第9話 八代専用

 俺はゆっくりと階段を降りる。

 ガルムの一挙一動に注意を配りながら、使ったこともない武器に魔力を流し込む。

 ヴィルモールの話が本当であれば、魔力がこの銃の弾代わりになるはずだ。

 もしもガルムがこの武器を俺から奪うつもりなら、俺はこの武器に全てを懸けるしかない。

 剣術や身体能力では圧倒的に俺が不利なのだから。


「俺がそっちまで行くからガルムは一歩も動くんじゃねーぞ」

「なんで急に切迫してんの。もう上級魔人は動かなくなったんでしょ?」


 それよりも厄介なお前がいるからだよ!

 と、言いそうになったがギリギリ喉元で抑える。


「いいから。俺がそっちに行くから」

「わかったよ」


 俺は一歩、また一歩と階段を降り、ガルムの前にとやって来た。

 近くには上級魔人が膝をついて固まっている。

 動く気配はない。

 こんな奴と最後まで戦わなくて良かったよ全く。


「………………………ほらよ、見てみろよ」


 俺はガルムに銀色の銃を手渡す。

 結局手渡さない方法が思いつかなかったので観念した。


「おお……これが魔王の遺した伝説の武器……見たことないなこれ……。どういう武器なんだろう? これで殴るわけじゃないよね」

「これは俺の世界で使われてる武器……つーか兵器の一つだな。なんか武器の形は魔王が勝手に決めやがったんだけど」

「魔王? ヴィルモールのこと?」

「知ってんのかよ」


 俺は武器を受け取った際の状況を詳しく説明した。


「叡智の魔王なんて呼ばれてたこともあったらしいけど……魔力の使い方に関してはやっぱり人間よりも詳しいな」

「もういいだろ。返せよ」

「えー僕にも使わせてよー。伝説の武器なんだよ?」

「俺がまだ使ってねーんだって」

「ああそっか。じゃあ先にどうぞ」


 そう言ってガルムは俺に武器を返した。

 そのまま奪うことなく俺に返したのだ。

 俺の考え過ぎか……?


「どうやって使うの?」

「魔力をこの銃に込めて撃つんだとよ」

「じゃあちょっとやってみせてよ。あの動かなくなった上級魔人に向かって」


 魔力を銃に流し込むと、体から吸い込まれていくのが感覚で分かる。

 これで弾の装填が完了したことになるのだろう。


「じゃあ撃つぜ」


 俺は上級魔人に狙いを定め、引き金を引く。

 バン!!

 という音と共に上級魔人の近くの床がエグれた。

 普通の拳銃は音も凄ければ反動も凄いってのは聞いたことがあったが、少なくともこの銃はどちらも大したことはなかった。

 俺自身、実際に本物の拳銃を撃ったことがないからその影響がこれにも出たのか、元々そういう仕様なのか。

 どちらにせよ、これなら練習すればすぐに当てられそうなので助かる。

 それに床のエグれ方からみても、俺の世界の拳銃よりも遥かに威力がありそうだ。


「飛び道具系なのか……。僕達のこの世界に飛び道具っていったら弓ぐらいしかないからかなり有効的だね。まぁそもそも魔法があるから飛び道具がそんなに必要ないってのはあるかもしれないけど」

「魔力が弾になってるから、魔力が切れない限りは連射できることになるのか」

「じゃあ僕にも使わせて!」

「ほらよ」


 ガルムが銃を構えて魔力を流し込む。


「あとは引き金を引くだけだ」

「引き金ってこれ? よーし」


 カチッとガルムが引き金を引いた。

 しかし何も起きない。

 銃からは何も発射されない。


「あ……あれ?」

「魔力がねーんじゃねーの?」

「いや、そんなことはないと思うんだけど……やっぱりミナト専用なのかな」

「あーそんなようなことをヴィルモールも言ってたような言ってないような……」

「なんだ、残念」


 そう言ってガルムは銃を俺に返した。

 どうやら本当に使ってみたかっただけのようで、そのまま奪って俺を殺すようなことはなさそうだ。

 やっぱり俺の考え過ぎか。


「それより、話によるとその武器の本来の用途は魔人を使役することができるってことらしいんだけど、その点は確認した? 僕が武器を使えないとなる以上、ミナトを召喚した本来の目的通り、その武器を使ってこの世界の魔人達を使役してほしいんだ。魔王達の戦力をむしろこちら側に引き込むという形で」

「そんなことも言ってたなぁ。魔力を多く込めればたまの代わりにたまが装填されて、それを撃ち込むことで魔人を使役できるとかなんとか」

「じゃああそこの上級魔人に使ってみてよ」

「いや、なんか瀕死の状態の魔人にしか使えねーんだとよ。あれはもうダメなんじゃねーの?」

「やっぱり縛りがあるのか……」


 でもとりあえず撃ってみる。

 ものは試しっていうしな。

 俺は魔力をさっきよりも多く銃に流し込んだ。

 キィィィィンという音と共に、銃が光を放ち始める。

 一発弾を撃つ20倍ほどの魔力を込めたのだろうか。

 魔力供給が打ち止めとなり、カチリと何かが変わった感じがする。

 恐らくこれで弾から魂に変わったのだろう。


「いくぜ」


 今度は外さないように超至近距離で上級魔人に向かって撃った。

 ドンッ!!

 という、音も衝撃も先程よりも強くなり光の固まりが上級魔人に当たった。

 すると魔人の体が光に包まれ、まるで圧縮されていくかのように縮こまれていく。

 ギュルギュルと回転しながら魔人だったものは変化し、赤いビー球のようなものになってそれは地面に転がった。


「ありゃ……? なんか成功したっぽいなこれ」

「命令式が切れただけで、死んだわけじゃなかったんだ」

「でもなんだこれ? どうやって使うんだよ?」

「さぁ…………?」


 赤いビー球を俺は拾って眺める。

 中で何かが渦巻いているようにも見えるが、これをどうしたら魔人として呼び出せるのか分からない。

 とりあえずは一応持っておくか。


「なにはともあれ結晶獣の洞窟、完全攻略完了かな?」

「みたいだな」


 俺の1ヶ月の集大成は大成功で幕を閉じたようだ。

 これでやっと異世界生活を楽しめるようになれたっぽい。

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