第79話 魔王グロスクロウ

 宿の外に出ると、討伐者や国の兵士が大声を上げながらせわしなく動き回っていた。

 同時に激しく警鐘が鳴らされていることに気がつく。


「急げ! 国の中に1人として入れるな! 何としてでも食い止めろ!」

「魔王の首を取れば勇者の仲間入りだ!」

「魔王の馬鹿が! この国にどれだけの討伐隊がいると思っていやがる!」

「行け行け行け!」


 どうやら魔王はまだ国に侵入しているわけではないようだ。

 外で繋ぎ止めている状況なのだろう。

 ぬ

「来たかヤシロ」

「ゼロ。魔王が来てるらしい。グロスクロウって奴だ」

「少数精鋭の魔王だな。どうする? 俺達も向かうか?」

「とりあえず向かおう。話はそれからだ」

「よし」


 俺達3人は、爆発音が鳴り響き、赤く光っている方角へと足を進めた。

 既に戦闘は始まっている。

 魔王がどんな奴なのか俺はまだ知らない。

 戦いに参加するかどうかはともかく、今後のためにも知っておく必要がある。


「ちなみにヤシロ、シーラ。お前達は魔王の固有のスキルについては知ってるか?」

「固有スキル? 何だそれ」

「知らない」


 走りながらゼロが話し始めた。


「人間にはあまり知られていないことだが……魔王は全員、自分だけが使えるオリジナルの魔法を持っている。いや、正確には魔法とは呼べるものじゃねーけどな」


 固有スキルというとガルムを思い出す。

 あいつは自身の召喚術を魔法ではなくスキルと呼んだ。

 勇者が持つことができる固有のスキルだと。

 何か関係性があるのか?


「今来てる奴はどんなのか分かんの?」

「グロスクロウがどんな能力なのかは俺にも分からん。ただ、奴は『近付き難し王』と呼ばれている」

「何の隠語だそりゃ? 全然分からん」

「俺も詳しくは分からん。だが、魔法だけじゃないっていうのは二人とも頭に入れておけ」

「了解」

「ん」


 城門に着くと、既に国の兵士は戦闘態勢が整っていた。

 ここから約200mほど先の辺りで魔法が飛び交っているのが分かる。

 近くには討伐隊もチラホラと見える。

 恐らくは様子を伺っている組だろう。


「ヤシロ!」


 声をかけてきたのは『ベルの音色』のベイルだった。

 他にもミリとギャレルバ君がいた。


「君達も来ていたのか!」

「そりゃ来るさ。戦況はどうなってんの?」

「既にこの国にいたベテランのA級討伐隊が戦っている。恐らく今戦っているのだけでもA級討伐隊が7隊、国の兵士が100人近く対応している。いくら魔王といえどこの数相手にどうこうなるとは思えないよ!」


 それに加えてここに控えている国の兵士に、その他の討伐隊。

 彼らも一応はA級討伐隊だし、まだまだ兵力的には問題無いと言えるけど…………そんな簡単に魔王を倒せるものなのか?

 今まで討伐できたのは勇者だけなんだろ?


「それに、今ギルドの方から直接3代目勇者様のIDの方に救援要請を掛けているとこらしい! もし近くにいれば来てくれるみたいだ!」

「お前達はどうすんの? 戦いに参加すんのか?」

「どうだろう。討伐隊の戦いは個で戦う魔族とは違って連携がシビアになるからね。あまり混戦になると不利なんだ」

「そういうものなんだ」


 とはいえ、このままここで戦況を見ているのもどうかと思う。

 人数かけて潰した方がいいと思うけど。


「ゼロ、遠回りして様子を見に行こう。魔王がどんなものか見に行きたい」

「よし」

「ちょっ、そんな遊び半分で見に行ったらヤバイっすよ!」

「そうだよ! 相手は魔王なんだ! 流れ弾でも飛んできたら危ないよ!」

「大丈夫だって。ちょっと見に行ってくるだけだし」


 俺達は『ベルの音色』の制止も聞かずに少々迂回しながら現場へと向かった。

 それに向かっているのは俺達だけじゃない。

 あわよくばを狙おうと、何人も動いている。

 考えることは同じか。


「実際に戦うの?」

「状況次第だな」

「…………あまり首突っ込まないほうがいいと思うけど」

「何だよシーラ、怖じ気付いたのか?」

「違うもん。心配だもん」

「この先目的地に向かうまでに、いつどこで魔王みたいな奴と会うかも分からない。遠目から確認できる内に見ておきたいんだよ」

「確かに魔王は桁が違う。知っておくのも必要なことだな」

「だろ? なるべく不安要素はーーーーーーー」


 ドォンッ!!!!! と今まで一番大きな爆発が起きた。

 爆炎が舞い、周囲に火礫ひつぶてが降り注いだ。

 そして降り注いだのは火礫だけではない。

 明らかに人間と思われるものも転がってきた。


「ちょっと…………ヤバイか?」

「いつでも対応できるように魔法の準備はしている」

「……私も」


 そして遠目から確認することができた。

 爆炎の中に何人もの討伐者や兵士に囲まれながらも、一切の攻撃を通さずに近づく者を弾き飛ばしている魔族を。

 頭髪は黒髪と白髪が真ん中で半分に綺麗に分かれ、目元から下は黒色の包帯を巻いている。

 他にも魔者は何人かいるが、奴だけが異彩を放っていた。


 間違いない。

 奴が魔王グロスクロウだ。


「あれが……魔王か」

「ああ、俺の知ってる魔王グロスクロウだ。だが、ありゃ一体どういうことだ? 近づく人間が人形のように吹き飛ばされてやがるな」


 斬りかかった兵士が即座に弾きとばされている。

 さらにそれだけではない。

 魔法においても全て弾き返されている。

 何であろうと奴に近づけるものはないのだ。


「これは…………抑えられないんじゃないか?」

「…………みんなやられてる」

「しかも厄介なのは、使徒はもちろんだが、周りにいる魔族が全員強いな。下手すりゃ俺と同等の奴もいるかもしれねー」

「マジ? ゼロのレベルが何人もいたら人間側は勝てないんじゃないか? 有象無象な気がする」


 ゼロは単体で中級魔人3体を相手にできる実力を持つ。

 魔王に加え側近の使徒、十数人の魔者がA級討伐隊を圧倒していた。


「…………やるしかないか?」

「ヤシロが決めろ。奴らを身代わりにしてここから離れるのも悪くないはすだ」

「悪いだろそれは……」


 俺の一存で二人を巻き込むことになるのか。

 本当ならさっさと逃げたしたいとは思うけど……そんな目覚めの悪いことは出来ないよな。


「二人共、俺と一緒に死ににいこうぜ」

「ミナトと一緒なら」

「死にはしないけどな」


 俺は『獅子脅し』を抜き、ポーチから魔人のビー球をいくつか掴んだ。

 魔族ですら見たことがないような、異端な戦い方を見せてやる。

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