閑話

第40話 英雄と呼ばれた少年2

 次に文献を開いた所、【ヤシロミナト】という少年はここから直近の町、スサノ町へと向かったと記されていた。


 スサノ町関連で1つ有名な話を聞いたことがある。

 そこには、行方不明となっていた2代目勇者の仲間の一人が本屋を営んでいたという話だ。


 その人物とは、『大魔導士ヴィガン・シューベル』。


 2代目勇者に魔法を教えた師匠的存在であり、マスター級魔法の先駆者とも言われている。

 魔王リネンとの戦いにより、勇者と共に生死不明とされていたが、行方不明から15年〜20年の間にスサノ町の一角で似た人物が本屋を営んでいたという話だ。


 だが、あくまで似た人物であるというだけであり、話によると聡明とは程遠いただのボケ老人だったという説もある。


 信憑性は薄いだろう。


 それはさておき、少年がこの町に来た際に出会った人物についても記されている。

 そこで会った人物とは、現在A級討伐隊として活躍している8人組のベテランチーム『鋼殻のブルータス』のリーダー、リッキー氏だった。


 彼はスサノ町にはいなかったが、ギルド伝いに連絡を取った所、少年の名前を出した所で快く引き受けてくれ、スサノ町まで来てくれるというのだ。


 反応からするに、フロイライン・アッシュガード氏とは違い、リッキー氏はヤシロミナトという少年と交流が深そうに感じられた。


 待つこと5日。

 スサノ町に『鋼殻のブルータス』がやって来て、リッキー氏と接触することができた。


「彼の話が聞きたいというのはあなたか? 最初にまず聞かせて欲しいのは、彼の所在についてなんだが…………なんだ知らないのか……残念だ。いや、彼と最後に会ったのが15年前の魔王ガゼル討伐戦だったので、それ以降彼らとは一度も会っていなかったから久しぶりに会いたいなってね。彼ら? ああ、その時には彼は何人か仲間を連れていたよ。真っ赤な髪の女の子に、銀髪で二本角がある男、魔法使いの格好をした女の子に、黒い髪で刀を携えた女性。途中で別れたから彼らがどうなったのか分からないけどね」


「真っ赤な髪の女の子は、最初にこの町に会った時にもいた気がするなぁ。討伐隊を作ったばかりだっていうことで、名前は『紅影あかかげ』だね。そう、『紅影』。確か、その時は魔王の軍勢が攻め込んで来ていて、下級魔人を相手にしていた時に彼らが参戦してきてくれて、俺達が優勢になったんだ」


「だけど中級魔人が来た時には俺も終わったと思ったね。シャンドラ王国から救援部隊が来ない限り勝てるわけが無いと思ったよ。でも彼らは違った。D級討伐隊の彼らが果敢にも挑んでいって、それも互角の戦いを繰り広げていたんだ。そんなのを見せられて、ビビってられないと俺達も援護に回ったんだよ。まぁ呆気なく瞬殺でやられたんだけど」


「結果的に真っ赤な髪の女の子がマスター級の火魔法を使って、それを追い風に彼が中級魔人を討伐してしまった。それを見て俺達の意識も変わったよ。このままじゃダメだってね。自ら魔王との戦争地域に行って世界を救うことができる人間になろうと思ったよ。彼が俺達を変えたんだ」


「もう15年も彼の姿を見ていないから、彼がどんな顔だったのか忘れてしまったよ。まさか死んだとは思いたくないが……もし会うことがあったら伝えてくれないか。一緒に酒でも飲もうぜってね」


 ここにおいても彼の話は信じ難い内容だった。


 中級魔人の実力は今でも知られている。

 当時のS級討伐者と同じレベルだという話だ。


 つまり、この少年はこの時既に、S級討伐者並の実力があることになる。


 これはいよいよ本物かもしれない。


 歴史に名を刻めなかった人物でありながらも、この世界に痕跡を残している【ヤシロミナト】。

 15年前ということは、少なからず最初に姿を現してから5年間は生きているということだ。

それも仲間と呼べる人を連れて、魔王討伐にも関わっているという。


 なんとなく予想はしていたが、彼もまた魔王討伐に一枚噛んでいたのだ。


 リッキー氏もフロイライン氏と同様に彼に対して伝言を残していった。

 もしこの文献通りに辿っていった先に彼がいたのなら、全ての言葉を届けるメッセンジャーとなろう。

 そのためにも、急ぎ次の目的地へと向かうことにする。

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