第21話 人間関係

扉をぶち開けた俺は、転移魔法陣の所まで一直線に走った。

 扉の外にも兵士はいたのだが、何が起きたのか分からずにポカンとしていた。


「お、お前ら! その男を止めろ!」


 誰かの指示する声が聞こえたが、既に俺は魔方陣まで辿り着いていた。

 ウサイン・ボルトも真っ青な足の速さだからな!


「止まれ!」

「1人ではその転移魔法陣は動かすことは出来ません! 大人しくこちらへ来てください!」


 1人で動かすことができないって言っても、今までの発動条件を見る限り魔力を魔方陣に送ればいいんだろ?

 最悪、もし動かなかったら床ぶち破って、壁ぶち破って脱出してやんよ。


 俺は魔力を魔方陣に流し込む。

 勢いよく俺の魔力が魔方陣の中に吸い込まれていくのが分かった。

 かなりの量を吸い取られていく。

 だが、大量の魔力を送り込んだことで転移魔法陣が光り始めた。


「ええええ!? 何で動き始めるんですか!?」

「化け物め!」


 兵士が魔方陣が起動したことに驚きを隠せない顔をしている。

 確かにガッツリ持っていかれたけど、まだ余力は十二分に残っている。

 ガルム様様だな。


「じゃ、さいなら!」

「待て!」


 一瞬にして景色が変わる。

 行きに来た魔方陣と同じ場所に転移したようだ。

 ここまでくれば後は、出口までの道のりが分かりやすい。

 転移でしか王座に行けないのがあだになったな。

 転移先には何が起きたかはまだ何も伝わっていないようで、兵士が1人で転移してきた俺に少し驚きながらも、プイとソッポを向いた。

 その必要のないことには一切関わろうとしないコミュ障加減、俺は好きだからそのままでいてくれよ。

 なんて心の中で思いながら、悠々とその隣を抜けた。


 そのままメチャクチャ余裕な感じで城の入り口まで辿り着き、門の所にいるいつもの護衛兵の兄ちゃんに会う。


「やぁ」

「なんだ、国王様には会えたのか?」

「もうバッチリよ。国王も超興奮」

粗相そそうなどなかっただろうな」

「当たり前じゃん。俺を誰だと思ってんの」

「クソみたいに馴れ馴れしい小僧」


 相変わらず類を見ない口の汚さだが、この数日でかなり仲良くなった。

 なのにもうお別れとは寂しいことこの上ないな。

 結局名前もお互いに知らんけど。


「じゃあ俺はもう行くよ」

「ああ」


 俺が門を抜けた瞬間、後ろから怒声が聞こえた。


「その男を逃すな! 魔王の手先である疑いがある者だ! 捕まえろ!」


 護衛兵の兄ちゃんが誰のことかとキョロキョロするが、周りに一般人の男というのは俺しかいない。

 顔つきがみるみる険しくなっていく。

 また一人、俺が築いてきた人間関係が崩れ去っていくのを感じた。


「貴様…………そこを動くなよ」

「俺が魔王の手先なんかじゃないと信じてくれるという可能性は?」

「名前も知らない貴様のことをか?」


 ……………………悲しいなぁ。

 それにしても外まで追っ手が来るのが些か早い。

 上級魔人はどうしたんだ?


「できれば穏便に逃げたかったんだけど」

「なら素直に捕まれ。そうすれば誰も傷つきはしない」

「そうくるのな」

「待て! 八代やしろみなと! にがしはしないぜ!」


 入り口から短髪とメガネ、フロイラインなど兵士がたくさん出てきた。


「げっ! もう上級魔人を倒してきたのか!?」

「なんか知らねぇけど、時間が経ったらアイツは消えたぜ!」


 まさか召喚した魔人には時間制限があるのか?

 くそ。

 俺自身、まだ自分の武器の特性を把握してないから全然分からん。


「…………紡ぎ、発光せよ! 神のいかづちをもって細胞を死滅させたまえ! 狂神バーサーカーパラライズ!」


 俺の手から放たれた雷が兵士達の上に滞留していく。


「上級の雷魔法か!?」

「任せて下さい! かわき、ひび割れろ! 意思をもって囲いたまえ! 封神ストーンワールド!」


 メガネが詠唱した呪文は、兵士達の上に覆いかぶさるように土を広げ、雷と兵士の間を遮るように膜を張った。

 そして俺の雷魔法はことごとく土に阻まれる。

 既に魔法に関しては、雷魔法しか使えない俺よりも上なのかもしれない。

 嫉妬してしまう。


「さすがだぜエージ! 後は任せろ!」


 短髪が我先にと向かってくる。

 主人公気取りか? お前は。

 異世界に来て、チヤホヤされて、大して苦労もせずに最初からその能力を受け継いで。


 少しは俺を見習って骨とか折られてから来い!

 異世界に来て〜の部分しか当てはまらんわ!


「しゃあ!」


 短髪が抜刀して俺に斬りかかる。

 それを同じく抜刀し、防ぐ。


「あまり調子に乗るなよ短髪」

「た……短髪!?」


 俺は上下左右に連撃を繰り出し、短髪の持っている剣を吹き飛ばした。


「なっ!?」

「お前もいっぺん地獄見てから出直してこい」


 つかの部分で短髪の腹を殴り、身体がくの字に曲がった所で顎に蹴りを一撃いれてやる。


「ぐえっ!!」


 アヒルのような声を出して短髪が吹っ飛んだ。

 これじゃあフロイラインの方が全然強い。

 身体能力に頼りきりだな。


「貴様よくも……!」

「新しい勇者候補を……!」


 ちょっとダラダラしすぎたんだよな。

 上級魔人が相手してると思ってゆっくり出てきちゃったし……このまま国の外に急いで出てもいいんだけど……シーラをどうするかだよなぁ。


 このまま俺と一緒に連れて来ても、シーラも狙われることになっちまいそうだし……そうすると、せっかく自由にしてやったのに結局追われる身というのは……。

 なんならこのまま宿屋に置いていって───。


『…………いなくなったりしない?』


 …………………………やっぱ置いとけないよなぁ。

 このまま置いてけぼりにするほうが、シーラにとって良くない気がする。

 ………………連れてくか。


 俺は反転すると同時にスタコラサッサっと逃げた。

 途中、背後から何度も魔法が飛んで来たが、距離が広がるにつれ攻撃は届かなくなった。

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