第53話 自作自演
「ストップ」
俺は瞬時に『獅子脅し』を取り出し、声をかけてきた奴に対して銃口を向けた。
「私ですよ私。ドリトルです」
「シジミさん……」
「誰ですかそれは」
銃口の前には両手を挙げたA級討伐者のシジミさんが立っていた。
相変わらずヘラヘラとしており、何とも緊張感のない顔だ。
俺は『獅子脅し』を拳銃入れの中にしまった。
「まさかこんな所で再び会うなんて思いませんでした」
「俺もですよ」
「それにしても今の…………見ていましたか?」
今の?
銀髪の青年がこの男性を殺した所だろうか。
だとしたら俺は見ていないからな。
「いや、見てないですね。ここを通りかかったら男性が1人死んでいたので、ビビって逃げる所でした」
「なるほど偶然通っただけということですか…………」
シジミさんが何か考えるように閉じている目をさらに閉じて唸っている。
何だ、開眼するのか。
某忍者みたいに万華鏡になるのか。
「まぁいいでしょう。ではアレを誰がやったかは見ていないわけですね?」
「そうですね。もし見てれば噂の殺人犯の有力情報になったのかもしれなかったですけど。あ、もしかしてシジミさんもそれが目的で?」
「だから誰なんですかそれは……。まぁ…………それに近いですかね」
「だったら怪しい奴なら見かけましたよ」
「本当ですか?」
別に俺が殺人犯を探してるわけじゃないし、あの銀髪の兄さんが何者なのか分かればスッキリするし、この際シジミさんに調査を任せよう。
「この前の1人目と今回、両方とも銀髪の男の人が近くにいたのは見てます。俺と同じぐらいの歳で、あんまり銀髪っていうのは見かけないからすぐに分かると思います」
「なるほど……それは中々興味深い情報ですね。ですが良いのですか? それを私に教えて。もし本当であれば、ギルドに言えば少なからず報酬が出ると思いますが……」
「国の軍には既に教えてる情報ですし、別に俺は犯人を探してるわけじゃないですから」
あるのは興味本位だけだぜ。
「銀髪の青年ですか……私もどこかで見かけたような気がします」
「そういうことなんで。情報の代わりと言ってはなんですけど、そこの殺された人の扱い、お任せしてもいいですか?」
「ええ、そういうことなら。後は私が国に手配しておきます」
ラッキー。
言ってみるもんだな。
「じゃあよろしくお願いします」
「お任せ下さい」
A級レベルでも歳下の人に対して腰低く当たる所は好評価だよなこの人。
俺も見習いたいものです。
俺は元来た道を引き返し、シーラがいる広場へと戻ってきた。
俺がいないことに気付かずにずっと練習してんのかな?
よく考えたらここ何日もずっと、片時も離れていなかった気がする。
このままだと巣立ちのできない雛鳥みたいになっちゃいそうだけど大丈夫かな?
いや、どんな生き物も勝手に親元を離れていくものだよな。
それを見てお父さんは涙を流すものなんですよ、うん。
シーラもいずれはそうであれ!
─────────広場が大炎上していた。
いや、ネット用語的なアレじゃなくて、物理的なアレで。
うわーあったけぇ……。
まるで山火事キャンプファイヤーみたいやぁ……。
言うてる場合か!
言うてる場合か!!
なんじゃこりゃあ!
ただの大火災じゃねぇか!
想像したくないけど想像通りの原因だろきっとこれ!
「シーラ!!!!!」
大声で呼んでみるが、周りの人達の悲鳴で掻き消される。
恐らくこの炎の中心部にシーラはいると思う。
まさか自分の炎で焼け死ぬなんてことはないと思うが、最初の頃はコントロール出来ていないこともあったから万が一がある。
討伐隊の人達なのか国の人達なのか、水魔法で消火を試みているが、焼け石に水状態だ。
それほどまでに今のシーラの魔法は威力が強いのか。
俺は『雷鳥』を抜いて全力で振り切った。
剣圧で炎が掻き消される。
僅かに進むことができた。
連続で空を切り、俺の周りから炎が消えていったが、少しでもやめれば直ぐに炎に包まれてしまう。
めっちゃ熱い。
喉痛い。
それでも動作を止めることなく歩み続けた。
しばらくすると炎が無いポイントまで辿り着き、中央にうずくまっている赤髪の少女を発見して、俺はホッとした。
「何やってんだよ…」
シーラが声に反応して振り向いた。
炎に囲まれながらも彼女の瞳は涙で濡れており、とても17歳の女の子には見えないほど頼りなかった。
「ミナト……ミナトぉぉ!」
「なんでそんな泣いてんの……うわっ鼻水汚な! 俺の服にベッチョリーヌ!」
「うえええええん! なんで急にいなくなったの!? やだああああ!」
ええ……。
本当に親離れ出来ない雛鳥じゃんか……。
ちょっと重症すぎるな……。
「悪かったよこっそり居なくなって。もうしないから許してつかぁーさい」
「………………」
沈黙。
困るよ拗ねないで。
「とりあえずこの炎消してさ……でも今消えたらヤバイよな俺ら。また悪者扱いされて迫害されそう。被害に遭った人がいなければいいんだけど」
「…………ちゃんと誰も傷つかないようにコントロールした」
「器用な癇癪の起こし方だな! 割りかし冷静じゃねーか!」
そしたらどうやってこの場を切り抜けるかだな。
要は俺たちがこれをやった犯人だとバレなきゃいいんだけど………………あ、これいいかも。
俺はポーチの中から青色のビー玉を親指と人差し指で押し潰した。
光が形作られ下級魔人の姿へと変わっていった。
「どうするの……?」
「こいつにぶん投げて貰ってここから脱出する。だから炎は消さなくていいよ。周りの人達に消してもらおう。そんで、この火災はこの下級魔人のせいにしちゃおうぜ」
そうすれば俺達が犯人扱いされることはないだろう。
犯人なんですけどね。
「…………迷惑かけてごめんなさい」
「いいよ今さら。責任とるのが俺の仕事だ」
俺にシーラをお姫様抱っこし、それを下級魔人が両手で
後はロケット砲のごとく飛ばされるだけだ。
「しっかり掴まっとけよ」
「うん」
「よし、レツゴォォ!!」
俺の掛け声とともに下級魔人が高い建物の屋根へと向けて俺達をぶん投げた。
「うおおおおお割と怖ええええええ!!」
空中を猛スピードで風を切りながら飛んでいくのは、下手なアトラクションよりもよっぽどスリルがあった。
流石に誰にも見られていないとは思うが、万一見られていても人が炎から飛び出したとは思うまい。
俺は見事建物の屋根に着地した。
着地した衝撃で屋根が少し壊れてしまったのは本当に申し訳ないです。
「大丈夫だったか?」
「うん、平気」
広場を見ると徐々に炎が鎮火されていってるのが分かった。
うむ。
作戦通りである。
──────────────────
翌日、討伐ギルド。
『緊急クエスト、空飛ぶ人間の情報を求む!
「めっちゃ見られてんじゃん!」
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