第68話 青海龍の洞窟6

 洞窟の中に入ってから何時間経過しているのかは分からないが、休憩を取りながらといえども流石に疲れてくる。

 最初は探検隊! 探検隊! って感じでワクワクしてたけど、いざ同じような景色が続くと飽きが来る。

 精神的に疲労が溜まるのは仕方ないことだろう。

 でも疲れが見えない人物が1人。


「ミナト、青色の石がある。持って帰っていい?」


 もうね、超元気。

 俺やゼロは口数が減ってきてるのにシーラはあっちに行ったり、こっちに行ったり。

 見たことが無いもの全てに興味を示して飛びついている。

 今もそこら中に落ちている青色の石を拾い集めては満足気な顔をしている。


「いいけど自分で持って帰るんだぞ。俺は持たないからな」

「うん」


 シーラは自分のポケットに青色の石を詰めていった。


「…………なんか見たことあんだよな」

「どれが?」

「あの石なんだが……ダメだ分からん。覚えてないってことは大したものじゃないだろう」


 青海龍を倒し、瀕死の討伐隊と別れてから俺たちはひたすらに道なりを進み、奥へ奥へと下って行ってる。

 そう。

 下っているんだ。


 道中、序盤に出てきた魔物達よりも手強そうな魔物や下級魔人が幾度となく現れたが、俺達にとってなおも障害と呼べるものではなく、下級魔人に至っては手駒にできるボーナスチャンスという認識になっている。

 そのおかげで俺のポーチの中はジャラジャラと青色のビー球が大量にひしめき合っている状況だ。


 そして俺達は一番下の空間まで辿り着く。


「少し開けた所に出たな」

「ここが最深部……で良さそうだ。ほら、他に穴が二つあいてる。3つに分岐したルートのゴールはどこもここに繋がってるんじゃん?」


 どの道を通っても最終的にはここに来れるってことだ。

 それにもっと分かりやすいものがある。

 例の巨大な扉だ。


「他には誰もいねーな。ヤシロの知り合いがいるかとも思ったが」

「俺達の方が早い到着だったね。まぁ一切足を止めることなくここまで来たんだし、俺らの方が早くて当然かな」

「…………これ、どうやって開けるの?」


 シーラが固く閉ざされた扉をペタペタ触りながら聞いた。


「そこに手を置く装置みたいなのがあるでしょ? そこに手をおいて魔力を流し込めば開くんだよ。でもシーラやゼロじゃダメなんだよ。俺じゃなきゃ開かない」

「何で?」

「選ばれしものだから!」

「嘘だな」

「……嘘っぽい」


 2人の中で俺はどういう共通認識なんだ!

 ちょっと言い方はガキっぽいけど嘘は言ってないからね!


「それはそれとして、今はまだ開けないよ?」

「ここまで来てもったいぶるなよ。さっさと中に入って伝説の武器とやらを手に入れよーぜ」

「ちっちっちっ。甘い! 甘いなぁーゼロ君! 母が作る卵焼きよりも甘いよ!」

「なんだその言い回し」

「俺は5大ダンジョンの踏破者だよ? この扉の向こう側に何がいるのか知ってるのさ」


 いわゆる経験者は語る、という奴だ。


「前の『結晶獣の洞窟』には、最後の部屋に上級魔人が控えてた」

「上級魔人か…………! 確かに中級魔人はいたのに上級魔人はまだ見てねーな。出てきてもおかしくはねーのに」

「知っての通り、上級魔人はかなり強敵だ。下手をすれば傷つくかもしれない。誰かが死ぬ可能性もある」

「…………どれぐらい強いの?」

「分かりやすく言うと、ここまで下級魔人がいっぱい出てきたろ?」

「うん」

「あの立ち位置が俺らだ」

「!!」


 ちょっと大袈裟に言ってしまったかもしれない。

 でも余裕こかれるよりかはマシか。


「ゼロは元々魔者として暮らしてたんだし、上級魔人についてはゼロの方が詳しいんじゃないの?」

「いや、魔王軍に属しているならともかく、俺みたいな兵隊でもない奴は上級魔人なんて早々お目にかかれる代物じゃないぜ」

「そうなんだ」


 だとすれば、上級魔人と正面切って相対したのは俺だけか。

 シーラはともかくゼロでさえも接近戦においては歯が立たないだろうな。

 無詠唱で魔法を繰り出せると言っても、ことスピードにおいては斬りつけられる方が遥かに速い。

 ガルムと共に戦った時、その時には既に俺はフロイラインを超える剣術を会得していた。

 そのフロイラインと同等程度の剣術では、いくら魔法を織り交ぜたとしてもゼロは厳しいものがあるだろう。


「一つ聞いたことがあったな」

「何を?」

「下級、中級、上級魔人の戦力的な割合だ」


 はて。

 戦力的な割合とは?


「魔人どもが魔王の手によって造られているってのは知ってるか?」

「そうだっけ?」

「とにかくあいつらは人工的に造られてる生物だ。魔者の数もさることながら、魔人の保有数もそのまま魔王の戦力に組み込まれてる」

「兵力は多いに越したこたないだろうしね」

「造るのに中級、上級って上がるほどに財力が必要なのはなんとなくわかるよな?」

「言いたいことはまぁ」


 どうやって造ってんのかは分からんけど、要は魔人を造るのにも資源や金がかかるってことだろ?

 あ、難しい話になってシーラ飽きとる。


「中級魔人1体は下級魔人50体に相当するらしい」

「なるほど。強さ的には中級魔人1体相手にするのは、下級魔人50体を同時に相手にするのと同じってことか」

「そんで上級魔人1体はその中級魔人10体に相当、下級魔人にすると500体に相当するんだとよ」

「凄まじいな! そりゃ滅多に上級魔人は見かけないわけだ」

「逆に考えりゃー、上級魔人を大量に保有してる魔王が一番ヤベー奴ってわけだ」


 上級魔人1体でも一騎打ちで勝てるか分からんのに、そんな奴らが大量に襲いかかってくると思うと背筋凍るな。

 そういや全部で魔王って何人いるんだったか。

 変人爺さんの所で買った本も結局最後まで読んでないしな。


「今、一番勢力的に強いのってどの魔王なの?」

「今か……。俺もそこまで詳しくはないんだが、魔族の中でも一番耳にするのは〝魔王ガゼル〟だな。あいつらは魔王からしてヤベー」

「あ〜なんか俺も知ってるわそいつ……」


 森の中の村で人々を虐殺してた奴らが、その〝魔王ガゼル〟の一味だった気がする。


「でも一番勢力的に強いって言うと他の魔王だな」

「他にいんの?」

「〝魔王ベルファイア〟。こいつが魔王の中では一番勢力が強い」


 魔王ベルファイア…………。

 初めて聞いたな。

 こいつが魔王の中では一番の敵になんのかな。


「じゃあその〝魔王ベルファイア〟が一番強いんだな?」

「魔王個人の話か? それだったら違うぜ。魔王個人で一番強いのは〝魔王バレットナイツ〟って奴だ」


 ???

 ベルファイアって奴よりもそっちの方が強いのか?


「じゃあその〝バレットナイツ〟って奴の方が勢力的に強くなるんじゃないの?」

「〝魔王バレットナイツ〟は少し特殊なんだよ。魔王らしくないっつーか…………自分の兵隊が使徒以外にいないんだよな。だから勢力的には一番低い」

「あーなるほどそういうことね……」


 魔王も色々いるんだなぁ。


「で、元々何の話だったっけ?」

「上級魔人についてだろ?」

「あっ、そっか。とりあえず上級魔人に対しては全力で挑まないとヤバイから、シーラとゼロの魔力が回復するまでここで休憩しようって言おうとしたんだ」

「そりゃ賛成だ」

「ミナトーーー!!」


 うわっ!

 何だ!?

 突然可愛い女の子が俺の元に! って、シーラなんだけどね。


「どした?」

「変な人! 変な気持ち悪い人がいる!」


 変な気持ち悪い人!

 気持ち悪い人に変じゃない人がいるんだろうか。

 俺がもしそんなこと言われたら立ち直れないよ。


「待ってくださいシーラさん! 私はここまでやって来ました! お話を聞いて下さい!」


 変な気持ち悪い人とは奴のことだった。

 勇者もどきのメガネ。

 嫌な所で出くわしてしまったものだ。


「エージ様! 急に走り出してどうなされたのですか…………おや? あなたは犯罪者の……」


 出会い頭に罵倒してきたこの女性は確か……ミコって名前の人だったか。

 というか誰が犯罪者やっちゅーねん。

 悪いことなんてちょっとしかやってないわ。


「あなた方もここまで踏破していたんですね。それに私達よりも早く」

「おかげ様で」

「はっ! どうせ他のルートが簡単だったんだろうよ。俺達のルートにはあの中級魔人が現れたんだからな! まぁ中級魔人の1体ごとき、俺達の敵じゃあなかったがな!」


 こっちもおったで。

 3体おったで。


「運良くここまで来れたのかもしれないですけど、エージ様の邪魔はしないで下さいね」


 魔法使いの格好をした女性が悪態をついてくる。


 何も見てないのに、よくもまぁ憶測だけでそこまでボロクソに言えたもんだ。


「まぁまぁ皆さん。運も実力の内と言いますし、そんなに言ってあげないで下さいよ」


 そうだよな。

 偶然この世界に呼び出されて最初から力をもらったお前が言えることじゃないもんな。


「それより、ここから先に行くつもりがないなら私達に先を譲ってもらえませんか? 私にはこのダンジョンを踏破して最強の武器とシーラさんを手に入れる使命がありますから」

「そうはさせるかよ。伝説の武器はやらねーし、シーラもお前のモノにはならねぇ」

「へぇ……その根拠とは?」

「本人が嫌がってるから」


 俺の後ろに回って背中の服をガシッと掴んでいるシーラを指差した。


「その程度の障害、共に時間を過ごせば彼女も僕の魅力に気が付きますよ」

「その自信たっぷりな所を否定するつもりはねぇさ。ただな」


 シーラの気持ちを俺が代弁するわけじゃない。

 だからこれから言うのは俺の本心だ。


「本人が嫌がってる以前に、シーラは俺の所有物だ。誰にも渡さないし、手放すつもりもない」


 エージの眉がピクリと動く。

 明確に俺のことを敵と認識した時の表情になった。


「勇者である僕に刃向かうなんて…………これから先、あなたが死にかけても我々は手を貸しませんよ」

「構いやしないさ。勇者なんて肩書きにこだわってたのは昔の話。お前らに協力するつもりも共闘するつもりもない。ここから先は同じ目的の敵同士だ」


 流石に俺もこいつらの発言に少しイラッとした。

 そっちがその気ならこっちもそれなりの対応はする。

 俺の言葉にエージ一行と見えない火花が散った。


「行きましょう皆さん。彼らよりも先に手に入れるんです。伝説の武器を」

「「「はい! エージ様!」」」


「俺達も行くぞ」

「ミナト」

「何さ」

「………………格好良かった」

「ああ、最高の啖呵だったぜヤシロ」

「ま、たまにはね」


 気合いの入ったところでいっちょやるか。

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