第3話 特訓フェイズ

「さて、それじゃあ早速だけど、器だけで中身がカラッポの君に、僕が直々に稽古をつけて差し上げよう!」

「なにこいつめっちゃ上から目線でもの言うんですけど」

「だって実際僕が君の主人てことになってるし」


 勝手に召喚されて勝手に変な力渡されて、その上勝手に主従関係できてるって何この新手の嫌がらせ。

 一方的な一方通行ですか。


「稽古なんてつけてもらわなくてもチート級の力とか貰えないんすか。じゃないとこんな理不尽な目にあってんのに割りに合わないんだけど」

「いや充分に反則レベルの力の基礎はあげてるよ。ただその力を使いこなすには、自分の体を動かして実感してもらわないと身につかないってだけで」

「特訓したらデコピンで相手の体とか粉々にできたりする?」

「なにそのおぞましい力! さすがにそんな化け物じみた力じゃないから!」

「つーか俺専用の武器は? それ見せてくれよ早く」

「その武器が、超難易度のダンジョンにあるんだよ。それを取りにいくためにも、君自身にも強くなってもらわないと困るんだ」


 なん……だと……!

 ダンジョンに取りに行かないと貰えないなんて、どこぞのRPGだ。

 つーか最初に言え!


「ガルム、お前強いんだろ? 俺を召喚する前にでも取ってきてくれりゃ良かったじゃんか」

「取りにいったよ。元々は僕が使おうとしてね。でも最下層直前の扉に、武器を扱える資格のある者でないと扉を開けることができないと書かれてたんだ。実際扉は開かなかったし…………だからミナトを召喚したんだ」

「つーことは俺が使えると決まったわけでもないのか……」

「そうだけど大丈夫でしょ。うん大丈夫大丈夫ー」

「なにその受け答え軽すぎ。ムカつくんですけど」


 想像してたよりもなんかシビアじゃね?

 まぁラノベとかで読んだ主人公も不遇な奴とか結構いたし、まだ恵まれてるほうなんかな。

 つーかまだこの世界来てからの目を一度も拝んでないんだけどここ何処だよホント。

 洞窟の中っぽいのは分かるんだけどさ。


「超難易度って言ってたけどさ、それを踏破できるぐらいに俺も鍛えればなれんの? マジで運動とかあんまりしたことないんだけど」

「任せてよ。そこはもう実際に実感してもらったほうが早いと思うからさ。少しばかり地獄の苦しみ味わうけど……」

「おい後半! ボソッと言ったの聞こえたぞ!」

「大丈夫死にはしないから」

「さっきから大丈夫しか言ってねーじゃん! お前今俺の中で信用できない男ナンバーワンだからな!」


 こいつが腹立つのかこの世界の人間が腹立つのか……どうでもいいけど異世界物お約束の美少女は?

 可愛い子がいないと物語は始まらないよ。

 なんでこんなイケメン野郎と特訓せにゃならんのだ。

 モチベーション上がらないっつの。


「それじゃあ時間も勿体無いし、早速始めるよ。まずは剣術から覚えてもらおうか」


 そう言ってガルムが取り出したのはガチもんのつるぎ

 人の肉などスッパリと一刀両断できそうなとても美しい刀身をしている。


「これは僕が昔に信用できる人に作ってもらったつるぎだ。稽古の間はミナトはそれを使ってよ」

「俺が使うの? あれ、でも意外と重くないな……」

軽空石けいくうせきで作られたものだからね。見た目ほど重くないし、ミナトには僕の力が付与されてるから直ぐに振り回せるでしょ」


 軽空石がどういうのかは分からんけど……こりゃいいや。

 縦に横に斜めに。

 あらゆる方向に振り回してもブレることなく振り回すことができた。


「おもしれー」

「さて、それじゃあそれで僕に好きなように斬りかかってきていいよ」

「………………はい?」


 そう言って木刀を構えるガルム。


 おいおいちょっと冗談きっついぜガルムさんよ。

 いくら自分に自信があるからって、俺がこんなモノホンの武器使ってるのに自分は木刀だなんて。

 俺に殺人でもさせるつもりですか?


「どうしたの? ほら、何処でもいいよ」

「いやいや、これじゃあ逆にやり辛いって。だってこれで斬ったらバッサリいくんだろ?」

「もちろん」

「俺、そんなグロいことしたくないし」

「安心していいよ。ミナトの攻撃は一発も当たらないから」


 むっ。

 かっちーんと来たぜ。

 いくら仏の八代さんと呼ばれていた(自称)俺でも今の発言は怒るぜ。

 だったら、妄想の中でバッタバッタと敵を切り捨てた俺の剣技を見せてやんよ。

 寸止めでビビらせる!


「まったく……そんな幼稚な煽りで俺が動くとでもおおおりゃああああああああ!」

「ふっ!」


 ッ!

 剣を持っていた右手に激痛が走ったかと思えば、持っていた剣は叩き落とされており、喉元に木刀が突きつけられていた。

 何が起きたのか、俺の目では全く捉えることはできなかった。

 ただガルムの手が一瞬ブレたのだけは分かった。


「今の僕の動き、少しでも見えた?」

「手がブレたとこだけ……」

「今ので僕は全力の10%ほどのスピードで剣を振るった。それでも真剣であれば5回は死んでるよ」


 さっきまでのおふざけ空気は何処へやら。

 俺は今になって冷や汗が体から噴き出してきた。

 今の今までゲーム感覚だったのが、痛みを通じてこれが現実であると実感する。

 なにが楽観的な異世界生活だ。

 初っ端から地獄じゃんかよ。


「言ったでしょ? 地獄を見てもらうって。直ぐに力が得られるなんて、そんな都合のいい世界なんて何処にもないんだよ」

「勝手に人を呼んどいてその言い草かよ……。やっぱり上から目線じゃねーか」

「じゃあやめる?」

「……………………お前のいう通りやれば、俺もガルムみたいなことできるようになるんだよな?」

「うん、間違いなく」

「これでも俺は他の奴よりか優遇されてるんだよな?」

「うん、間違いなく」

「じゃあやるよ」


 俺は叩き落とされた剣を再度拾い、構える。

 どうせ元の世界に戻してもらった所で平凡な生活を送るだけだ。

 だったらせっかく最強になれるチャンスがあるなら、こっちで頑張ってみるのもアリなんじゃない?

 頑張ってダメだったら、その時に帰ることにしよう。

 それからでもきっと遅くはないはずだ。

 それに少し------------ワクワクし始めてる自分がいる。


「しゃあああああ行くぜええええ!」

「さすがミナト!」


 そして約1時間、おれはボッコボコにされた。

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