第55話 A級討伐者

 改めて勝負! じゃないぜホント。


 あのクソ野郎、ずっと俺のこと騙してやがったのか。

 あいつが俺にギルドで話しかけてきたのも、最初からシーラが目当てだったってわけだ。

 分かる奴は姿を見ただけで魔者かどうか区別がつくってことか?

 シーラのことは種族を知っていたから魔者だと判別がついたと分かるが、それ以外にあのゼロって奴が魔者だと判別できる要素があるということか。


 ああ、クソ。


 ズキズキと刺された部位が痛む。

 灼けるような痛みはまともな思考を失わせる。

 それでも目の前では、銀髪の青年、ゼロ・レパルトが殺人犯であるシジミと死闘を繰り広げていた。


 A級討伐者であるシジミは、確かに今まで見たどの討伐者よりも強い。

 下級魔人であれば奴1人でも討伐できるだろう。


 しかし、それでも俺なら負ける気はしない。

 動きだけなら中級魔人の方が上だ。

 奴がマスター級の魔法を使えるのなら分からないが、単純な戦闘力だけなら負けはしない。


 本当なら俺がやり返してやりたいのに……!


「魔者でも剣術という概念はあるのですね」

「バカにすんじゃねーよ。魔法だけが能かと思ったか?」

「私が討伐してきた者達は、魔法だけが能の者ばかりでしたから」

「なら考えを改めることだな。魔王や使徒は、剣術と魔法どっちもレベルが違うぜ」

「あなたもそのレベルだと?」

「さぁ? どうだろうな」


 銀髪の青年、ゼロの周りを囲むように突風が吹き荒れ始めた。

 周りを巻き込むように、ゼロを中心として竜巻が発生する。


「その身で体感してみたらどうだ?」

「風魔法……生産魔法の中でも貧弱な魔法を使いますか」

「どんな魔法も使いようだぜ人間」


 魔者は無詠唱で魔法を使うことができる、いわゆるマスター級だ。

 人間が無詠唱で魔法を使うことが出来るようになるには、単純にセンスが必要らしい。


 シジミがゼロに突っ込む。

 俺の方には全く影響がないが、シジミの服が激しくはためいていることから、突風が奴を襲っているのが分かった。

 それでも構わず突撃してきている。


「紡ぎ、発光せよ! 神のいかづちを持って細胞を死滅させ、強制的にふるえ上がらせるその豪雷ごうらいは狂神の怒りと知れ! 閃光の地雷矢ライトニングアルミン!」


 何百という数の雷の矢が放たれ、なおかつ地面、壁を伝って標的へと雷が向かっている。


 上級魔法の一つ上、魔術級の雷魔法か。

 確かガルムの話だと魔術級が使える人間はセンスがあっていずれはマスター級を使えるようになるって話だな。


 ゼロは正面に土壁を作り出して飛んでくる雷の矢を防ぎ、なおかつ地面を伝ってくる雷に対しては、風魔法によって宙に自身を浮かせるというトリッキーな技で対応してみせた。

 同時に二つの魔法を使うことができるマスター級の特権だ。


「地と空からの同時攻撃を防げる者は中々いないのですが……」

「俺は普通じゃねーからな」

「ですが私も同時に2つの魔法を使う敵は相手にしたことがあります」

「あ、そう。でも悪いけど俺は同時に2つじゃないぜ?」

「……どういうことですか?」

「そっちの。ケガはどんな感じよ? 止血ぐらいはできたか?」

「え?」


 急に振られて気付いたが、俺の刺された部分の痛みはまだ続いているが、既に血は流れ出ていなかった。

 傷が塞がっているんだ。


「治癒魔法は俺も大して使えねーけどよ、それでも傷口を塞ぐぐらいのことはできっから」

「まさか……私と戦いながらも彼の治療を行っていたと?」

「器用だろ。でもまだそれだけじゃない」

「どういう……うっ!」


 さらにシジミに吹き付ける風が強くなった。

 だがそれに加えて何かがおかしい。

 ただ猛風が襲っているだけにしては、とても息苦しそうにしている。


「ぐっ……かはっ! ……これは……氷魔法ですか……」

「何て言ってるのか分からねーけど、たぶんお前が思ってる通り、俺は風魔法に氷魔法を加えて冷気の突風にしてる。普通の人間なら呼吸もままならねーだろ?」


 風が強い寒い日に自転車に乗ると、肺に冷たい空気が入って痛くなるあの感覚に近いんだろうか。


「こんな子供騙しみたいなもので……!」

「でも効くだろ? こういう搦め手は。もっとエゲツないものもあるけどどうするよ。個人的にはこのまま消えて欲しいけどな。それで今後は俺に近づくな」

「魔者に情けをかけられてたまりますか……!」


 シジミは地面に剣を突き刺し、風に飛ばされないように体を支えながら再び魔法を詠唱しようとした。


 ドンッ!


 シジミの右腕から血飛沫が舞った。

 俺が『獅子脅し』を使って銃撃したのだ。


 例え痛みがあろうとも、その場から動かなくても、奴にこの傷の借りを返すことぐらいできる。

 つーかやり返さないと気が済まない。


「ぐあああああああ!」


 シジミは剣を掴んでいた手を撃たれ、その衝撃と同時に手を離してしまい、突風によって後ろに吹き飛ばされていった。


「なんかすげー攻撃したな今。何やった?」

「……企業秘密」


 秘密にするほどのものでもないけど、ペラペラ話すようなものでもない。

 企業秘密って便利な言葉だね。


「さて、2対1になったけどどーすんだ? 個人的にはお前に恨みは無いんだけど、こっちの兄ちゃんはお前に刺されてるからな。このままり合って殺されても文句は言えねーよ? 俺はこの兄ちゃんが死んだら困るから、もし続けるなら俺も戦う」

「くっ……。魔者と手を組んで戦うとは……やはり私の目に狂いはなく、あなたは人間の敵のようですね……」


 どの口が言ってんだ。

 そういう風に仕向けたのは貴様だろうが。


「兄ちゃんはどうする? キッチリあいつはシメとく?」

「…………個人的には裏切られたと思ってるし、ぶっ殺したいほど憎んでるよ。油断さえしなければ負けはしないし」

「おお、A級討伐者相手に大きく出るじゃん。おもしれー」

「それに魔者を討伐するために無関係の人を殺してる以上、もう普通には生きられないだろ」


 ゼロが風魔法を使うのをやめたのか、シジミが撃たれた右手を抑えながらゆっくりと起き上がった。


「ふー、ふー、子供が私に説教する気ですか」

「説教なんかじゃねぇよ。妥協案だ。見逃してやる代わりに出頭しろ。自供しろ。そういう罪を罰するところがこの国にもあるんだろ」


 この国というかこの世界に、だけど。


「ふざけるな……! どこまで私を馬鹿にするんだ貴方達は……!」

「ふざけてるのはお前だ。ここまでの事をしておいて今まで通り暮らせると思うなよ」


 逃げてくれるなら良し。

 向かってくるならなお良し。

 俺の気が晴れるまで叩きのめしてやる。


「かかって来い。完膚なきまでやり返してやる」

「くっ……何故かあなたには勇者と……3代目勇者グリムと同じ圧力プレッシャーを感じる。あなたは一体なんなんだ」

「お前が人の道理を外れた人間なら、俺は世界の道理から外れた人間なんだよ」

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