第14話 転移者と証明するために
どうだ。
核弾頭並の爆弾発言だ。
こんな電波なことを言う奴は他にいないだろう。
「それは…………本当ですか?」
ニーナさんもモービルも、少し変わった表情をしている。
意外と受け入れられてるっぽい?
もっとバカにされるか、引かれるか予想してたし、それに対する反論的なのも用意してたんだが。
「嘘は言いませんよ。証拠に俺の世界の文字でも書きましょうか?」
俺は筆記用具をもらい、紙に「チャリで来た!」と書いた。
「んん……確かに文字に見えなくはないが……適当に書いたようにも見えるぞ!」
言いがかりはやめろや、と言いたいがモービルの言うことにも一理ある。
「これだけでは何とも判断し難いですね……。ちなみに何と書いたんですか?」
「チャリで来た! と」
「どういう意味だそれは……」
「もし八代様が本当に転移者だとしたら、この国の実験によって召喚された方ということになります。確かに最近、異世界人の召喚術の研究が成功したという話を聞きました。私はその分野に関しては興味があまりなかったので聞き流していましたが……」
「召喚術の研究に成功した……」
「ただ、もしそうであるなら、そんな救世主のような方を1人でさせておくはずがないですよね……」
ニーナさんが少々、俺の事を疑うように見る。
やっぱり嘘ついてると思われてんのかな。
召喚術の研究者ってもしかしてガルムのことか?
あいつの左目に刻印されている紋章は、召喚に必要なものだとか何とか言ってた気がするし。
研究の成果で召喚術を会得したスキルだと思っても不思議じゃない。
でもあいつは研究者って感じじゃないんだよな。
それこそ第一線で戦うような、ギルドにいたような奴らに近い気がするわ。
「そう言われましても……実際に俺は1ヶ月前にこの世界に来たばかりですし」
「ニーナ様。確か召喚術によって召喚された人間は、術者の力を全て受け継ぐ可能性があるとの情報があります。この者がもし本当に転移者ならば、武力や魔力に置いてこの世界の人間よりも遥かに大きな力を持っていましょう」
「なるほど。確かに聞いたことがあります。召喚術は20人以上の術者により行われるもの。その20人全ての力を引き継いでいるならば、そこらの者には負けないでしょう」
そりゃ分かりやすいな。
強さを誇示すればいいなんて、分かりやすくて簡単でとても助かるぜ。
ただ、召喚術を使うのに20人以上も必要になるってのはどういうことだ?
俺の時はガルム1人だったんだが………………まぁいいか。
「いいぜ、誰が相手になるんだ? 隊長さんか?」
「いえ、モービルでは少々力不足でしょう」
ニーナさんにズバッと言われ、モービルは少しシュンとしてしまった。
そういや少し気になったのが、国の王女ともあろう人間の護衛が、A級の魔物に苦戦するような人選ってのはおかしいよな。
俺が助けなくても何とかなっただろうが、それでももっと多く兵士が死んでいたんじゃないだろうか。
下級魔人とやらが出てきたら全滅じゃねーの?
「隊長さんが力不足となるほどの実力であるならば、何故あなたは王女という立場にありながら、そんな手薄な警護で外にいたんですか?」
「貴様……我々を
「愚弄するとかそういう問題じゃなくてさ、国の重要な人物を守るのにA級の魔物程度に苦戦するような人材を付けるのはおかしくない? って話」
「剣を抜け! 王国の兵士としてここまで馬鹿にされて黙っているわけにはいかん! ただ、ここはニーナ様のお部屋にあらせられるので外に出てからな!」
意外と冷静だな!
王女様を最大限尊重するあたり、信仰心的にはグッド。
「…………この国の辺りにはA級の魔物など滅多に出ることはありません。八代様はA級の魔物程度とおっしゃいましたが、A級に指定されているということは、それだけ危険度が高いということになります。1対1で戦って勝てる人間もそう多くはありません」
なるほど……。
俺の魔物に対する認識が甘いってことか?
「それを差し置いても私の立場は第8王女…………8番目なのです。そのような優先順位の低い者に、左程人数は当てられないのでしょう」
王位継承的な立場ってことかな。
この国も一枚岩じゃないんだろうね。
「そ……そんなことはありませんよニーナ様! 我々はいつまでもニーナ様のお側におります!」
「ええ、モービルにはいつも助けられています。それに、私は自分でも戦うことができますから」
確かにニーナさんは爆発魔法ぶっ放してたからな。
俺も失礼な事を言いすぎると爆散させられるかも。
「とにかく! 私も言われっぱなしでは面目立つ瀬がありません! 是非私にその役目を!」
「じゃあとりあえず隊長さんと戦えばいいですか? その後に誰とやり合ってもいいですけど」
「そうですね…………それでは最初にモービルと仕合をして頂いて、その結果次第によりお父様にお話を通しておきます。そうすれば、お父様の直属の警護隊のどなたかと仕合をすることができるはずですから」
「お願いします。俺が本当に異世界から来た人間だって分かって頂けるなら、何だってやりますよ」
「もう私に勝つ気でいるのか! 余裕だな!」
悪いけどアンタには多分圧勝できるわ。
その後にやる警護隊ってのがどの程度できるかは分からないけど、負ける気はしない。
たぶんここが正念場だな。
俺は、ニーナさんとモービルと共に城外にある庭の広場のようなところにやってきた。
そこは色々な花が咲いており、丁寧に手入れを行われているのが伺えた。
そこで今から俺はモービルと仕合をする。
相手にとって不足ありと、ニーナさんですら思っている仕合になるが、王国のいち隊長がどの程度まで動けるのか試すにはもってこいだよな。
「それではお互いに練習用の棒を手にしてください」
ニーナさんに手渡されたのは、ただの木の棒を少し加工したものだった。
木刀とも言えない、本当にただの棒だ。
「なるほど! お互いに相手を傷つけないためのものですなニーナ様!」
「お互いにというより、モービルが怪我しないようにですが……」
「ニーナ様!?」
おお、俺の評価はそんな上にあるのか。
めっちゃ嬉しいじゃん?
「みたいなんで。隊長さんには悪いけど、手加減なしでいきますよ」
「ぬかせ! 我々のことを愚弄したこと、私はまだ忘れてはいないからな!」
こわぁ。
愚弄した覚えはないんだけど、ナチュラルに人を馬鹿にしてしまう? そんな嫌な所、あるかもしれないですね俺は。
「魔法はもちろん使用しても構いませんが、なるべく周りの植物に影響しないようにお願いします。お姉様方に怒られてしまいますから」
ニーナさんのお姉さんか。
さぞかしお美しいことでしょうなぁ。
後で紹介してもらおうかな。
「相手に一撃当てたほうの勝ちとします。それでは構えて下さい」
ニーナさん立会いの下、俺たちは構える。
気付けば、周りに少しだけだがギャラリーがいた。
メイド服っぽいのや執事っぽい格好からして、この城の使用人だろう。
「例え貴様が本当に異世界から来た人間だとしても、俺は前座などで終わらせるつもりはないからな!」
「是非にお願いします」
「…………始め!」
合図と共にモービルが走り出す。
棒を持っている方とは反対の手をこちらに突き出した。
「盛れ!
モービルの手からサッカーボール大の火の玉が放たれる。
ガルムが放っていたものよりも少し大きめだ。
初級魔法は魔力の込め方によって威力が変わるということを思い出す。
だけれども恐らく、これが限界ということではなく、周りの植物に配慮してこの大きさなのだろう。
真剣であるならば剣圧で掻き消すことはできるだろうが、
だからと言って魔法で打ち消せるかといったら、水魔法も火魔法も使えない俺には無理だ。
なので横に一歩ずれるだけ。
そして横にずれながら指で銃の形を作り、モービルに向けて雷魔法を放つ。
「紡げ、
モービルは臆することなくこちらに向かってきており、俺が呪文を唱えたのを見るや、木の棒をこちらに向けた。
俺の雷魔法はモービルの持っている棒に直撃する。
が、モービル自身には特に電気は流れていないようだ。
確か加工された木は電気を通しにくいとかなんとか聞いたことがあったが…………よく分かんねーや。
モービルが棒を水平に振ってくる。
正直言っていいだろうか。
これ、くっっっっっそ遅い。
いや遅く見えるっていうかなんつーか…………くっっっっっそ遅い。
俺はその攻撃をぺいと弾き返す。
モービルが再度振りかぶるも、俺も再度弾き返す。
何度もこれを繰り返すうちに、流石にモービルも遊ばれていると気が付いたのか、顔が必死の形相へと歪む。
ああ、なるほどな。
確かに手加減無しって言ったのに、こんなんされたらウザいよな。
これは俺が悪いわ。
俺はモービルの棒を、
モービルの持っていた棒は手を離れ、城壁へ
そして俺はがら空きになったモービルの胴に、野球選手がホームランを狙うかのように打ち込んだ。
「ごふぅっっ!!」
モービルの体がふわりと浮き、10mほど吹っ飛んでいった。
だ…………大丈夫だろうか…………。
なんかちょっとエグい声だして吹っ飛んでっちゃったんだけど。
内臓とかイッちゃってたりしないよな……?
「モービル!」
ニーナさんが駆け付けるのと同時に俺も急いで向かう。
観戦していたギャラリー達も駆け寄ってきた。
「モービル! 無事ですか!?」
「えふっ! ぐふっぐふっ! だ……大丈夫です……」
「うごめけ、細胞よ活性化し、己の身を清め給え。
ニーナさんが呪文を唱えると、苦痛に歪めていたモービルの顔が柔らかくなる。
呪文の長さからいって恐らく、中級の治癒魔法だろう。
爆発魔法と治癒魔法という、破壊と創造を兼ね備えた魔術師であったのかこのお姫様は。
「申し訳ありませんニーナ様……。お手数を……」
「
「す……すいません。ちょっと力が入り過ぎたというか……加減を間違えたというか……」
「……最初にお前も言ったはずだろう……。手加減は無しで行うと……」
「いやまぁそうなんですけど……。思ってた数倍吹っ飛んじゃうから……」
「……悪かったな弱くてっ!」
やべ。
また煽るようなことをナチュラルに言っちまった。
「八代様が気にすることはありません。仕合とはお互いに覚悟を持って行われるものですから。モービルも八代様を怪我させるつもりで挑んだのでしょう?」
「返り討ちに遭いましたがね」
つまりはああいこって事ね。
そう言ってもらえると助かるけどさ。
「とにかくこれで、八代様の実力はある程度分かりましたね。モービルでは相手にならないほど、実力差が開いていると」
「悔しいが……そうなります。私では彼の遊び相手にもならなかったみたいだ」
途中の、弾き返してる部分のことね……。
「後ほど私からお父様にお話しておきます。異世界から来られたと申してる方がお見えになっていると……」
「本当ですか!?」
「もちろんです。皆さんもお騒がせしました、持ち場に戻って頂いて結構ですよ。あ、貴方は残っていて下さい」
ニーナさんが一声かけると、心配そうにモービルを見ていた使用人の人達が、1人のメイドさんを残して一つ会釈をして散っていった。
「それでは八代様も少しお休みになられて下さい。お父様に今すぐお話するということはできませんから、少し時間を頂くことになります」
「全然! いくらでも待ちますよ!」
「それでは、お部屋を用意させますので」
俺はニーナさんに呼び止められたメイドの方に案内され、お城の中の一室でくつろがせてもらうことになった。
まるで高級ホテルのような一室に若干興奮しながらも、ガルムと別れてから歩き詰めだった俺は高級感漂うソファーに横になると、すぐさま意識が切り取られていった。
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