第39話 旅の目的

 どれだけこの町にいたのか分からない。

 少なくとも夜を10回は越した。


 順調にギルドのクエストを受領しては達成してを繰り返していたところ、個人討伐ランク、討伐隊ランク共にC級へと昇格した。


「C級への昇格を承認致しました。これで貴方方は今日からC級討伐隊と名乗ることができます」


 ギルドの受付にて、手続きを済ませた。

 C級までは討伐クエストを無難にこなしていれば直ぐに上がれると聞いていたので、そんなに驚きはない。


 でもやっぱり嬉しいものは嬉しいぜ。


「C級になったら何か変わります?」

「そうですね…………。D級と比べ、それほど大幅に何かが変わることはありませんが、強いて言えば身分を提示するのに多少の信頼度が上がることでしょうか。あくまでD級と比べてですが」


 免許証みたいなもんか……。

 このIDカードを見せれば個人の証明が出来るってことね、了解。


 ギルドの中は相変わらず閑散としていた。

 シャンドラ王国から近い町だというのに、討伐者の数は圧倒的に少ない。

 いや、近いからこそだろうか。

 みんな本部があるシャンドラ王国に流れるんだろう。


『鋼殻のブルータス』もその後ギルドで一度会ったっきり、姿を見かけなくなった。


 魔王との紛争が続く地方に行くと言っていたので、恐らく既に町をったのだろう。


 わざわざ戦争状態の場所へ向かうなんてどうかしてるって今は思ってるけど、この世界に絶望してなければ俺も今頃はそうなってたんだろうな。


 危ない危ない。


 でもこのまま目的も何もないっていうのは正直喜ばしいことじゃないよな。

 毎日変わらず稽古はしてるけど、最後にモノを言うのは実戦経験だ。

 FPSのゲームでいくらシミュレーションしようが、知識を増やそうが、本物の戦争じゃ役に立たない。

 だから危険を犯して実戦を積むのがいいか、平和な今を維持するのか……この板挟み……! どうしたらいいのかお兄さん悩む!


「シーラはどっちがいい!?」

「…………どっち?」


 シーラが、急に何言ってんだコイツみたいな目で見る。


 その道のM《マゾ》なら昇天しそうなほど冷たい目だ。

 まぁ俺はN《ノーマル》だから関係ないけど。


「戦いに身を投じるか、平和に世の中を満喫するか」

「………………」


 お、結構真剣に悩んでる。


 人間は考える葦であるとはパスカルの言葉だ。


 意味は知らん。


 ついでに言えばシーラは人間でもない。


 じゃあ何で言ったんだろうな俺は。


 わけ分からん。


「お父さんとお母さんに会いたい……」

「お母さん?」

「うん……。私が知らない男の人達に捕まった時、お母さんもお父さんも周りにいなかった」


 シーラが拉致られてきた時のことか…………。

 そういえば最初にシーラを奴隷として買った時、全く何も喋らなくて事情は特に聞いたりしてなかったんだっけ。


「ちょっとシーラが捕まった時のこと聞いてもいいか? その辺りのことを俺は知らないんだ」

「うん」


 そう言ってシーラは自分が奴隷商人に捕まった時のことを話し始めた。


「確か、もうすぐお母さんの誕生日だからってことでお父さんとプレゼント買いにお店? に行ってたの。」

「店……っていうのは魔者が経営してる?」

「分かんないけどつのとか生えてた」


 じゃあ確実に人間じゃないな。

 魔者にもやっぱり町とか国とかってあるんかな。


「そこでお父さんがお店の人と話してたら、近くから誰かの悲鳴が聞こえたのと同時に目の前が全部真っ白になって、気が付いたら森の中に倒れてた。雨も降ってたし」


 森の中に倒れてた……。


 悲鳴と同時に視界が真っ白になったってことは何かがあったわけか。


 奴隷商人が何かしたのか?

 いや、流石に魔者の住処に何かできるほど強そうな奴は居なかったと思うけどなぁ。


 何かそういう魔法があるんだろうか。


「お父さんも周りにいなくて、お父さんを呼びながら森の中を歩いてたら、知らない男の人達が現れて……」


 ここで現れたのがシーラを捕まえた奴らのようで、シーラが聞いた会話の内容では、『こんなところにガキがいますよ』『真っ赤な髪の毛……レッカ族のガキか?』『まさかぁ。あの種族が住むのはサンクリッド大陸の方ですよ? こんな真逆のところに、それも一人でいるわけが……』『なんにせよ、本物だろうが偽物だろうが、コイツをレッカ族の魔者だって言って売りぁ高く売れるぜ』『マジっすかお頭! 嘘ついて平気ですかね!?』「な〜に、魔法使わせないように魔力封じの指輪を着けさせるよう奴隷商人の奴らに言えばバレねぇさ。誰もレッカ族のガキなんて希少種、本物を見たことなんかねぇからな』『確かに……。大人ですら数が少ないですからね』『そうと決まれば確保だ。嬢ちゃん、悪いけどしばらくネンネしてな』


 そう言って殴られて、シャンドラ王国に着くまで起きては殴られ起きては殴られの繰り返しだったらしい。


 魔者の村? で起きたことに関してはどうやら奴隷商人の奴らは関係ないみたいだ。

 奴隷を売るやつと連れてくるやつ、別れてるみたいだな。


 今からシャンドラ王国の奴隷商人共ボコボコにしてやろうかと思ったが、あいつらも騙されていたわけか。


 まぁ実際は本物だったわけだけど。


 シーラを殴った奴らをもし見かけたら、同じ数だけ男の急所を殴って再起不能にしてやる。

 狙われている恐怖を知らずに過ごすがいい。


「だから……お父さんとお母さんにもう一度会いたい」


 そう言ってシーラは少し鼻をズビビッとすすった。


 理由は分からないが唐突に親と引き離され、酷い仕打ちを見知らぬ男達から受けた。

 なんとなく何をされたのか察してはいたが、改めて聞くと胸糞悪い。


 よくもまぁ人間不信に陥らなかったよ。


 もし俺が召喚された時に魔者から奴隷みたいな扱いを受けてたら、一生魔者を恨んで許さないだろうな。


 いやまぁ、俺もめちゃくちゃ殴られたりはしたけどさ某勇者に……。

 とはいえ、シーラが何かをしたいって言うなら、俺はそれを全力で叶えてやろう。


 それが保護者としての義務さ!


「じゃあ会いに行こうぜ。シーラのお父さんとお母さんにさ」

「…………いいの?」


 シーラが瞳を濡らしながら、上目遣いで見てくる。


 そんな技を覚えさせたことはないと思うが、女って奴は自然に男を落とすテクを身に付けるものなのな。

 否、男が勝手に勘違いするのか。


「もちろん。それにまだお母さんに誕生日プレゼント渡してないんだろ? だったらとびきり喜んでもらえる物を渡してあげないとな」

「うん!」


 俺はシーラの髪をクシャクシャと撫でた。

 ちょっと頭の位置が高くて撫でづらくはあったが、成長しても変わってない。

 頼りない、女の子の頭だ。


 そして次の日、俺達はスサノ町を出てサンクリッド大陸と呼ばれる所へと向かうことにした。

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