第17話 無いと困るもの

それにしても、大金が1日で溶けたな…………」


 昨日までジャラジャラとあった、宝石と同じ価値をもつ結晶石が今では手元に3カケラだけだ。

 これだけでも1週間は過ごせる価値があると思うが、流石に勢いにまかせて浪費し過ぎた。


 まず最初に全部金に換金すれば良かったかな。

 計画なんて一切立てずに、感情のみで動くとこうなるといういい見本でございますよ。

 それよりも、この子をどうするかだよな…………。

 とりあえず服を新しく買ってご飯は食べさせてるけど……たぶん城には連れていけないだろ。


 どう見ても魔者の奴隷制が一般に認められているこの国で、国の象徴たる城に奴隷を連れていくなんて暴挙は許されないはずだ。


 そうするとどこかの宿屋に置いとくか……。

 あ、なんかこの言い方だと物みたいだな。

 どこかの宿に泊まらせておくか。

 それがいいよな。


 俺は運ばれてくる飯を必死に口にかき込むシーラを見て、そうするのがベストだと思った。

 こんな言い方はあまりしたくはないが、今解放してもすぐにまた捕まって、俺が払った大金の意味がなくなっちまうからな。

 いくら俺でもそれはガックリ来そうだし。

 だからもう少し自立できるまでは面倒みてやらないとな。

 それが買取主? としての責任でもあるし。


「うまいか?」


 俺の言葉にシーラはビクリと肩を震わせ、オドオドしながら遠慮がちに「…………うん」と答えた。

 まだまだ道のり的には険しそうだな。


 シーラがお腹いっぱいになったようなので、余った分は俺が食べ、3つしかない結晶石のかけらの一つを店員に渡す。

 まだお金に換金できてないから仕方ない。

 あとの2つは宿屋で、食事と宿代をセットにして、これで泊まれる分とでも指定して渡すようにするか。

 とりあえず日も暮れて来たので、シーラを連れて飯屋を出る。

 既に数時間一緒にいるが、シーラが自分から話してきたことはない。

 俺の呼びかけには一応応じるが、一言二言だけだ。


「シーラ、俺はこれからあそこにある大きな城に戻るからさ、お前は宿屋の部屋で一人で待っててくれよ」


 俺がそう言うと、シーラは何も言わず俺の服の裾をヒシッと掴んで首を横にフルフルと振っていた。

 おお? 意外とこの短時間でなんかなつかれたか? ちょっと感激。


「なに?」

「………………いや」

「なにが」

「………………一人」

「なんで」

「………………また連れてかれる」


 違った。

 怯えてるんだ。


 また連れてかれる…………やっぱりこの子はどっかから拉致られてきたのか。

 そんなこったろうとは思ったけどよ。

 でも俺も城に戻らないと心配されるだろうしなぁ。

 それに一人で居させることにも慣れさせないとダメだと思うし。

 ちょいと酷だけど、今回は突き放してみるか。


「宿屋にいりゃ大丈夫だろ。俺が宿屋の主人にも言っておくからさ、誰が泊まってるかはしゃべるなって」

「……やだ…………やだ……」


 シーラは少し涙目になりながら再度フルフルと首を横に振っている。

 なんだよこれ。

 俺の良心にクリティカルヒットするんだけど。

 すげー悲しい気持ちになるわ。


「もしお前が連れ去られるようなことがあれば、俺がこの国滅ぼしても探し出すから。な? また明日来るからさ、一人で待っててくれよ」


 まぁそんなことはもちろんできないけど。

 でも万に一つでも連れ去られるようなことがあれば、俺だって全財産失ったんだから、ただじゃ済まさないぜ。

 そこんところはガチよガチ。


「…………………………………………分かった」

「よし」


 俺がシーラの真っ赤な髪をわしゃわしゃと撫でた。

 体は少し震えていたが、それでも嫌な表情をしていないから、少しづつだけど早くも打ち解けてきたんかな。


 実は俺って子守が得意?

 弟や妹はいるけど歳の差あんまり離れてなかったからなぁ。


 その後俺は近くの宿屋に向かい、残りの結晶石2カケラを見せて泊まれる限りの日数分と飯代を借りた。

 2カケラでも一室を1週間借りることができるみたいだから良かった。


「じゃあなるべく部屋からは出るなよ。約束を破って外に出て連れ去られても知らんからな」


 シーラはコクコクと頷いた。

 よっぽどトラウマになってるのか、素直だな。


「それじゃあまた明日来るから。ゆっくり休めよなシーラ、おやすみ」

「………………おやすみご主人様」

「ミナトな」

「………………ミナト」

「なんだよ言えるじゃんか」


 一瞬、ミナト様と呼べ! とかいう邪な考えが浮かんだが、俺の良心がマッハで消しとばしてくれた。

 ありがとう良心マン!


 俺は宿屋を出て城に向かった。

 外はもう既に日が完全に落ちていたが、まだまだ人は賑わいを見せている。


 この1日で俺は手持ちの資金を全て使い切ってしまった。

 もう一回あの洞窟に行って結晶石取りまくってきたら億万長者じゃね!? とも思ったが、よく考えたらダンジョンまでの道のり全く覚えてないから無理だった。

 なので、資金面に関してはもう一つの可能性に懸けようかなと思ってる。

 それは、この国の王様に会って異世界から来たと認めてもらったら、勇者として魔王討伐の旅に出るから金をくれ! と乞食こじいてやるという乞食こじき戦法だ。


 勇者として送り出すんだったら、やっぱり資金の一つや二つくれないとさ、どこかのゲームみたいにヒノキの棒だけ渡して「おら世界救ってこいや」なんて外道なことしないと思うんだよね。

 だからこの数日、金稼ぎなんて一切やらない!

 飯も城で出してもらう!

 俺、お客様だから!


 そんな訳で資金面については解決したも同然なので、自然と足取り軽く城へと戻っていった俺だった。

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