第30話 緊急クエスト発令です
「ちょっと待てよ! シーラって産まれてから16年も経ってんの!? 俺と2つしか違わないじゃん!」
何だ?
もしかしてシーラの種族は小人か? ホビットか?
「うん……。でも自分が覚えてるのって6年ぐらい前までだから、それまでは…………なんだろ? 誕生日に今日で16歳ってお母さんに言われた」
「記憶があるのが6年前からってこと? じゃあそれ以前まではずっと赤ん坊だったとかか……? 物心ついたのが産まれてから10年経ってからとか」
考えたらキリがない。
魔者がどういうものなのか、もしかすれば爺さんの所にある本に書いてあるかもしれないから、それまでお預けだな。
…………それにしても16かぁ…………。
やっぱり見た目がなぁ。
確かに見た目は可愛いけど、それは子供的な意味でだから、年齢が俺に近いからといって一人の女の子として見るのはやっぱり無理だなぁ。
でも成長が早いからあるいは…………?
将来に期待…………?
「あ、ミナト。あそこ」
シーラが指差した所にちょっとした洞穴があり、茶色の毛をした狼っぽい奴らが数匹たむろっていた。
IDの地図と確認しても場所的に合っていることから、多分あれが追い剥ぎドッグなのだろう。
普通の狼に見た目が近いから、今までの魔物よりも全然可愛く見える。
「じゃあチャチャっと片付けちゃいますか」
俺は銀色の銃を取り出し、少し離れた位置から追い剥ぎドッグ達を狙った。
距離にして30mくらい。
まだ向こうには気付かれていない。
この距離で気付かないというのも、野生の生き物にしてはちょっとダサいかなと。
銃に魔力を込めて、洞穴の入り口にいる1匹に向けて弾を放った。
ドンッという音と共に、追い剥ぎドッグがきりもみしながら吹っ飛んだ。
キャインという悲鳴にも似た声を上げたと同時に、洞穴の中から何匹も追い剥ぎドッグが飛び出して来た。
「シーラ、俺から離れないように」
飛びかかってくる犬に対して次々と銃を放ち、1匹、また1匹と撃ち抜いていく。
巣穴ということで予想よりも結構な数がいたが、1分ほど経った頃には巣穴からも追い剥ぎドッグは出てこなくなった。
「打ち止めかな?」
「結構な数いた」
洞穴に近づき、中にまだ追い剥ぎドッグが残ってないか確認すると、中にはお金やら服やら道具やら色んな物が無造作に置かれていた。
もしかしてこれって、この犬達に追い剥ぎにあった人達の持ち物じゃね?
結構な量があるし俺一人じゃ持って帰れないけど…………うわっパンツまであるよ。
これ追い剥ぎにあった奴、
「じゃあ戻ってギルドに報告して終わりかな」
「もう終わり?」
「巣穴の撲滅ってことらしいからな。もしかしたら外にまだ追い剥ぎドッグが残ってるのかもしれないけど、この数やっちゃえばもういいだろ」
ピーッ! ピーッ! ピーッ!
突如として警告するような電子音が鳴り響いた。
なんぞ侵入してはいかんところに入ったんかなと思ったが、鳴っているのは俺のIDからだった。
「何だよビックリしたな。こんなん鳴る仕様とかあるのかよ」
IDの裏面を見ると『緊急クエスト』の一文字が書かれていた。
「どうしたの?」
「いや、分からん。ただ緊急クエストって表示が……」
しばらく見ていると、緊急クエストの文字がうっすらと消えていき、代わりに短文ではあるが文章がうかんできた。
『魔王軍、スサノ町進行、近隣討伐隊集合』
要は魔王の軍勢がスサノ町に来ているから、討伐ギルドに所属している人間も戦ってほしいという内容だろう。
あり得ない話ではないな。
そもそもシャンドラ王国に魔王の軍勢が来ていたのだから、その近くであるこの町に来ていても不思議じゃない。
それに、この町は明らかに討伐隊の数も、兵士の数も少ないのが見てとれた。
守り手が少ない所を落とそうとするのは定石だと思うし。
それにしても、シャンドラ王国もだけど、こんな簡単に魔王軍の進行を許すなんてちょっと守りが緩すぎるんじゃないかなと思うわ。
ガルム曰く、この辺りは全く魔王の軍勢が攻めてこないってことらしいけど、ちょっとガバガバ過ぎるよなぁ。
「魔王の手下とかが町に攻め込んできてるから、討伐に参加して欲しいって内容だって」
「じゃあ急いで戻る?」
「そうだなぁ。町が襲われて本とかが燃やされたらたまんないし、何より緊急クエストってことはそれなりに報酬も出ると思うんだよな」
「私はどこかに隠れてた方がいいかな。ミナトの邪魔にならないように」
「いや、逆に目の届かない所で何かあった方が嫌だから、俺の近くにいてくれ」
「ん……分かった」
ここから町まで徒歩で15分ぐらい。
急いで行けば5分ぐらいか。
「町まで飛ばそうと思うんだけど…………シーラおぶっていこうか?」
「! …………やだ!」
「なんだよ照れるなよー」
「またミナト、重いって言うもん!」
気にしてたのか……。
「言わなかったらいい?」
「それは…………ってそういう問題じゃないもん!」
はっはっは。
そういう問題じゃなかったですかそうですか。
「じゃあシーラのペースに合わせながら急ぐ感じでいい?」
「……………………うん」
ちょっと残念そうじゃん。
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