第37話 再確認しよう

 俺達は暇潰しに町の中をグルリと散策することにした。

 シャンドラ王国ほどではないが、この町もそこそこの規模を誇っている。


「お、化け物討伐隊の『紅影あかかげ』じゃないか。調子はどうだい?」


 フラフラと歩いていると、3人組のB級討伐隊『鋼殻のブルータス』が声を掛けてきた。


「どうも。というか、俺達はD級討伐隊なんですから、化け物呼ばわりはやめて下さいよ」

「中級を倒せるD級討伐隊がいるかっつーの。そっちの女は魔者なんだろ? 奴隷ってことにして他の奴と討伐隊を組めばいいじゃねぇか。そうすりゃすぐにA級以上の討伐隊だ」


 背の高い男が中々無礼な事をいう。

 再三言うが、俺は我慢強い男。

 本来は命を取るところを足一本で許してやる。

 歯を食いしばれ!!


「やめろよオーバ。すまない、粗暴な所がこいつの悪いところなんだ」

「そうよオーバ。めっ」

「何だよ言ってることは間違ってないだろ」

「そうだとしてもモラルに欠ける発言は火種の元だからやめてくれ」


 仲間の2人が取りなしているのを見て、何とか抜き掛けた剣をバレないように静かに鞘に収めた。


「そう言えばお互い自己紹介がまだだったね。俺は『鋼殻のブルータス』リーダー、リッキーだ」

「メイル・ステュアートでーす」

「オーバ・ヤングだ」

「リーダーの俺とオーバがB級討伐者で、メイルがC級だな」


 人当たりの良さそうなリーダーに、天然ぽそうな女性、背の高いKY男ね。


「俺は八代やしろ ミナトって言います。討伐者になって3日目の新人です。よろしくお願いします」

「新人ねぇ…………今時珍しいな、これだけ強くなってから討伐ギルドに参加するなんて。普通は早い段階で討伐ギルドに入って、ランクを上げてから他の国に仕官したりするのに」

「そうなんですか?」

「そうしたほうが効率がいいからさ。それで、そっちの魔者の子は?」

「…………シーラ・ライトナー」

「魔者にしては良い女だよな。性奴隷にしたほうがいいんじゃねぇの?」

「「オーバ!!」」


 さすがにリッキーとメイルの2人に頭を殴られ、呻いている。

 俺も殴っていいんだろうか。

 俺が殴ったらアン◯ンマンみたいに頭が吹っ飛んでいくと思うけど、いいだろうか。


「何だよ、魔者なんだからいいだろ」

「デリカシー無さすぎ!」

「少しは考えて発言してくれ! 彼が本気になったら俺達3人、10秒足らずで細切れだ!」


 いや、しないけど。

 俺かて理性はあるわい。

 やっていいこととやっちゃいけないことの区別ぐらいつくさ。


「ねぇミナト、性奴隷って何?」

「…………大人のオモチャ的な?」

「オモチャ!? 面白そう!」


 ほらピュアな子が1人曲解して食いついちゃったじゃんか。

 その面白さを知るのは10年早いぞ。

 間違えた、性奴隷の面白さなんか一生知らなくていいわ。

 失言失言。


「もう一度謝罪するよ。申し訳ない」

「お気になさらず。階級が低い僕達が、階級の上の方々に逆らうなんてことは出来ませんから」

「何だその縦社会……。そんなのないからさ、結局は実力社会なわけだし」

「だよな。心配して損した」

「急に態度が変わったけど!?」

「冗談です。ともあれ、分からないことだらけなんで、何かあれば教えて下さいよ」


 コミュニティの輪は大切にしておいたほうが、後々自分のためになることが多いからね、多少面倒臭くても人付き合いはしておかないと。

 社会人でよくある接待的な奴さ。

 接待したことないけど。


「もちろん構わないよ。ただ……」

「私達も先日の緊クエで中級魔人に手も足も出なかったから、もう少し鍛えよーってことで、より魔王と紛争を繰り返してる所に行こうって話になったんだー」

「つまりこの町からは直ぐに出て行くと?」

「まぁそうなるね。平和な所でのんびりやるのもいいと思うが、奴らは何処から現れるか分からない。魔王達がいる限り、この世界に安息の地はないんだから」

「後々、俺達が3代目勇者一行と並んで魔王を倒す日が来るからよ、サインでも書いとこうか?」

「わぁ、ありがとうございます。じゃあこのくつの足裏にでも……」

「馬鹿にしてんのか」

「冗談です。じゃあこの馬鹿には見えないペンで……」

「馬鹿にしてんのか!」


 さすがに怒られた。

 サインなんていりませんって正直に言うと怒られると思ったから、遠回しに言ってあげた俺の配慮を無下むげにするなんてヒドイぜ。


「それでもあと数日はいるから、分からないことがあったら聞いてくれ。基本的にギルドにいると思うから」

「がってん承知の助」


 こうして0になった人間関係から新たなコミュニティを作りだすことに成功した俺達は、そのまま町の散策を続けた。


 シーラはちょっとした段差の上に乗り、落ちないように歩くゲームをして遊んでる。

 確かに俺もそんなの小学生ぐらいの時にやったけど、今のシーラは俺の世界で言うと高校生か大学生ぐらいの見た目だ。


 あまり子供っぽいことはしないで欲しいと思う反面、子供のような内面が残ったままの姿を見てホッとしている自分がいる。

 やっぱり無理に変えるんじゃなくて、彼女が見て聞いて経験して、それで成長していくのが一番いいのかもしれない。

 もし、道を踏み外しそうになったなら、その時俺が正しい道へ誘導してあげればいい。


 大して人生を経験してないやつが、何を人生語ってんだって思われるかもしれないけど、それぐらい許してくれよ、ここ異世界だぜ?

 要は何年生きたか、じゃなくて何を経験したかなんだよ。


 もう何回死にかけたか。

 もし5分間スピーチを与えられたなら、5時間話すだけの経験はここ1ヶ月でしてるんだ。


 それらを踏まえてシーラの成長を見届けることぐらいはできる。


 ていうか最早現在、俺の異世界生活の生き甲斐はそれが全てといっても過言じゃないからね。

 魔王討伐とか、魔人を使役とか、伝説の武器の回収とか最初は色々考えたけど、今となってはどれもこれも俺には荷が重い。


 もちろん訓練は怠らないし、ガルムをその内超えてやろうって気持ちも忘れてはないけど、無理して危険を犯して世界を救おうなんて気持ちは無くなった。

 出だしこそ躓いたけど、俺の目的は変わらない。


〝好きなように異世界を楽しもう〟だ。

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