第36話 魔族について

「こにゃにゃちコマネチこんにちわー」


 厄介なジジイがいる本屋へと赴き、こちらも面倒臭い客でいてやろうと変な挨拶をしながら店の中に入った。

 キチガイにはキチガイをぶつければ相殺されるのだ。


「爺さーん。昨日来た八代やしろ みなとだけど」

「はいはい。今行くから待っとれ」


 今度は扉の真横に立ってるなんて奇怪な行動はとっておらず、普通に店の奥から白髭を蓄えた爺さんが出てきた。


「ほら、約束通りお金持って来たからさ、本を売ってくれよ」

「はて…………約束なんぞしたかの……?」

「おいおい嘘だろ。そこの『魔族の種類について』って本を1000 D《ドラ》で売ってくれるって約束したじゃん」

「確かに遥か昔にそんな約束した記憶が……」

「1日前を遥か昔とか脳の時空ぶっ飛んでんのか。昨日、ここで話したろ」

「ふむ…………その時は確か可愛い小さな女の子がいたはずじゃが……」

「ここにいるじゃん」


 俺が背中の後ろに隠れてるシーラを指差した。


「これが昨日の女の子」

「嘘じゃ! いくらワシがボケてるといっても、小さな女の子を見間違う訳がないわい!」

「世が世ならポリスが動くぞその発言……。でも事実だからしょうがないじゃん。1日で成長したんだよ」

「人間が1日でこんな成長するか!」


 おお、急にド正論飛んで来た。

 ボケてんのかワザとなのかよく分からんな。

 ただ残念なことにシーラは人間じゃなくて魔者だから、普通の常識は通用しませーん。


「そこはどうでもいいよ。とりあえず、本を売ってくれんの? 売ってくれないの?」

「いいよ」

「いいのかよ! そんなにアッサリしてるなら何でちょっとゴネたんだよ!」

「何日ぶりかに人と話したからのぉ。ちょっと楽しくて」

「だから昨日話したんだっての! 何も話聞いてねーな!」


 もうやだこの人。

 会話するのが苦痛なんだけど。


「じゃあ1000Dじゃな」

「はい」

「ちょうどじゃな。毎度ありいいいいいいい!」

「うるせーよ」


 ジジイが何か言うたびに背中でシーラがビクビク震えてるので、本を受け取ったら早々に店を出た。

 もうここに来ることもないだろう。

 さらば名もなきジジイよ。


 俺達は一度、近くの宿屋を借りてそこで書物を読むことにした。

 大きさ的にはよくある昆虫図鑑ぐらいだろうか。

 これを全て手書きで書いているのを考えれば、1000Dで買えたのはお買い得だったろう。

 少し古いとは言っていたが、知識がゼロに近い俺からしたらどんな情報でも吸収したい。


「もしかしたらシーラの種族のことも書いてあったりしてな」

「何でもいいよ」

「興味なさすぎるだろ……」


 俺は本をめくった。



 ──────魔王と呼ばれる生物が現れたのは今から約150年前、それから世界には魔族が蔓延はびこり始めた。ここではその魔族について現在知られている情報を書き記していこう。



 まず、我々と対立している魔族全体についてだ。

 魔族は魔王、使徒、上級魔人、中級魔人、下級魔人、魔者、魔物の7種類に区別される。


 当然筆頭は魔王である。


 その下に所謂いわゆる魔王の側近として使徒がおり、魔王は自分の兵隊として魔人を使役する。

 

 魔者については、直接的な支配を受けている種族もあれば、完全に独立しており、魔王の配下に該当しない種族もあることが判明されている。


 ただし、魔王の配下ではないからといって人類の味方ではないので間違えることのないよう。


 魔物については動物と同じようなものだろう。

 中には意思を持っているものもいるが、その大半は野生的で奇怪な生物ばかりだ。


 それではまずは魔王について説明していこう。


 この世界に魔王と呼ばれる魔族は合計15人現れた。

 その者達がどこから来たのか誰にも分からなかったが、その15人の魔王はそれぞれ自分の国を作り、近隣諸国の人類に対して進行を始めた。

 その15人の内、判明している魔王の名をここに記そう。


 :魔王シルバースター:

 サンクリッド大陸に現れ、瞬く間に国を3つ陥落させた魔王。

 自分の国を作り上げてからは徐々に自分の領地を増やそうと、ジワリジワリと人類の国や町へと攻め込み、疲弊しきった所を一度に潰しにかかる、少々搦め手が得意な魔王。

 使徒:不明


 :魔王バレットナイツ:

 魔王の中で最も保守的な魔族。

 この150年で人類を脅かしたことはなく、自分の国を作ったりはせずに世界1高い山、フリューゲル山の頂上に自分の城を作りあげ、今もなおそこに住んでいる。

 使徒:イースタンキッド


 :魔王ガゼル:

 言わずと知れた、獰猛で超攻撃的な魔王。

 人類に対して幾度となく侵略と殺戮を繰り返し、15人の魔王の中では最も危険視されている存在。

 シャンドラ王国、ミラージュ王国、シャッタード都市という世界三大国家が連合国として協力し、初めて抵抗できるほどの戦力と戦略を持っている、人類を絶滅させることを生き甲斐としているような魔王である。

 使徒:不明


 :魔王ヴィルモール:【消滅】

 人類も含めて、世界で一番博識であると言われた魔王。

 研究を生き甲斐としていたような魔王で、人類に戦争を仕掛けるような凶暴性は無かったが、人間を連れ去り人体実験をしていたのが、後に判明する。

 人工的にダンジョンを5つ創りあげ、そこにおのが叡智を費やした最強の武器を保管しているというのは有名な話だ。

 初代勇者エレクにより討伐された。

 使徒:アーカイブ


 :魔王〜〜〜〜




 ふむ。

 ちょっと長いな。

 一度にこんなに大量の情報を見せられても頭に入ってこないぞ。

 魔王ヴィルモールに関する記述は、本人に直接会ったからか頭に入って来たけど、それ以外は地名も何も分からんから覚えにくい。

 暇な時にチラチラ見るぐらいが丁度いいのかもなぁ。


 俺は少し先までパラパラとページをめくり、【魔者の特性】と書かれた所で止めた。



 〜〜魔者が使う魔法は、人間よりも遥かに強い。基本的に無詠唱であるし、魔力量も人間で多いとされる量が魔者の間では普通である。

 子供時代が短く、魔力覚醒というものを行うと体格が即座に成人し、圧倒的な魔力量と高威力の魔法を使うことが出来るようになるらしい。

 短期間に成長し始めることがあるようだが、それは魔力覚醒の予兆みたいなものだそうだ。

 ちなみに真偽は定かではないが、子供の期間が長いほど、魔力覚醒したときの力は強くなるようだ。

 レッカ族という種族は、15歳を過ぎても小さな子供の姿のままだという話で〜〜〜



 シーラのルーツ書いてあるじゃん。

 レッカ族についてはチョロっとしか出てきてないけど、シーラが何で長いこと子供の見た目だったのかとか、理由は分かったな。

 そもそも魔者には魔力覚醒なんてのがあるみたいだけど、シーラの種族の場合はそれが遅いってことね。

 納得した。


「ねぇミナト、遊ぼーよ」


 見た目は成長しても、中身は子供のままだな。

 歳を重ねれば精神も成長していくのが普通なのかと思ってたけど、シーラはそのまま育ってきたんだな。

 脳がちっちゃかったから?

 なんてね。


 今後どうするか、目的がはっきりしなくなっちゃったな。

 ヴィルモールが作ったダンジョン?

 中級魔人にボロボロにされて、行く気なんてなくなったちゃったよ。

 治療魔法が使える人がいないと厳しいことに、気が付きました。


「ミーナートー」

「分かったよ。じゃあ外に出かけるか」

「やった」


 ま、のんびり考えればいっか。

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