第15話 武器屋で仕立て屋

「お父様はしばらく不在のようで、3日ほどお待ち頂いてもよろしいですか?」


 部屋に通されてから数時間後、ニーナさんが直接俺に伝えにきてくれた。

 どうやら他国に出掛けてしまっているようで、数日後に帰ってくるという話だそうな。


「じゃあ、俺はこの国を少し見て回ってますよ。初めて見るものばかりなのに、まだあまり散策できてないんで」

「分かりました。門にいる警護隊にも八代様がお客人としてこの城に滞在していることを通しておきましょう。本当は私が案内してあげたいのですが……。立場上、自由に行動することもできないので」

「構いませんよ。問題を起こすようなこともしませんから安心して下さい」


 そう言うとニーナさんがクスリと笑った。

 う〜ん可愛い。


「八代様ならたとえ絡まれたとしても問題なさそうですものね」

「そうです。腰の低さで言ったら俺の右に出る者はいませんからね。すぐにへり下ります」

「強いからという意味で言ったのですが…………謙遜がお上手ですね」


 そこから数分他愛もない話をした後、ニーナさんは部屋から出て行った。

 出ていった後に気が付いたが、今ニーナさんと部屋で2人きりの状態だったのか。

 それに今はもう日が落ちて夜。

 夜に可愛い女の子と2人きりなんてシチュエーション、元の世界の時に一度もなかったんだけど。

 あー! もうちょっと気の利いた一言でも言えりゃあなぁー! でもたまんねーな異世界!


 ニーナさんと過ごした甘いひと時(過ごしていない)をあれこれ妄想しながら、俺はベッドで一人ニヤニヤしていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日俺は、異世界初めての朝日を浴びて気持ちよく起きた。

 外に出掛ける準備をビシッと決めて、いざ城下町へ!

 と、意気込んだのはいいが、部屋を出てすぐに出口が分からなくてオロオロした。

 だから広すぎるんだってここ。

 なので近くにいたメイド姿の人に昨日の出口まで案内してもらった。

 別に執事の方でも良かったけど近くにいなかったからね?

 メイドの人のほうが近くにいたから案内してもらったんだぜ?

 下心なんてないんだぜ?

 ちょっとしか。


 昨日使ったような転移魔法陣は使うことなく、徒歩で出口のところまで案内してもらった。

 もしかしたら転移魔法陣は王族の人専用なのかもしれない。

 魔力消費が激しいとかなんとか、そんな事言ってたしな。


「ありがとう!」


 俺は案内してくれたメイドの人にお礼を言って門をくぐると、昨日もいた近衛兵らしき人物が今日もいた。


「ヘイブラザー! ご機嫌麗しゅう?」

「叩っ斬るぞ貴様」


 なんだよ昨日と態度変わらないじゃん。

 ニーナさんはちゃんと話を通してくれたんだろうか。


「ちょっと待ってくださいよ。俺はお客人としてこの国に招待されてるはずですよ? そんな言い方はないんじゃないですか?」

「だったらお前のその態度も、お客として招かれている者の態度ではないだろう」


 なるほどごもっとも。

 ぐうの音も出ませんわ。


「じゃあ俺はこれにて」

「なんなんだ貴様は…………」


 コミニュケーションの一環だと思ってくれればいいが、俺のそんな気持ちは汲んでくれなさそうだな。

 彼、真面目だし。


 城から離れると徐々に街の賑やかな喧騒が聞こえてくる。

 食べ物を露店で売る人や、冒険者っぽい人達のクエストに関する話題、子供達の走り回る元気な声など。

 改めて落ち着いて見れば、俺の世界とあまり変わらなくもない。

 ただ何となく、こっちのほうが人との距離が近いというか温かみがあるというかなんというか。

 もしかしたらこの国だけなのかもしれないけれど。


 とりあえず、俺の今日の目的は既に決まってるぜ。

 ガルムからもらったこの服以外にも服を買うのと、銀色の銃に合う拳銃入れを仕立てること!

 とりあえずはこの2点だよな。

 いつまでも腹の横に差し込んでおくのもダッサいし。


 そういうわけで俺はまず武器屋を探すことにした。

 ガルムは魔法があるおかげで、遠距離用の武器は必要性の観点から弓ぐらいしかないといっていた。

 するとこの銃に合う入れ物は、一から作らないといけない可能性が高い。

 時間がかかるかもしれないのだ。

 だから先に仕立を済ませてから服を選びつつ時間潰しだ。


 俺は建物を色々見て回りながら武器屋っぽいのを探した。

 すると、これ見よがしにでかいザ・武器屋を見つけた。

 入り口の横に鎧とか盾とか置いてるし、間違いないだろう。

 ただ想像してたよりちょっとでかいというか……ホームセンターかよ。

 なんかちょっとイメージと違うよなぁ……。

 もっとこう……個人経営してるようなこじんまりしたような所がいいんだ俺は。

 ということで、もうしばらくフラフラ散策していると、まさしくイメージ通りの武器屋があった。

 いかにも店主がムキムキな男っぽそうな雰囲気の所だ。


「やっぱこういうところだよなぁ……」


 俺は一人で頷きながら、店の中へと入っていった。

 中は、飾ってある商品的にはそんなに数がなかった。

 剣も3種類ぐらいしか置いてないし、鎧も一つだけだ。


「いらっしゃい」


 店主を見ると、想像通りすぎるぐらいムキムキでバンダナを巻いたハゲっぽいおっさんで、思わず笑いそうになった。

 テンプレかよ。


 さて……とりあえず俺はまだこの世界の通貨がどういったものか分からないし、手持ちの結晶石がどれぐらいの価値があるのかも分からない。

 下手な事を言えば、ぼったくられる恐れもある。

 だからまずは俺が、武器に関して通だと思わせてやることにするか。


「よう……ちょっと武器を探しててな……ジャーマンスーップレックスとか置いてないのか?」

「ジャーマ……何? 悪いがそんな名前のものは置いてないな」

「ここにもないのか……。じゃあナポレオンやコロンブスも置いてないのか?」

「何一つとして聞いたことないんだが……本当にそんな武器あるのか?」

「おいおい、そしたらサルベージショットもエベレストもできねぇじゃねーか」

「知らん知らん!」


 結果、入店拒否食らいました。

 自分でも途中から何言ってるか分からなかったし、当然だよな。

 ということで再度入店するわ。


「失礼しまーす」

「なんでまた来るんだよ! 分からんから帰ってくれ!」


 店主から当然の反応が帰ってきた。


「すいません、さっきのは冗談です。本当は、この武器に合う入れ物を作成して欲しいのですが……」


 俺は銀色の銃をカウンターの所にゴトリと置いた。


「こいつは…………見たことがないな。どういう武器なんだ? こりゃあ」

「お見せしましょうか?」


 俺は銃を手に取り、魔力を送ることで弾を装填する。

 そして飾ってあった鎧に向けてドンッと撃った。

 鎧は派手な音を立ててバラバラになってしまった。

 店主は口を開けたまま呆然としている。


 思った以上威力が出てしまった。

 やっべぇ…………。


「す、すいません。あれも弁償するんで……」

「それは別に構いやしねぇんだが……すげぇ武器だな! 魔法とはまた違うタイプの遠距離用の武器か! どういう仕組みになってんだ?」


 良かったー怒ってねーセーフ。

 そうだ、ついでにひとつこのおやっさんで試して貰うか。


「この武器は魔力が弾代わりになります。ちょっと撃ってみます?」

「おお! いいのかい!?」

「どうぞ。魔力を流し込むイメージで……後はこの引き金を引くだけです」


 店主のおやっさんは銃を両手で持ち、魔力を流し込んでみる。

 そして勢いよく引き金を引いたが、カチッという音だけで弾は発射されなかった。


「? 何も出ないな」

「ふむ……」


 やっぱガルムが撃てなかった時も、魔力が切れていたんじゃなくて俺専用の武器だから撃てなかったことになるのか。

 俺専用の武器、いいね。

 いいねボタンがあったら連打してるわ。


「どうやら撃てる人にも条件があったのかもしれません」

「そうか……残念だ。それで、この武器の入れ物を作って欲しいって依頼だったな?」

「ええ、そうですね。どれぐらいかかります?」

「そうだなぁ……だいたい2週間ぐらいだなぁ」

「そんなかかんの!?」


 マジかよ1日で終わらないんか!

 ちょっと予想外!


「そりゃあな。初めて作る形だし、他にも優先して作る依頼物がたくさんあるんだよ」

「そこをなんとか数日くらいで……」

「ダメだ」


 くっそう……。

 こんな所でダラダラしたくはないんだけどな。

 こうなったら……………………奥の手だ。


 俺は腰巾着から中ぐらいの結晶石を一つ取り出してカウンターに置いた。

 中ぐらいと言っても、野球ボールくらいだ。


「これで何とかなりませんか?」

「だからダメだと…………ん!? お前……こりゃ結晶石じゃねぇか! なんだこの大きさ!」


 なんか思ってた数倍以上の反応なんだけど。

 もう少し小さくても良かったか? これ。

 いや、今さら変更なんて男らしくないだろう!

 世の中財力ってことを分からしてやる!


「さっきの壊してしまった鎧分も含めて払うから、これで少し便宜を図ってくださいよ」

「むむむ……」

「まだ足りません? なら足しますけど……」


 俺が腰巾着に再度手を入れ、ジャラリと音を立てる。


「わ、分かった分かった! 君のを優先して作ろう! これ以上増えたら逆に気味が悪い!」


 よっっしゃー。

 どや、これが金にモノを言わせた交渉術だ。

 金の力は偉大なんだぜ。

 それにしてもこの結晶石、ダイヤモンドと似たような価値なのか?

 それならこの大きさにビビるのも分かるけどな。

 ガルムよ、良いものをくれたな。


「そしたら銃の採寸を測るから少し貸してくれ」

「盗んだら刺しますよ」

「盗むか! 測ったら直ぐに返すっての」


 おやっさんは銃の大きさを測ったら本当に直ぐに返してくれた。


「どれぐらいでできるかは分からん。ただ、やるからには最高の出来にしたいからな、今日明日にはさすがに出来ないが、ちょくちょく顔を出してくれ。あと、名前とかもこの用紙に書いておいてくれ」

「オッケー」


 俺は紙に名前を書き、店主のおやっさんによろしく伝えて店を出た。

 もしかしたら、ショッピングモールのような武器屋で買えばもっと安く、手軽に済んだのかもしれない。

 とんでもない豪遊をしてしまったのかもしれないが、せっかくなんだから楽しまなきゃ損だよな。

 地獄のような1ヶ月を過ごしたんだし、ストレスなんか溜めずに生活しなきゃバチがあたるってもんよ。


 俺は続いて服を探しに出掛けた。

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