第69話 青海龍の洞窟7

 エージが固く閉ざされた扉に近付き、どうにかして開けようとしているが扉は微動だにしない。

 それもそのはずだ。

 扉は近くにある台の上に手を置かなければ開かないのだから。

 そして、それを開くことができるのは異世界から来た人間だけとなる。


「くそっ! どうやって開けるんだ!」

「エージ様! ここは私にお任せを!」


 エージお付きの兵士、ミコが剣で激しく斬りつけたが、当然のごとく扉には傷一つ付かない。


「硬い……!」


 やれやれ仕方ない。

 ここを開けなければ俺達も中に入ることはできない。

 もう少しこいつらの遊んでるところを見ていたい所でもあるけれど、そろそろ開けるとしますか。


「ヤシロ、あの扉は開けられるんだよな?」

「今から開けるよ」

「俺とシーラはまだ魔力が回復してない。上級魔人がいるのが本当なら、俺達はあまり力になれねーかもしれねーぞ」

「足止めさえしてくれればいいよ。伝説の武器さえ取れれば上級魔人は動かなくなる」

「最初から全力出せばいい?」

「シーラはあまり近づくな。例え距離があったとしても、上級魔人は離れたところからでも攻撃することができるから」


 俺が使った飛撃ひげきは上級魔人やガルムのモノマネだ。

 全方位関係なく斬撃が飛んでくる攻撃は、あまりにも危険である。

 今の俺の立ち位置は当時のガルムと同じ位置にいる。

 このメンバーの中で唯一力が通用するはずだ。


「ゼロにはシーラと一緒に行動して欲しい。距離をとって上級魔人に攻撃を」

「ミナトは?」

「隙をついて武器を取りに行くか……上級魔人を足止めするか……。でもネックなのは……」


 エージの存在なんだよなぁ。

 俺が上級魔人を足止めすれば、奴は間違いなく武器を取りに行く。

 俺と同じように異世界召喚されたあいつだったら、伝説の武器を扱うことができるかもしれない。

 可能性は充分に高いはずだ。


「とにかく、この洞窟に来た目的は伝説の武器を手に入れること。あいつらに先を越されれば意味が無くなるってことは頭に入れておかないとね」

「いざとなりゃ、足を引っ張りゃいいんだろ?」

「極論すぎるけど……」

「ん……分かった」

「分かっちゃったか……」


 エージ一行は扉の前でまだわちゃわちゃしている。

 もう少し周りを見ればいいのに。

 とりあえず俺はこの装置とも言える物の上に手を置いて…………!


 装置に手を置いたと同時に、電流が迸り、装置から扉へと向けて電流が流れていった。


「私がいた世界では開かずの扉を開く時に用いられた言葉があります」

「そんなものがあるんですか!?」

「ええ。その言葉は……『開けゴマ』!!」


 同時に電流が扉に辿り着き、ゴゴゴと大きな音を立てて扉が左右に開いていった。


「さ……さすがエージ様!」

「本当に開けるなんて……あんたはやっぱ勇者だぜ!」

「そうでしょうそうでしょう」


 違うわあああああ!!

 お、れ、が!!

 開けたの!!

 こっちの装置で!!

 美味しいとこ持ってくなエセ勇者!!


「さぁ行きましょう! 伝説の武器は間も無くです!

 彼らよりも先にーーー」

「グオオオアアアアアアアアア!!!!」


 ビリビリと圧倒的な威圧感が俺達を襲った。

 予想通りである。

 赤い体をした悪魔。

 上級魔人が広間の中央に陣取っている。


「な、何ですかあれは……?」

「エ、エージ様! あれは上級魔人です!」

「嘘だ、ろ。何だって最後にこんな化け物が……」

「遠くから魔法で狙い撃ちしましょう! 近寄って勝てる人なんて3代目勇者ぐらいです!」


 エージ以外の人は上級魔人の脅威についてはやはり知っているようだった。

 エージだけがポカンとしている。


「私だって勇者です! あの様な敵1人に遅れは取りませんよ」

「ダメですエージ様! あれは1体で国を滅ぼせるほどの力を持った化け物なんです! 一体いくつの国が上級魔人によって地図から消えたか……!」

「いくらエージ様が強くても、近寄っちゃいけねぇ! 遠距離攻撃で弱らせなければ! そうやってあの化け物は倒されてきたんだ!」


 話だけ聞くと相当ヤバそう。

 もし実際に戦ってなかったら、俺も怖気付いてただろうな。

 それでも進まなければ物語は動かない。

 俺達だけの魔法で奴が倒せるなら、国は滅ぼされたりはしない。


「シーラ、ゼロ、準備は?」

「大丈夫」

「いつでもいけるぜ」


 俺は『雷鳥』を引き抜き、腹に力を入れ、気合いを入れた。

 そのまま固まっているエージ達の脇を通り抜ける。


「なっ! まさか上級魔人に近接戦闘を挑むと!?」

「あの化け物の怖さを知らない、ただの死にたがりだな」


 魔法使いの女の子や、マッチョが好き勝手言ってくる。

 お前らはここから一生ちまちま攻撃してればいいさ。


 広間の中に足を踏み入れ、武器があるところを確認する。

『結晶獣の洞窟』と同じように、広間の一番奥に上へと繋がる階段があり、その頂上にスパイラルフォールに囲まれた宝箱が存在した。

 あれが伝説の武器だ。


「久しぶりじゃんか、赤い悪魔」

「グオオオアアアアアアアアア!!!」


 上級魔人が禍々しい形をした剣を取り出す。

 向こうも完全に臨戦態勢だ。


「俺はお前を倒して、伝説の武器を手に入れると共に、ガルムを超えたという証明をしてやる」


 開戦だ。

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