第80話 連携勝負

「バラバラにならずに一人ずつ相手にしていこう! まずは直近にいるアイツだ!」


 俺が目をつけたのは数十メートル先で10人の兵士を相手に大暴れしている魔族だ。

 大きく牙が飛び出しているのが特徴で、その体は縦にも横にもデカイ。

 2mは優に超えているだろう。

 兵士を棍棒のようなもので薙ぎ払っている。


「肉体強化系だな」

「魔族は魔法を使うんじゃないのか?」

「アレもれっきとした魔法だ。ただ、肉体強化魔法に全振りしているタイプだな」

「つまりは脳筋か」


 俺もどちらかと言えば脳筋なタイプであるためやりやすい。

 馬鹿は扱いやすいということだ。


 爆発音が響く中、標的の魔者が声を張り上げているのが聞こえた。


「はーっはっはっは!! どうした人間共! そんな程度じゃ魔王様はおろか、ワシすら倒すことはかなわんぞ!」


 振り上げられた棍棒を防ごうとするものはいない。

 既に防いだものが防御ごと吹き飛ばされているのを見ているからだ。

 触れれば吹き飛ぶ。


「国の兵士といえど恐るるに足らんな!」

「豪胆な奴め。それなら討伐隊はいかがかな?」

「お? 次は3人組か!? 次から次へと今回は尽きないな! 普段は暴れることなく隠密に暗殺してしまうからな! やはり正面からぶつかるべきだ!」


 なんという野生児だろうか。

 俺達をまるで狩りの獲物としか見ていない目だな。

 だけどコイツの自信は、本物の実力に裏付けられたものだ。

 人形のように動く魔人とは違い、意思を持って攻撃を繰り出してくる。

 魔者とは魔王ガゼルの配下と一度戦ったことがある。

 あの時はブルったけど、今は大丈夫だ。


 俺はやれる!


「はっはっは! 少年はワシの一撃、耐えられるかな!?」


 ドンッ!!!


 魔者が地を蹴った音と俺が銃を放った音が一致した。

 俺の攻撃は魔者の右足を撃ち抜き、魔者の棍棒はゼロの風魔法によって威力を殺された。

 それでも俺は数メートル吹っ飛ばされ、受け身を取っているかん、シーラが鋭く尖らせた槍のような炎を魔者に向かって射出する。


槍火葬そうかそう


 高速で射出された炎は魔者の頭を目掛けて飛んでいく。


「がああああ!」


 奴は右拳を振り抜き、炎を正面から打ち消した。

 シーラの炎よりも奴の肉体強化魔法がまさったのだ。


「む…………負けるなんて悔しい」

「はっはっは!! 中々に良い連携攻撃だったな! それぞれが自分の役割を果たしている! さらに個々の能力も高い! 今までで一番殺り甲斐がある奴らだ! まぁ、何故魔族が人間側に付いているかは分からんが……」


 そう言って魔者はゼロに一瞥をくれた。


 ゼロの頭には魔族であることを証明するツノが生えており、普段はそれをフードで隠しているが、現在は戦闘の最中さなかであるためフードが外れている。

 さらに念には念をということで、透過魔法をかけ、周りには分からないようにしていた。


 だが、それは魔法に長けた者が見であれば見破ることができる。

 現にシーラやA級討伐者のドリトルも最初から気付いていた。

 俺は当初見えなかったが、ゼロに魔法を教わってきたことで最近はうっすらと見えるようになってきた。

 現在もうっすらと見える程度であるため、周りに敵と誤認されないように透過魔法をかけているのだろう。


「人間側に属している以上、覚悟は出来ているんだろうな!?」

「覚悟するのはお前の方だぜ。ほれ、足元に注意しな」


 魔者の足元に魔法陣が出来ている。

 遠隔魔法を放つ時の前準備だ。


「氷雪魔法だ。凍れ」

「ぬおりゃあああああ!!」


 地面に向けて棍棒を振り落とし、地面にヒビを入れることで魔法陣を搔き消した。

 とんでもない馬鹿力だ。


「だけどそれは釣りだぜ?」

渦炎砲射かえんほうしゃ


 既に後ろに回り込んでいたシーラが、炎を高密度に押し込み凝縮し、小さな火球を射出した。


「そんなことだろうと思ったさ」


 即座に周囲を確認し、敵が攻撃してくる方向へと意識を割いていやがった。

 豪胆に見えて繊細。

 さらに槍の時のように拳で防ぐのではなく、かわしてみせるところに用心深さが伺えた。

 だが、こちらの手もそこで終わりではない。


「逃さねぇ。強制爆破だ」


 ゼロが反対側からシーラの放った火球に目掛けて雷魔法を放った。

 バチッという音と共に、火球は爆音豪炎を上げながら爆発し、魔者もろとも炎のうずに巻き込んだ。


 俺はシーラの後ろで炎の膜で爆発からカバーしてもらい、ゼロはゼロでどうにかして防いでいるだろう。


 轟々と唸る炎。

 これで死んでいるなら随分楽だが。

 何せ俺の出番がほとんどなく、2人でやれるのだから。


「うおああああああ!! まだだあああああ!!」


 炎を掻き分け魔者が出て来る。

 肉体強化の魔法は伊達じゃないようだ。

 それでも致命傷に近い。


「はっはっは!! 耐えたぞ! 今度は俺の攻撃だな!!」


 ビュン! と魔者に向かって小さな球を投げつけた。

 炎に目をやられているであろう魔者は、反射的にそれを拳で砕いた。

 その時、小さな球から光が集まり、青色の悪魔の姿を形成する。


「な、なに!?」

「オオオオオオオオオオオオ!!!」


 青色の悪魔ーーーもとい下級魔人が両手でハンマーのように魔者を殴りつけた。


「うおっ!? おおおお!?」


 ズンッ!!!

 と地を響くような音がした。

 魔者がなんとか下級魔人の一撃を防いだのだ。


「不意打ちみたいで悪いな。チェックメイトだ」

「魔人を扱う人間だと……? はっ! とんでもない奴だ」


『雷鳥』を構え、既に下級魔人の後ろにいた俺はその勢いのまま、魔者の首を切り落とした。

 ゴロンと首が転がり、体は糸の切れた人形のように崩れた。


「相手に攻撃させる隙は与えない。攻撃は最大の防御だ」


 残りは魔王、使徒、10人の魔者だ。

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