申し向けてみた所、意外にもOKの返事が貰えた。
「私達の仕事っていうのも、ヤシロ君達とあまり変わらないよ。戦うことが目的だし、みんなもそれを期待してる」
「強いて言やぁ、アースぐらいだな。毎度バタバタ動き回ってんのは」
「傷ついた方々の治療があるから、大変よねぇ〜。必ず魔力を空にして戻ってくるもの」
アースとは山賊のような大男のことだが、話に聞くと治癒魔法のスペシャリストらしい。
難しい治癒魔法を無詠唱で行うことができ、魔導級治癒魔法を使えるのは人間では彼ぐらいだと言う。
確かに怪我人をあっという間に治療していく姿はまさしくナイチンゲール。
話の通り、今もこの場にはいない。
「俺も是非とも話が聞きたいと思っていたからね。魔王と対峙して生き延びたその力、魔者と懇意になれる方法とか」
「そうよねぇ〜。ある意味……あなたは今回の魔王討伐の立役者だもの……。私も興味あるわ〜」
そう言ってシャナン・モールテンと呼ばれた女性がすり寄ってきた。
ブロンドの長い綺麗な髪に青い瞳、ザックリと開けた胸元から、豊満なバストの谷間が顔を覗かせる。
「お姉さんと……イケナイこと……する?」
くっ……何という吸引力!
男の目を吸い寄せる謎の魅力!
谷間をのぞく時、谷間もまたこちらをのぞいているのだ!
「…………ミナト。顔がにやけてる」
おっと。
シーラが珍しく嫉妬してるぜ。
「燃やすよ」
そっちの意味で
「兄ちゃん、その女だけはやめときな。お前じゃあ扱えないぜ」
ケラケラと笑いながらナイルゼンと呼ばれる男が警告してきた。
赤黒い髪が特徴的で、耳に牙のイヤリングをして鋭い目つきをしている。
陽キャラ感は物凄い出てる。
「俺も出会ったばかりの頃に一度相手をしたことがあるが、とんでもねぇテクニックだ。ハンパじゃねぇ」
「人を淫乱みたいに言うなんて、失礼しちゃう。ナイルゼンと違って、私はもっと人を選びますよ〜」
「ナイル! シャイナ! こんな所で何の話をしてるのよ!」
フェリスが顔を真っ赤にしながら声を張り上げた。
彼女はあんまり耐性ないのだろうか。
是非とも俺もゲストークに参加したいもんだが……このタイミングで混ざるのはあまり得策じゃないな。
そして一応シーラの耳を塞いでおく。
何も知らない純粋無垢なこの子の耳を汚さないで頂こう。
ほら、「何?」って聞いてるようなこの顔。
めっちゃ可愛い。
「何つーかこいつら…………俺が想像してた勇者一行とはイメージがだいぶ違うな。もっとお堅い真面目なやつばっかりかと思ってたぜ」
「俺も同じこと思ってたよゼロ」
「とにかくだ。後ほど時間をとるからまた話そう。時間は…………夜頃がいいか。それならお互いにゆっくりできるだろう。場所は討伐ギルドにしよう。報酬の関係もあるだろうし、あそこは無事だったからね」
「分かりました」
こうして俺は勇者とのアポイントを取り、別れたのだった。
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