シャンドラ王国編

第10話 ここがスタート地点

「というわけで1ヶ月ぶりに地上に出てきましたー」


 俺はガルムと一緒にダンジョンを逆走した。

 入り口まで転移して戻してくれるような親切仕様はさすがになかったようだ。

 肩の傷に関しては、戻ってくる途中で魔力が回復したガルムに治癒してもらった。

 初めて異世界の外へ出た俺は、新鮮な空気を吸い込もうと息いっぱい吸い込んだら変な虫が口の中に入ってきてせた。

 最悪だ。

 出たところは森の深部のようなところで、木々が生い茂っているせいで陽の光があまり届いていない。

 まるで富士の樹海のようなところである。


「虫系の魔物が多かったのは森の中にダンジョンがあったからか?」

「さぁ?」

「知らんのかい」

「そんなことよりも八代やしろ みなと、君は見事この1ヶ月間厳しい修行に耐え、伝説の武器を手に入れた」

「なんで急に師匠感出してくれてんの」

「いいんだよこういうのは雰囲気が大事なんだから。そしてミナトには最初に話した通り、その武器を使って魔人を魔王の手から奪いとってほしい。今この世界がどうなっているのか簡単に説明するから」

「そうだよ。魔王がどうとか言われても何も分からねーし。ドラクエかっつーの」

「この世界は現在、人類と13人の魔王による人魔戦争が起きている状態にある。この戦争はおよそ100年前から始まり、現在まで人類は常に劣勢の状況にあるんだ」


 ええ…………ガチシビアな世界じゃんか。

 魔物がいるのはまだ分かる。

 魔王とかいうのがいるのもまぁ分かる。

 でも100年も前から戦争状態で緊迫状態とか、そういう時の人の心ってすさみまくってるんじゃねーの?

 街に行ったら余所者は死ね! とか言われんのやだよ俺。


「ああでもそんなに心配することないよ。この100年で人類と魔族はある程度棲み分けができてて、激しく戦争起こしまくってるのは一部の魔王と国だけだから。魔王ヴィルモールみたいに人類の領地を奪ったりするのに興味ないやつもいるし」

「そういや魔王ヴィルモールって死んでるけど、最初は何人魔王っていたんだ? つーか100年ずっと魔王は代わり映えしないのかよ。寿命なげーな」

「約100年前、この世界にやってきた魔王は全部で15人。魔王達はそれぞれ独立して国を作り始め、それと同時に魔物まものと呼ばれる生き物や、魔王と同じく魔族の人種の魔者まものがあらわれたんだ」

「ん? 〝まもの〝と〝まもの〝? 読み方がダブってっけど?」

「魔物と魔者だよ。イントネーション的には、〝お城〝と〝刃物〝みたいな」

「雨と飴みたいなもんか」

「〝魔の者〝で魔者と〝魔の者が連れてきた生き物〝だから魔物っていう付けられ方らしいけどね」

「もうちょっとなんとかならんかったのか…………」


 センスがないですよセンスが。


「それで15人のうち2人の魔王は倒されて、その内の1人が魔王ヴィルモールだったかな確か」


 なんだあいつ人類に殺された割に、全然恨んだりしてなかったな。

 ドライというかなんというか……。


「それで?」

「それで? それ以降のことはあまり知らないけど……」

「お前知識乏しすぎでしょ!!」

「しょうがないだろー。僕だってそんな昔のことわざわざ調べたりしないし。ミナトは自分の世界の歴史の流れ詳しく覚えてるの?」


 む。

 確かにそう言われると、9年間義務教育を受けてきたはずなのに大まかな流れしか思い出せない。

 この頃に戦争があったとか日本が勝ったとか……。


「分かった。ガルムの言い分も一理あるわ。申し訳ない」

「人間、素直に自分の非を認められる人はそういないからミナトは偉いよ。気になるなら王国にでも行って自分で調べてみて」

「それで、この後どこにいくんだ? 魔王を倒せ的なニュアンスを言われてるのは分かるんだけど、個人的にはもう少しこの世界でゆっくりしたいんだけど」

「全然ゆっくりしてもらっていいよ。どうせここから僕とミナトは別行動になるし」

「あ、え、そうなの? お前はついてきてくれないのか」

「なに? 僕におんぶに抱っこのほうが良かった?」


 ガルムがククッと笑う。

 誰がお前みたいな奴と行動したいと思うか。

 可愛い女の子になってから出直せ。


「それならそれで全然構わねーよ。俺にはこの銃があるからね! 怖いものなんかないやい!」


 俺は腰に挟んでしまっている銀色の銃を取り出す。

 魔力を込めない限り暴発はしないと思うが、ズボンに挟むのはどうにもダサいので、早急に拳銃入れを仕立てる必要がある。


「…………そういやその武器の名前とかって決めたの?」

「ん? 名前? いる?」

「そりゃいるでしょー。武器に名前つけるだけでかなり愛着湧くと思うよ」

「んん……確かに。ちなみにお前がくれたこの剣にも名前あんの?」

「言ってなかったっけ? それは『雷鳥らいちょう』。雷魔法しか使えないミナトにはぴったりでしょ」

「まさかこいつのせいで俺は雷魔法しか使えないんじゃないだろうな……」


 こういう偶然の賜物はどうにも勘繰ってしまうな……。


「そんなことないと思うけど。それで名前はどうするの?」

「急にそんなん言われてもなぁ」


 思い浮かぶのは厨二病患者が考える名前ばかり。

『雷鳥』なんてお菓子みたいな名前もあるが、この世界で厨二病的な名前は普通なのか判断に困るな……。

 ということで。


「じゃあガルムが決めてくれよ」

「え? 僕?」


 丸投げだ。

 面倒いことは全部投げとけば誰かがどうにかしてくれる。

 人間はみんな責任転嫁の生き物だい。


「本当に僕でいいの?」

「いーよ別に」

「そうだなぁ…………」


『龍殺しの大剣』なんて大層な名前つけてたし、きっとマシなものになるだろう。

 多少アレな名前でも、「いやこれ他の奴につけられてさー。仕方なく! 仕方なくこの名前なんだよー。カーッ」みたいな言い逃れもできる。

 うん。我ながら最低だな。


「よしっ! 決めたよ」

「なに?」

「ミナトの名前からとって『ヤシロン』!」

「おっけ。今度また自分で考えてみるわ」

「なんでよ!」


 あぶねー……。

 ガルムの奴ネーミングセンス0だ。

 剣の名前も多分作製者とかがつけたんだろうな。


「それじゃあここで一旦お別れだな」

「まったくせっかく考えたのに……。そうだね。それじゃあ君がこの世界に召喚された目的をくれぐれも忘れないようにね」

「はいはい。メンドーだなぁ」

「ご飯はしっかり食べるのよ」

「おかんか!」

「あ、そうそう。国に寄るならここから1番近い『シャンドラ王国』に行くといいよ。そこで僕の名前を出せば、色々優遇されると思うんだ」


 ほう……ここでもイージーモード要素がさらに追加されるか。


「あとこれ。ダンジョンにあった結晶あげるよ。かなりのお金になるから当分は困らないと思うよ」


 さらに上乗せっっっ!

 倍プッシュ!!!!!


「すまんねぇ何から何まで」

「勝手にこの世界に呼んだせめてもの詫びだからさ。なるべく苦労しないようにね」

「ありがたやー」


 俺は素直に袋に入った結晶を頂く。

 金はあっても困らないものナンバーワンだ。


「じゃあ、本当にこれで」

「ああ。またどこかで会うんだろ?」

「その機会があればね」

「ま、せっかくだから楽しませてもらうよこの世界を」

「勇者なんかもいるからさ、そういうのも目指すのもアリだし」

「ここに来て新情報!?」


 まぁ魔王がいるくらいだし勇者もいるか……。


「じゃあな」

「元気で」


 そして俺達は別々の道を進んだ。

 じゃあまずは、目指せ! シャンドラ王国かな。

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