第13話 いざ王城

 城の前へとやってきた。

 近くでみるとやはりとてつもなく大きい。

 この世界が異世界であると、否が応でも分からされる圧倒的な威圧感を放っている。

 建物の至る所が銀色に輝き、壮麗で荘厳な雰囲気がその城にはあった。


「…………かっこいいなぁ」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 外国の観光地に1人で来たような、心踊る感覚が体を支配しているのを感じる。


 問題はここからどうやって中に入れてもらうかだ。


 国の中心部にのこのこと知らない人間が入れるほど、雑な警備はいくらなんでもしていないだろう。

 どこの世界でもそうだが、それなりの権力者が入れるようなところだ。

 ガルムは自分の名前出せば優遇されるようなことを言っていた。

 もしかしたら話を通してくれているのかもしれない。

 もしそうであるならば、恐らくこの国の王、とまではいかなくても有力者には謁見ができるかもな。


 入り口の所には兵士のような人間が立っていた。

 微妙に道中や国の入り口にいた兵士とは鎧の種類が違うようだが、城の入り口に立っているということは近衛兵的な何かだとは思う。

 とりあえず俺はその近衛兵に声をかけることにした。


「ヘイブラザー。元気でやってるかい?」

「なんだ貴様馴れ馴れしいな。斬り殺されたいか」


 ダメだ。

 声の掛け方間違えた。

 もっと真面目にいかないと怒るタイプか。


「すいません、知り合いと間違えました」

「そういうことか。今後は気を付けろ」

「ついでにちょっと聞きたいことあるんですけどいいですか?」

「なんだ。下らんことなら斬り殺すぞ」


 めちゃくちゃ物騒じゃねぇかコイツ……。

 すぐ殺そうとしてくるな……。


「このお城の中って、自由に出入りできたりします?」

「馬鹿言え。できるわけがなかろう。ここには王族の関係者と国の政治に携わる方々しか入ることはできん。お前のようなどこの馬の骨か分からんような奴が出入りできるわけがなかろう」


 む、まだ俺が入るとは言ってねーだろ。

 まぁ入るつもりで聞いたんだけどさ。


「じゃあ普通の人は入ることはできないんですか?」

「無理だな。王族からなどの推薦状があれば話は別だが、あきらめろ」


 そう言って兵士の人はフンと鼻を鳴らした。

 ちょっと態度悪すぎやしねーか?

 こうなったら奥の手出してでも中に入れてもらうぞ。

 それで謁見して異世界から来た勇者として名を売り出すんだ俺は。


「じゃあ推薦状代わりになるかは分かりませんが、俺はとある人物と懇意にしていてーーー」

「そこのお前! そこから動くなよ!」


 突如として怒号がきこえてきた。

 何事かと声のした方を見てみると、馬車を囲むようにして兵士の一団がこちらに向かって来ていた。

 先頭にいる兵士にはうっすらと見覚えがある。

 先ほどの鎧ワニと戦っていた兵士の隊長っぽい男だ。


 どうやら迂回して歩いてきた俺の方が、先にこの国に着いていたようだ。

 どこかで道草でも食っていたんだろうか?

 どちらにせよ厄介なタイミングで見つかってしまった気がする。

 彼らは確実に俺に対して良くない思いがあるだろうな。

 味方4人を先頭不能にした張本人だし、懲罰房行き待った無しの展開じゃねぇ? これ。


「お前は先ほど、シャンドラ高原においてワニレオンを全て退治した男だな!?」

「そーーー」


 そうですが、と言おうとして留まった。

 この質問の仕方は少々引っ掛けじゃないか?

 ここでイエスと答えようなら、つまりは兵士4人を攻撃した人間ということでもあると自白しているも同じだ。

 危ない危ない。

 そんな誘導尋問に引っかかる俺じゃないんだぜ。


「違います」

「嘘をつくな! チラリとしか見えなかったが、雷魔法を使っていた人物と服装も顔も似ている! お前で間違いないだろう!」


 チラリとしか見てないのに、よくそこまで断言できるな……。


「他人の空似じゃないんですか? こんな格好に似たような人なんてたくさんいると思いますし」

「いや、そんな軽装で魔法使いでも討伐者でもない奴はそうそう見ない!」

「なんだ貴様。外で何か揉め事を起こした人物だったのか」


 近衛兵がギラリと俺を睨んでくる。

 つーかなんだよ、ガルムがくれたこの服装、世界観的に合ってないのか?

 戦う人間は鎧か魔法使いっぽい格好の2択しかないのか? この世界は。


「別に揉め事なんか起こしてないっすよ…………」

「正直に言ったらどうなんだ!」


 隊長っぽい奴がなおも威圧的に聞いてくる。

 流石にもう誤魔化しきれないか……?


「おやめなさいモービル。恩人の方に失礼でしょう」


 突然馬車の扉が開き、透き通るような声が聞こえてきた。

 中から出てきた人物に俺は息を呑み、隊長っぽい奴も近衛兵っぽい奴も頭を下げる。

 長い金髪の髪に透き通るような肌。

 幼さが残る顔立ちだが、その佇まいは美麗という他ない人物。


「申し訳ありませんニーナ様! 私めは幾分口下手なもので……!」

「お帰りなさいませニーナ様」


 ニーナと呼ばれた人物は、鎧ワニと戦っていた時に、爆発魔法により他の兵士よりも最も成果を上げていたように見えた、美人なお姫様だ。

 本当にお姫様なのかは知らんけど。

 というより、この雰囲気から爆発魔法ぶっ放すってギャップが凄いな。

 ギャップ美人です。


「失礼致しました。モービルも貴方の事を責めているわけではないのです」

「はぁ……。それはまぁ大丈夫ですけど……」

「貴方は先ほど私達を助けて下さった方で間違いありませんか?」

「間違いありません」


 俺はキリッと答えた。

 なんかよく分からんけど、こんな美人な人に聞かれたら嘘つくわけにはいかないよな!


「お前さっきとは態度が……!」

「ただ、他のお仲間の方にも攻撃しちゃいましたけど……」

「わざとではないのですよね? 元々傷つけるつもりがなかったのは分かっております」


 ニーナと呼ばれた人がニッコリと笑う。

 ええ人や……!

 太陽みたいなええ人や……!

 美人な人は性格も大抵美人だから困る。


「怪我された方も治癒魔法で無事ですのでご安心下さい。それと、是非お礼をしたいので城内まで来て頂くことはできますか?」


 棚ぼた!

 なんかよく分からないけど、結果的に事がうまく進んで城の中に入ることができるっぽい!

 寄り道が裏目裏目に出てきたかと思ったけど、この美人さんの神がかった解釈に助けられたぜ。


「もちろん大丈夫です」


 俺も城内に用事があって、ってのも言おうとしたけど、相手に不信感を与えてしまう気がしたのでやめた。


「良かったです。それでは参りましょうか」


 彼女はニッコリと微笑むと馬車には戻らず、そのまま歩いて入り口を通っていった。

 その後に俺は続き、後ろから兵士達と馬車が付いてくる。

 俺は入り口を通る際にこれでもかというくらい、口の悪い近衛兵にドヤ顔をしてやった。

 もちろん、近衛兵がニーナと呼ばれた方に頭を下げている間にだけどな。


 ケンカになるのやだし。


 とりあえず、城の中に入ることは出来たのだ。


 門を抜け、城内に入ると、一流のホテルかと思わせるほど綺麗なロビーになっていた。

 一流のホテルは異世界だった説が突如浮上したぜ。

 馬車はそのまま外に置いてきたようで、先頭に隊長のような男、その後ろにいる俺とニーナさん、それを囲むように兵士が歩いている。

 ニーナさんの後をついていきながら、天高い天井を見上げたりとキョロキョロする。


 オラここに来てからキョロキョロしっぱなしだども、別に田舎モンじゃねぇがんな!


 なんて1人で舞い上がっている間に、隊長が行き止まりの壁の前で止まった。


「なんでここで止まったんですか?」

「ここから移動するからですよ」


 ニーナさんは俺の質問に嫌な顔せず答えてくれた。

 隊長が地面に向けて両手をかざし、何かを呟いたかと思えば、突如として地面に大きな魔法陣が出現した。

 その魔法陣は俺達全員が入る大きさで、発光し始めたかと思えば次の瞬間、周りの景色がどこか別の広間ひろまの中のようなところになった。


「え、なんだ今の!?」

「転移魔法陣です。魔力消費の関係上、あまり長い距離を移動することはできませんが、ご存知ありませんか?」

「ご存知ないです…………」


 漫画とかアニメの知識としては知ってるよ? もちろん。

 でもそれを生で見て体験できるなんて考えたことなかったからな。


「そう言えば、まだ貴方のお名前を聞いていませんでしたね」

「人に名前を聞くときはまず自分からって教わりませんでした? 八代やしろ みなとですよろしくお願いします」

「なんなんだこいつ……」

「ふふ、面白い方ですね」


 なるほどこういう冗談が通じる人ね。

 ますます好感触!



「私の名前はニーナと申します。よろしくお願いしますね」

「ニーナ様ね。よろしくお願いします」

「様付けはおやめ下さい。貴方は私のお客様として来られているのですから」

「じゃあニーナちゃん」

「まぁ……!」


 あまりこういう呼ばれ方をされることに慣れていないのか、恥ずかしそうに口元を手で抑えた。


「貴様! このお方をこの国の第8王女と知っての狼藉か!」

「いや知らないけど……確かに馴れ馴れし過ぎました失礼。じゃあニーナさんで」

「私もできればそちらでお願いします……。少々恥ずかしいですから」


 そう言って照れ臭そうに笑うニーナさん。

 やだこの人。

 めっちゃ萌える。

 というかやっぱりこの人お姫様だったんか。


「ここは私の部屋の玄関になります。どうぞ中に入って下さい」

「玄関だったのかよ広すぎだろ……本当にまだここ城の中だよな?」


 さっきの転移で実は遥か彼方に飛んでたりして。

 なんつって、そんな事ができたらわざわざ危険を犯して馬車で移動する意味ないもんな。

 さっき言ってた通り、魔力の関係上遠くは行けないんだろう。


「皆さんも警護お疲れ様でした。戻ってゆっくりして下さい」


 周りにいた兵士はそれぞれ部屋から出て行ったが、隊長のモービルと呼ばれていた男だけはその場に残っていた。


「モービルもお休みになりなさい」

「いえ! 恩人とはいえ、上級魔法も使うことができる誰かも分からぬ人間を、ニーナ様と2人きりにはできませぬ! 私も残ります!」

「そんな心配しなくても、この方は大丈夫ですよ」

「いや! 決めつけるにはいささか尚早過ぎます! 是非私めも!」

「仕方がありませんね……。すいません八代やしろ様、よろしいですか?」

「全然構いませんよ。俺にどうこう言う権利はありませんから」


 全然構うわあああ!

 空気読めよこの堅物野郎!

 せっかくニーナさんと2人きりになれるチャンスをぶち壊しに来るんじゃねぇよ!

 お前は俺の天敵か!


「それでは中にお入り下さい」


 中に入ると、まさにお姫様の部屋といったファンシーで可愛らしい部屋だった。

 天井がついてるようなベッドもあれば、装飾ゴテゴテのソファーもある。


「わぁお。綺麗な部屋ですね」

「ふふ。ありがとうございます」

「ニーナ様は綺麗好きであらせられるからな。掃除なんかは城の者に任せず、全て自分で行ってしまうのだ」


 なんでお前が得意気なんだ。

 いいから帰れよお前は。


「そういえば八代やしろ様は門の入り口で何をされていたのですか? なにやら揉めていたようですが……」

「大したことじゃないんですよ。ただちょっとこの国の王様に申し入れたいことがありまして……」

「お父様に…………?」

「国王に会うなど、普通の者ではできんぞ。ただでさえここは世界の国の中でも中心に値する国家だ。なにせ、初代勇者エレクの生まれた国だからな」


 初代勇者エレク…………。

 やっぱりこの世界にはもう勇者って呼ばれてる人間がいるのか。

 初代ってことは、もうエレクって勇者は死んでるかもしれないな。


「なんとか会うことはできませんか?」

「どういった理由なのでしょうか。そんなにもお父様に会いたい理由は……」


 何かこの世界を揺るがすようなことを言わなければ、重要であることを言わなければ、会うことは出来ないだろう。

 だから俺は究極の切り札を。

 ここぞという場面で話すことを決意した。


「俺は異世界から召喚された人間なんです」

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