第35話 後処理

「うごめけ、細胞よ活性化し、己の身を清め給え。再生治療セラピリスト


『ジャイロスター』のメンバーの女性が、俺に中級の治癒魔法を使ってくれた。

 グシャグシャになった左腕と、切り裂かれたお腹の傷がたちまち治ったから驚きだ。

 便利すぎるぜ治癒魔法。


「これで大丈夫だと思います」

「助かりました。ありがとうございます」

「お礼を言うのはこちらです。私達だけでは中級魔人を倒すことは出来なかったですから」

「それに、アンタは俺達のリーダーの仇を討ってくれた」


 彼らのリーダー、ジャイロは中級魔人に果敢にも挑み、首を切り落とされて死んでしまった。

 無謀ではあったが、討伐者としての動きは決して間違っていない。


「あっちの吹っ飛ばされた3人は?」

「無事です。3人とも軽傷で済んでいました」

「良かった」

「ミナト、治った?」


 シーラが先程の(怪我人の上で飛び跳ねるという)行為を怒られてシュンとしながらも、心配そうに顔を覗かせた。


「ああ。もう平気だよ」

「やった」


 赤い髪を俺に押し付けるように、シーラが抱きついてきた。


 それにしても美人さんになったなおい。


 誰がこれを予測できたよ?

 確かに少し成長が早いなって話はしたさ。

 年齢からしたら遅いけど、俺と会ってからは秒単位で成長してんじゃねーかって思うスピードでな。


 それでも唐突にこんなに成長するとは思ってなかったし、魔法も俺よりすげーの使ってたよな。

 見た目同い年くらいのシーラに抱きつかれたらちょっとドキドキするけどさ、コイツの場合俺を慕ってくれてる理由が恋愛感情とかじゃなくて、始めてみた相手を親だと勘違いするアレに似てるんだよなぁ。


 たまたま助けたのが俺ってことで。

 まぁ悪い気分じゃないけど。


「…………!!」


 周りの人達がシーラから少し距離を取るように後ずさった。


 なんでや……? ってそういえば、シーラが魔者だっていうのはもうバレてるんだっけ?

 魔者は魔王の配下って認識……………………急に俺達を攻撃してくるパターンある?


「………………彼女も俺達を助けてくれたんだよな。こうも人間と見た目が変わらない魔者というのも珍しい。奴隷って感じでもないし、どういう理由で魔者がアンタに付いているのか分からないが、敵じゃないってのは分かるよ」


 おお、物分かり良くて助かった。


 でも一点だけ間違えてんだよなぁ。

 彼女が守ったのはアンタらじゃなくて、俺だから!! なんて言ったらまた顰蹙ひんしゅくを買いそうなので言いませんが。


「とりあえず町のなかに散ってるほかの魔物をどうにかしましょう。恐らく山場は越えたんですから」

「間違いないな。アンタは休んでいてくれ。他の魔物なら俺達でも討伐できるだろう」

「じゃあよろしくお願いしていいですか」


 怪我は治ったけど、疲労は治ってない。

 すぐに動くのは正直なところ億劫おっくうだ。

 それに少し話したいこともある。


「なぁシーラ。自分が今どうなってるか気付いてるか?」

「??? …………魔法が使えるようになった」

「いやそうじゃなくて。見た目の話よ」

「………………相変わらず良い女?」

「お前そんな風に自分の事思ってたのかよ! でも自分に自信があることは良いことだよな。じゃなくて、急に成長したってこと」

「…………そう?」


 自覚なかったのかー。

 そこらへんウトそうだもんな。


「はい、じゃあ一回立ってみ。俺と目線の高さ合わせてみ」

「ん…………」


 俺から離れて立ち上がったシーラは、子供っぽさを少し残していながらも、1人の女性と見るには充分なほど美人になっていた。

 その真っ赤な髪から凛として立つ姿は気品すらも感じさせる。


「ミナト…………ちぢんだ?」

「だからお前が成長したんだってば! 成長期真っ只中の俺が縮むわけがないだろう絶賛育ち盛りだ!」

「私がミナトの頭撫でれるー」


 シーラが少し背伸びをしながら俺の頭を撫で始めた。


 なんだコレ。

 なんか世話してた娘から老後に介護される状況が思い浮かんだんだけど。

 内面までは変わったわけじゃないってことだよな。


「ちょっと話聞いて、撫でるのヤメて。とりあえずシーラは身体に変な異常とかはないんだよな?」

「うん」

「魔法は? 詠唱無しで使えるんだよな?」

「できるよ」


 そう言って手の平の上に小さな火の玉を作った。


「火魔法以外は?」

「う〜ん…………できない」


 扱えるのは火魔法のみで、詠唱が無くても上級以上の威力を使えることができる。


 そんで年相応に成長する。


 今分かってる魔者としてのシーラの特性はこんなもんか。

 そういえば、奴隷売買の司会の奴が魔法を覚えた時に使ってくれって、魔法封じの指輪をくれたな。

 魔者が覚醒しないようにこの指輪を付けておけってことだったんか?


 この指輪をつけておけば緩やかに成長したかもしれんな。

 それと、魔者は子供時代が短くて大人の時代が長いとも言っていたが……コレが原因か?

 むしろ子供時代のほうが長く感じるけどな。


 とりあえずこれで緊急クエストは完了だろう。

 後は報酬を貰って、あの変なジジイの所で本を買うだけだ。


 良くやったよ俺。




 それから時間が経ち、町に侵入した魔物達をほとんど一掃した頃、本国であるシャンドラ王国からの救援部隊が駆けつけた。


「これは…………思っていたよりも被害が少ないな」


 シャンドラ王国にも中級魔人が現れていたらしく、それと同様にスサノ町にも下級魔人、及び中級魔人が現れたという情報はシャンドラ王国にも流れていたようで、王国の中でも精鋭揃いの警護隊やA級の討伐隊が救援部隊として送り込まれたのだ。


 スサノ町に常駐している兵士は一般的な兵士で、主に治安の維持を担っているため魔物の討伐に特化しているわけでもなく、この町にいる討伐隊もB級とC級が数隊いるだけで下級ならいざ知らず中級魔人に勝てる討伐隊がいるとは思っていなかったようで、甚大じんだいな被害を覚悟していたようだ。


 だが、俺とシーラのD級討伐隊『紅影あかかげ』の大活躍のお陰で下級魔人、及び中級魔人は討伐された。

 自分で大活躍とか言うのは如何なものかと思うが、結果的に、その活躍の内容は広められはしなかった。


 B級討伐隊『鋼殻のブルータス』のリーダーから聞いたのだが、魔者をパーティに含めるのは決して褒められたことではないらしい。

 この世界では魔者が魔王の配下という認識は周知の事実であり、それを討伐隊に入れることは人間と同列に扱われることになるため、奴隷関係以外で魔者を連れるのは基本的に禁止されているのだ。


「俺達は何も言わないよ。命を助けて貰ったんだから、国に話してどうこうするつもりはない。ただ、その子が魔者だと知らられば君は今後討伐ギルドに参加することはできなくなる。普通にしていればその女の子は人間と見分けが付かないからバレることは無いと思うけど、あまり目立つような事は避けた方がいいかも知れない。その真っ赤な髪というのは珍しいからね」


 そのため中級魔人を討伐したのが俺達だとは隠して貰った。


 この事実を討伐ギルドに報告すれば、恐らく大量の報酬が手に入り、討伐隊ランクも上がること間違いないだろうが、そもそも俺はシャンドラ王国から追われて逃げてきたんだ。


 中級魔人を倒すレベルとあれば噂は間違いなく広まり、シャンドラ王国まで知られることになるかもしれない。


 そうすれば手配がかけられて、結局討伐ギルドから追い出される形になってしまう恐れがある。

 その危険性を考慮してみれば、中級魔人を倒した功績ぐらい捨てても構わないさ。


 まずは身の安全を確保するのが先決だからな。

 一応、『鋼殻のブルータス』や『ジャイロスター』の人達と協力して下級魔人を倒したということにしてもらい、その分の報酬は貰う予定だからそれで我慢しよう。


 俺は我慢強い人間だからな。


 この世界に来てから我慢しかしてない。


 俺から我慢を取ったら何も残らないぜ。


 ちなみに、シャンドラ王国に送り込まれた魔王軍は魔物と魔者の軍勢、それに加えて下級魔人10体と中級魔人2体という話らしいが、流石に世界でも有数の大国で討伐ギルドの本部がある国であるため、戦力に関しては申し分ないほどだったようだ。


 魔王が攻め込んでこない比較的安全な国だと言われていたシャンドラ王国ですらA級討伐隊が7隊、B級討伐隊が20隊以上が待機していたようで、それに加えて俺も戦ったフロイライン率いる警護隊や兵士が対応したことで、多少の被害はあったものの1日と経たずに殲滅したようだ。


 そして周りの町にも進行があったため、取り急ぎ救援隊を向かわせた形となる。

 俺達が苦戦した中級魔人も、A級討伐隊が数隊で囲めば倒せるらしい。


 A級討伐隊になるだけでも中々箔がつくようだ。


 ちなみに、中級魔人を一つの隊で倒すことができれば、それはS級討伐隊と言われるらしい。

 勇者一行と同レベルということだ。


 あれ? じゃあ俺達S級討伐隊じゃね?

 とも一瞬思ったけど、S級討伐隊は世界でも数隊しかないらしく、その名前は討伐隊であれば誰でも知っているほど有名になるらしい。


 今のところ目立てない俺達には、S級なんて話が来たとしても辞退するほかないだろう。

 ちょっと残念。

 いや、さっき我慢するって決めたばかりだからね、弱音は吐きませんよ。


 でもため息ぐらいは吐かせてよ。

 ちょっと報われなさすぎるからさ。


 はああああぁぁ………………。



─────────────────────



「こちらが今回の緊急クエストの報酬、こちらが追い剥ぎドッグの報酬となります」


 翌日、討伐ギルドに来た俺達は昨日のクエストの報酬を受け取りに来た。


 追い剥ぎドッグの報酬と合わせて結構な量が手に入った。


 だいたい30万Dドラぐらいか?

 当分資金には困らないだろう。

 命の危険に遭った割には少ないと思うのは、D級というランクから下級魔人討伐でもあまり活躍してないと思われているからだろう。


 こればっかりはしょうがないな。


「よっしゃー。これでまともな飯が食えるなぁ。シーラは何食べたい?」

「肉」

「何だその大雑把な回答。主人公か」


 シーラのために最初に買った服がほとんどダメになってしまったのはちょっとヘコんだ。


 元々少し大きめの服を買っていたのが功を成したのか分からんが、急成長した時に服がパーンと弾け飛ぶことにならなくて、後になって考えてホッとした。


 それでも前に持っていた服がほとんど小さくて、着るにはちょっとセクシーになってしまうので新しい服を買うことにした。


 俺もシーラも服には無頓着な所があるので、結局店員さんが全部選んでくれたものになってしまったが。


「じゃあどっかで肉系が食える所で飯を済まして、その後この前の本屋に行く形でいい?」

「えー……あそこまた行くの?」

「しょうがないだろ。本があそこにしかないんだから」

「あそこのジジイ嫌い」

「直球投げ込んだな……。確かに変なジジイだったけど、本だけ買ったらすぐ出るから。な?」

「…………分かった」


 見た目は成長しても中身はまだ子供か。

 でも俺とほとんど年齢いっしょだからね。

 2つしか変わらないからね。

 ピュアと言えばピュアなんだけど、言い方悪くすれば世間知らずだから。

 俺がしっかり社会一般常識というものを教えてあげねば。

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