第54話 本当の自作自演

「よし、よく聞きなさい」

「うん」


 火災の翌日、ギルドにUMA扱いされたのを見て俺は宿で緊急会議を開くことにした。


「最初に会った時は別に俺がいなくても平気だったよな」

「うん」

「じゃあ何で昨日は少し俺がいないだけで癇癪起こしたんですか」

「分かんない」

「なんでや」


 成長したはずなのに退化してどうすんねん。


「俺がいなくなるたんびに炎魔法が暴発したら大変だろ? 昨日だってギリギリだぜマジで」

「分かった!」

「嘘つけ絶対分かってねぇ!」

「むぅ……じゃあどうしたらいい?」

「ええ……そんなん俺に聞かれても困るし……。じゃあとりあえず今日は別行動とってみる?」

「分かった」

「即答で答えられるのもなんか寂しいな……。そしたら今日は一日別行動ってことで決定だな」

「うん」


 久しぶりに俺は1人でフラつくことになった。


 ちなみにシーラは1人にすると何をするか分からないので、なるべく宿にいるように言いつけた。


 知らない誰かについて行く、なんてことはシーラに限って微塵も心配していないが、彼女を狙う輩は多いだろう。

 昨日も隙あらば声を掛けてきた奴とかいたしな。


 とりあえず俺はブラリと散策することにした。

 ここも王国のようだが、シャンドラ王国と比べると国の面積的にもかなり小さい。


 もちろんスサノ町よりも圧倒的に広いが、それでも世界の中心と呼ばれているらしいシャンドラ王国を最初に見てしまった以上、これからどの国に行っても見劣りしてしまうことになるだろう。

 ただ国によって文化や特産は違うみたいで、シャンドラ王国では(ちょっとしか店を回れなかったが)初代勇者エレクにまつわる物産品が多かった。


 エレクが使っていた武器の贋作とか、エレクの『勇者の証』の紋章が入った食器など、本人が既に死んでることをいいことに商品化しまくりだった。

 商売根性逞しすぎるぜ。


 色々国の中を見て回ると、どうやらこの国もシャンドラ王国の属国というカテゴリに入るらしいことが分かった。


 同盟とか連合とかじゃなくて、属国。


 裏のめんどくさそうな政治絡みなんて知りたくもないけど、敵対してないだけマシだといえるな。


 夕方までギルドに寄ったり武器屋に寄ったり、外に出て近くの魔物を狩りながら日課の修行を行って過ごした。


 なんか久々にゆっくり出来た気がする。

 いや、別にシーラがいないからってわけじゃなくて、村に立ち寄ったら魔王軍の侵略に出くわしたり、この国に来てから2日連続で厄介事に絡まれたり、事件に遭遇する確率が異常に高い。


 俺がトラブルメーカーなのかシーラが引き寄せるのか……。


 たぶん俺だよな。

 この世界来てからずっとだし。

 ずっと絡まれとるし。


 だから今日みたいに平和な1日が続けばいいのにー、なんてフラグが立つような事を考えてしまったがために俺は争い事に巻き込まれた。


 宿に帰る途中、夕暮れで少し赤みがさしている路地に人が2人向かい合って立っていた。


 俺がいるところからは逆光で影としか見えないため、それが男なのか女なのか判断はつかないが、手前の人が剣を抜いたのが分かった。


 他に周りに人はいない。


 もしかして……例の殺人犯か?


 手前の人が剣を構えて斬りかかった。

 その動きは素人のスピードではなく、シャンドラ王国の騎士フロイラインに近かった。


 金属音が響き渡ったことからもう1人が防いだのが分かる。

 そこから幾度となく剣がぶつかり合う音が鳴り響き、俺は動くべきか退くべきか戸惑った。


 今なら余計な事に首を突っ込まなくて済むわけだけど……。

 日が落ちきる直前だったのか、徐々に周りが暗くなり、逆に動き回る2人の姿を確認することができた。


 その2人はどちらも俺が見たことある人物だった。


 1人は細い糸目が特徴のA級討伐者シジミさん。

 もう1人は殺人現場で見かけた銀髪の青年だ。


 2人は狭い路地の壁を使いながら縦横無尽に激しい攻防を繰り広げている。

 

シジミさんが銀髪の青年と戦っているということは、やはり彼が殺人犯だったということだろうか。


 だったらクエストの横取りは良くないよな。

 シジミさんはA級討伐者みたいだし、あの動きから見ても確かにかなりの実力者なのは分かる。


 1人でも大丈夫だとは思うけど……あの銀髪の青年もかなり強い。

 シジミさんが若干押されている。


 助けに入った方がいいんかな。


 これだけハイレベルだとられる時は恐らく一瞬だ。

 俺が動く前に斬りつけられるかもしれない。

 なら行くか……。

 文句を言われたらその時戦線離脱しようぜ。


 俺は『雷鳥』を抜いて走り出した。

『獅子脅し』で撃つことも考えたが、これだけ速く動いていたら誤射しかねない。


 2人がお互い距離をとった瞬間に、俺は銀髪の青年に水平に斬りかかった

 俺の初撃は防がれたが、そのまま力押しで10mぐらい銀髪を吹っ飛ばした。


「何だ!?」

「君は……ヤシロ君じゃないか! どうしてここに?」

「偶然通りかかったらシジミさんがいたんで。少しピンチっぽかったんで助けに来ました」

「へぇ……そりゃ助かりますね」

「何だってんだよ急にぞろぞろと」


 銀髪の青年が鬱陶しそうにため息をついた。


「今日はあの赤髪の女の子はいないんですか?」

「ちょっと別行動中でして」

「なるほど……」

「それよりあいつが例の殺人犯で間違いないんですか?」

「は? 殺人犯? 誰が?」


 銀髪がハテナマークを浮かべながら聞いてきた。


「お前だよ。もう2人殺してるだろ」

「何の話だよそりゃ。俺は誰も殺してなんかないぜ。人間社会に混ざって生きてるのにそんな目立つことするわけねーじゃん」


 何だ? 話がうまく噛み合わんな。

 嘘ついてるなコイツ。


「一昨日、お前は男に服にシミがついたって因縁つけられてたろ。それで店の外に出て行った後、路地裏でその男を殺した」

「待て待て。アイツだろ? 弁償しろっつって10万 D《ドラ》払えって言ってきた奴。俺はしっかりそいつにお金払ったぜ?」


 払ったんかい!

 いやいや、嘘ついてるに決まってる。


「それに昨日、人通りが少ない道を通ったお前は通りすがりの男を殺した」

「昨日……? ああなんか男が血まみれで1人倒れてたな。気味悪いからすぐにそこから逃げたんだよな」


 詭弁きべん詭弁きべん

 証拠が少なすぎて信用するには値しないな。


「今だって急にその男に襲われたんだからな。理不尽にもほどがあるだろ」

「シジミさん、今の話マジですか?」


 突然、衝撃とともに俺のお腹に突き刺さるような痛みと熱を感じた。

 見ると、腹から剣が突き出ている。

 その剣は血に濡れ、ポタポタと地面に垂れている。


 誰の血?


 俺の血だ。


 理解すると同時に上級魔人に刺された時と同じような激痛が走った。

 いや、それよりもずっと痛い。

 耐えられない痛みだ。


「な……何が……」

「1人で助けに来てくれてありがとうございます。とても好都合でした」

「ぐあっ!!」


 剣をズルリと抜かれ、思い切り背中を蹴飛ばされた。

 地面に激しく叩きつけられ、受け身も取ることができずにゴロゴロと転がったまま身動きが取れない。

 唐突すぎてまだ頭が理解出来ていない。

 シジミさんが……俺を刺した?


「どうなってんだ? あんたら味方じゃなかったのか?」

「………………ぐっ……どういうことだ」

「その銀髪の青年は殺人犯ではありません。あの2人を殺したのは私です」


 相変わらずヘラヘラした顔で自分が殺人犯だと自白するシジミ。


「私は討伐者。魔王の軍勢を討伐する者。そこにいる銀髪の彼は……魔者です」

「なんだよ、バレてんのか」

「彼を殺人犯に仕立てあげて、他の討伐者と一緒に討伐するために指名手配という形をとるようギルドにお願いしたわけなんですが……まさかヤシロ君が来るとは……」


 そんなことのために人を2人も殺したのかよ……!


「………………だったらそれと俺を刺すことにどう繋がりがある」

「君が一緒にいる赤髪の女の子……あれも魔者ですよね? それも魔族の中でも滅多にいない最強のレッカ族。そんなのと一緒にいるということはあなたも敵ですよ、敵。そんなのと一緒に共闘するなんて私のプライドが許さない。彼女もいずれ討伐しますが、その前にちょうど君がタイミング良く来たので刺させてもらいました。君もかなりの実力者のはずですからね、助かります」


 狂ってる…………!

 言ってることもよく分からないし、魔者を殺すために思考を停止させて人を殺すとかどうかしてやがる……!


 ドクドクと血が流れていくのが分かる。

 腹が痛すぎて頭がうまく働かない。


「よく分からんけど、お前らは味方じゃなかったってことか?」

「そうなりますね。私からしたら最初から敵でした」

「ふ〜ん……。なぁ、お前は魔者と一緒に行動してるって本当か?」

「……う……ああ、本当だよ」

「へぇ……何でだ? 魔者って人間の敵だろ? なんでそんなのと一緒にいるんだ?」

「…………?? そんなもん決まってんだろ……。たとえ魔者が人間と敵対していたとしても、そいつは俺にとって大事な奴だからだよ」


 俺の言葉を聞いて、銀髪の青年がまるで子供のようにニヒッと笑顔を向けてきた。


「そうだよな! 例え人間と魔族が敵同士であったとしても、全部が全部そうじゃないよな! 良かった良かった! お前らみたいなのもいるんだな!」


 どういうことだ……?

 こいつも魔者なんだろ?


「よし! 俺はお前を助けるぜ! せっかく俺が目指す形の例が目の前にいるんだ! 死なせたりなんかさせねぇよ!」

「魔者風情が人の社会に紛れないでください」

「人間のくせに人間の道理を外れた男に言われたくねーな」

「生意気ですね。死んで下さい」

「俺はウィン族、ゼロ・レパルト! 人と魔者は仲良く!」


 死んだ奴こそが敗者だ。

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