第31話 スサノ町防衛クエスト(前編)

 町の入り口に着いた時、所々から火の手が上がっているのが見えた。

 既に敵は町の中まで進行しているようだ。


「少し間に合わなかったか」

「ミナト、あそこにも人が」


 町の入り口で兵士が魔物と戦っているのが見えた。

 それは草原でニーナさん達を襲っていたA級の魔物、ワニレオンだった。

 既に血まみれの兵士の死体が何人も転がっている。


「またこの光景か……。子供に死体なんてショッキングな映像見せるんじゃないよこんちくしょー」


 俺は再び銃を取り出し、魔力を込めた。


「おいワニ野郎! 鎧なんか付けやがって、人間様の真似事してんじゃねぇよ!」


 あ、なんか自分で言ってて凄い小物っぽいセリフ。


 俺の挑発に乗せられ、兵士と戦うのをやめたワニレオンは俺の方に向かってきた。

 鎧や槍を作ることのできる知恵を持っているのなら、こんな安い挑発にも乗ってくれると思ったが大成功だな。


「シャアアアアアア!」

「近寄るな」


 ドンッと1発ワニレオンに撃つ。

 鎧を突き破り、どてっぱらに風穴を開けられ、ワニレオンはそのまま生き絶えた。


「助かりました! 討伐者の方ですか!?」

「ええ。なんか緊急クエストとかで呼ばれてきて」

「A級の魔物をあっさりと倒すその手腕、B級以上の討伐者とお見受けします! 中には既に下級魔人を含む魔王軍が侵入してしまっておりますので、何卒なにとぞお力添えを!」


 B級どころか討伐者になりたての新米D級なんですけど…………。

 というかA級の魔物を倒せるからといって、A級の討伐者になれるわけじゃないのか。

 分かりにくっ。


「任せて下さい」


 とりあえず肯定して嘘ついといたろ。

 この場合の嘘はアレだから、人に優しい良い嘘だから。


「私も中に入った魔物達を討伐しに行きますので!」

「1人で?」

「…………他の仲間達は既に殺されてしまいましたから……私がかたきを討つしかないのです」


 兵士は周りに横たわっている斬殺された兵士達に目を落とした。


「…………分かりました。俺が代わりに彼らのかたきを取りますから、貴方は敵が再度来た場合に備えて、ここの守りをお願いします」

「しかし……!」

「でも、無理はしないでください。人間、死なないことが一番の勝利なんですから」

「…………申し訳ない!」


 面識も何もないけれど、人が理不尽に殺されているのを見て黙ってなんかいられない。


 他人だから、自分じゃないから気にしない?


 別にそういう考えがあるのは否定しないよ。

 でも、それを防ぐ力があるならば、やれるだけのことはするべきだと思うのが俺の持論だから。


 危険な事に首を突っ込むことになるけれど、誰かに言われて戦わされるのと、自分の意思で戦場に赴くのは天と地の差がある。


 モチベーションを高く持とう。


 そのモチベーションがお金のためだって良いじゃないか。

 それが結果的に人のためになるのなら、なおさら良いことだろう。


 暴れるぜ。


「シーラ、再三言うけど絶対に俺から離れるなよ。俺も誰かを守りながら戦うなんてことは慣れてないんだ」

「うん。離れない」


 俺たちは町の中へと入っていった。


 虫型の魔物や、先程巣穴を潰した追い剥ぎドッグなどが町の至るところにいる。

 そいつらを見たと同時に銃で撃ち抜く。


 結構な精度で目標に当たるようになってきた。

 草原の時のように、人が近くにいても間違えて撃ち抜くようなヘマはしないと思う。


「きゃあああああああ!!」

「あああああああああ!!」


 人々の悲鳴が至る所から聞こえてくる。

 町自体が結構な大きさだからか、敵が分散しているようで俺1人では手に負えない。


 俺以外にも討伐者はいるはずだし、この町の中にも兵士は常駐しているはずだ。

 なのに先程からそれらの姿を全然見かけない。


 一体どういうことだ?


「ミナト、あそこにも魔物が何匹か飛んでる」

「オーケー! 紡げ、発光せよ! 雷線槍サンダライン!」


 中級の雷魔法を詠唱し、複数の槍の形をした雷を目標に向けて放った。

 上級よりも命中率は低いが、上空に複数いた場合はこちらの方が手数が多くて便利なのだ。


「ナイス指示だぜシーラ」

「ただ見てるだけなんてヤダもん」

「それなら、その調子で敵がいたら俺に教えてくれ」

「分かった」


 結構なペースで町の奥へと進んでいたが、丁度中心部あたりに来た時、他の討伐者も兵士も全く見かけなかった理由が分かった。


「気を付けろ! ヒットアンドウェイで必ず戦うんだ! 連携も忘れるな! 油断をすれば直ぐにもっていかれるぞ!」


 中心部において、ギルドで本屋のことを教えてくれた討伐者の人達、その他に十数名の討伐者らしき人間、20人ばかりの兵士が3体の青い何かと戦っていた。

 その青い何かの上半身は筋骨隆々の肉体で、下半身においては何かズボンのようなものを履いているようにも見える。


 まるでブチギレた時のケンシロウの様な格好のようだ。

 ただし、その顔は何度か見たことがある、おおよそ人間とは思えない顔。

 上級魔人と同じ、牙を生やした悪魔のような顔だった。


「下級魔人め……! よくも仲間を……!」


 どうやらあの青い奴らが噂の下級魔人のようだ。


「まるでゴリラだな」

「ミナト、助けにいく?」

「もちろん。あの下級魔人を倒さないと、ここに人数を持ってかれて他の所が疎かになってるみたいだからね。ただ、これだけの人数を割かないと倒せない敵ってことは、俺1人が加わってどこまで助けになるか……」

「ミナトなら大丈夫だよ。ミナトはいつだって頼りになるもん」


 ………………照れるなぁ。


 満面の笑みで、一切の曇りなく言うんだもんなぁ。

 こんだけ期待されてるんだったら、その期待に応えないわけにはいかないよな。

 俺はシーラの頭をわしゃわしゃと撫でた。


「その通りだぜ。俺はいつだって頼りになる男なんだ」


 俺のこの銃が奴らにどの程度聞くのか、不意打ちならぬ不意撃ちを食らわせてやるよ。


 下級魔人が3体。

 位置的には討伐者や兵士とは反対側にいる俺が、下級魔人を挟み込んでいる状況にある。

 周りには建物が複数あるが、彼らがいるのは広場と思われる所で、視界は悪くない。


 俺は路地から覗いているため、まだ下級魔人には気付かれてはいない。


 不意撃ちをかますには背後からという絶好の位置だが、戦闘が再開すれば立ち位置がコロコロと変わるだろう。


 この好機を逃すわけにはいかない。


 俺は銃に魔力を込める。

 銃が光り、弾が生成されていくのが分かった。

 万が一に外して人に当ててしまう場合を考え、一番右にいる下級魔人を狙った。


「シーラはここから動くな。何かあれば大声を出して俺に知らせるんだ。オーケー?」

「うん」

「みんな! 一体ずつ確実に仕留めて行くんだ! 必ず2人以上で! 撹乱しろ!」


 討伐者のパーティが動いたと同時に俺は引き金を引いた。

 ドンッという音と共に一番右にいた下級魔人の右肩口から青い血飛沫が舞った。

 他の魔物であれば、命中したと同時にその威力により吹っ飛んでいくのだが、下級魔人は少しふらついただけであった。


 しかし、その肉体をえぐっていることから有効打ではあるように見受けられる。


 充分に通用するぜ。


「グオオアアアアアアアア!!」

「な、なんだ!? 右の下級魔人が急に……!?」

「構うもんか! やれ!」


 討伐者、兵士がまとめて動き始める。


 俺も路地から飛び出し、銃を立て続けに撃ちながら一番右の下級魔人に近づいた。

 俺の攻撃により、下級魔人の身体からは次々と青い血が飛び散った。


 俺が向かっている下級魔人の元に、討伐者だと思われる人達が5人近付いてくる。


 恐らく一つのパーティだろう。


 2人が前衛、2人が中衛、1人が後衛という布陣だ。

 彼らも俺の姿に気付いたようだが、味方だと認識するや否や、目標を下級魔人に絞った。


「ブルアアアアアアアア!!」


 下級魔人が動いたと思いきや、前衛の人間に殴りかかっていった。

 背後から迫っていた俺の事は切り捨て、正面から来ていた一団に狙いを定めたようだ。


「防ぐ!」


 大きな盾を持っていた前衛の1人がカバーする形で、下級魔人の一撃を受け止めに入った。

 が、下級魔人の重い一撃は、盾を凹まし、持ち主ごと吹っ飛ばしてしまった。


「ぶっ!!」

「アル!? 盾でも防ぎ切れないのか!」

「私がアルを癒すわ!」

「ならオイラが魔法で支援する! さかれ、ねっせよ! 炎包ファイヤランド!」


 討伐者によって放たれた火魔法は下級魔人を包み込んだ。


 だが、全く動じる様子はない。

 そのまま前衛にいたもう1人の討伐者に向かっていく。


「中級魔法じゃ全然効果がないのか!?」

「くそ!」


 討伐者の振るう剣と下級魔人の拳が重なる。

 盾ですら凹まされた一撃に勝てるわけでもなく、そのまま剣は根元からポッキリと折られた。


「……! 嘘だろ……」

「「「リーダー!」」」


 トドメを刺そうと、続け様に拳を振りかぶる下級魔人の腕を俺が撃ち抜いた。


 振りかぶっている途中を撃ち抜かれたことで、拳はリーダーと呼ばれた討伐者の左をかすめ、地面へと突き刺さった。


 ガッツリ地面に拳がめり込んでいる辺り、生身で食らえば彼の身体が粉々になっていたのは間違いなかった。


 ガルムの身体能力の恩恵を受けている俺が喰らった場合はどうなるのだろうか。

 まぁ喰らいませんけど。


「あの人が攻撃を防いでくれたぞ……!」

「何だあの武器は?」

「なんでもいいわよ! リーダーを助けてくれたわ!」


 銃だけではどうやら決め手にかける。

 俺は全力から一段ギアを落としたスピードで下級魔人に向かっていきながら、銃を左手に持ち替え、右手で『雷鳥』を引き抜いた。


「俺が引き受ける! 援護を!」

「……!! わかった!」


 下級魔人が目の前の彼に再度攻撃を加えないように、銃を放ち続ける。

 利き手とは逆で撃っているためほとんど外してしまってはいるが、奴の注意を俺に向かせるには充分だ。


「グルルルルオオオオアアアアアア!!」


 下級魔人がこちらに相対する。


 俺は雷鳥を下から斜に構え、斬りあげようとする素振りを見せながら、姿勢を低くして下級魔人の懐へと入り込んだ。


 それと同時に下級魔人の拳が俺に向かって振り落とされる。


 ここで俺はギアを全力に上げ、ほぼ直角に左に曲がり、下級魔人の拳をかわした。

 拳は先程と同じように地面にめり込み、大きな衝撃が地を這って伝わる。


 俺は即座に雷鳥を上段に構え直し、地面にめり込んでしまっている下級魔人の腕の肩口辺りに振り落とした。


 ザシュッ! と、洞窟で上級魔人を切りつけた時とは違う確かな感触を、下級魔人の腕をスッパリと切り落とした。


「グオオオオオアアアアア!!」

「頼んだ!」

「盛れ、熱せよ! その業火を持って焦がし給え! 円神の炎草原エンブレイズカーペット!」


 俺が離れると同時に火魔法を扱う討伐者が呪文を唱えた。

 下級魔人の足元に魔法陣が浮かび、そこから火柱が立ち昇った。

 中級魔法よりも威力が段違いだ。


「これがオイラの全力だ! 魔力はもう残ってないぜ!」


 火が徐々に消えていき、中から片腕を失った下級魔人が、体から煙を立ち込めながら立ち尽くしていた。

 流石に今の上級火魔法はこたえたみたいだ。


「よし! 虫の息だ!」

「あとはトドメを刺すのみ!」


 討伐者達が一堂に動き出す。

 俺はすぐさま雷鳥を納め、銃に大量の魔力を流し込んだ。

 彼らにトドメを刺される前に、下級魔人が生き絶える前に、アイツを俺の駒にする。


魂弾ソウルバレット…………転送!」


 銃が発光し、キィィィィンという音の後に、カチリとたまからたまに変わったのが分かった。

 そして下級魔人に向けて銃を両手で把持して構える。


「悪いけど、そいつは俺のものだから」


 ドンッッッ!! と通常よりも音も衝撃も強くなり、光のかたまりが下級魔人へと飛んでいった。


 まさに……魂心こんしんの一撃!


 光の塊は下級魔人に直撃し、下級魔人の体を縮め、まとめながら光の中に凝縮されていく。

 ギュルギュルと回転し、魔人だったものは青色のビー玉に変わり、地面にポトリと落ちた。


「な……なんだ?」

「何が起きたのかしら……」

「普通は砂になって消えるはずだが……彼が放った光に包まれて……?」


 他の討伐者達は困惑に包まれていたようだった。


 俺の方に説明を求めるように視線を向けてきたが、ぶっちゃけ俺も仕組みはよく分かってないから説明しようがない。


 魔人をこれでしもべに出来るようになりました、なんて本当の事を言っても新たな火種を生み出しそうだし……。


「皆さん! 急いで他の人の所へ加勢しに行きましょう!」

「おお……? おお、そうだな!」

「考えるのは後ね!」


 なんとか話を逸らした。

 俺はしれっとビー玉を広い、ポケットの中にしまった。

 恐らくはこのビー玉を割れば、下級魔人が俺のしもべとして召喚されるんだろう。


 …………残りの2体もゲットだぜ。


 他の戦っている所を見ると、本屋を教えてくれた討伐隊は上手く下級魔人を翻弄しており、助けはあまり必要としていなかった。


 残る一体は国の兵士が相手にしていたが、少々手こずっているようだった。


 シーラも今のところは問題ない。


 俺は続いて兵士が戦っている方に頭を向けた。

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