第4、5話 魔法フェイズ

 〜一週間後〜


 どうも皆さんこんにちは。

 ボコボコにされて早一週間、血まみれの八代やしろです。


 皆さんは骨が折れても休むことを許されなかった事はありますか?


 俺はあります。


 身体中を木刀ですこぶるシバき倒されて、カルシウムをあまりとらなかった俺の骨はヒビが入る日々です。なんつって。


 ただ、ガルムの野郎この野郎。


 俺が怪我をすると即座に治癒魔法をかけて元通りに治しやがります。

 ならいいじゃんって思った?

 愚痴ってんじゃねぇって思った?


 想像してみ。


 痛みを与えられた後に傷を治されて再度同じ所を怪我する恐怖。

 痛みのループモード突入だからね。


 結局この一週間、俺の攻撃は一度もガルムに当たってない。

 ガルムの攻撃はなんとか見切って防げるようになってきたけど、全然当たらんからストレス溜まる。


 あと、そろそろ外の空気を吸わせろ!

 ずっとここにいたら気が滅入るっつーの!


 ちなみに今俺は、全身ボロボロで地面にぶっ倒れてます。

 ガルムの魔力が切れたので、治癒魔法が使えないんだと。


「なーまだ治癒できないのかよー」

「そんなすぐには回復しないよ。気長に待ってて」

「腕いてーよー」

「思いっきり入ったからね。でも最近は僕の攻撃も防げるようになってきたし、もう少し鍛えれば外の世界に出ても周りに見劣りしないレベルになると思うよ」

「たった一週間で? 確かに最初の頃よりか体が動くようになったってめっちゃ実感できるけどさ」

「最初にも言った通り、ミナトは基礎の器だけはあったから、鍛えれば鍛えた分だけレベルアップするんだよ。みんなは成長するのに天井を壊しながら上るのに、ミナトは既に天井がなくて最上階が見えてる感じかな」


 階段とエレベーターみたいな違いか。

 まぁ一応苦労してるからね! ギリご都合展開じゃなくて俺の努力による賜物であると信じたい。


「ちなみに俺は今ガルムの全力の何%ぐらい?」

「15%ぐらいじゃない?」


 おお……最初に俺に木刀突きつけたガルムの動き以上にはできるのか…………。

 相変わらずガルムの動きがはええからそこまで成長してると思わんかった。


「ぶっちゃけ現時点でも剣術だけで言えば、そこらの冒険家や兵士よりも上だと思うよ?」

「まじで!?」

「ただ実際に相手に真剣を構えられて、体がいつも通り動くかは分からないけどね。一応心構えさせるためってことでも強めに殴ってるんだけどさ」


 なるほど痛めつけてたのは俺のことを考えてくれてだったのか…………じーん。

 なんて感動するかよ。

 痛いもんは痛いんじゃい!

 そのうちぜってー泣かす!


「そしたらそろそろ今度は魔法の特訓でも始める?」

「!? 是非やろう! すぐやろう!」


 魔法!


 やっとファンタジー感出てくるぞ!


 やっぱり魔法が使えるってだけでワクワクが止まらないからね。

 正直魔法がこの世界になかったら、マジで元の世界に帰してもらうようお願いしてたと思うし。


「それじゃあ最初は魔法についての簡単な説明だけしようか。まだ身体は動かせないでしょ?」

「おかげさまでな」

「はは…………魔法は体内の魔力を用いて発動させる力のこと。そこらへんの概念はなんとなく分かる?」

「たぶんな。俺らの世界の作り話では、そういうたぐいのものがよく出てきたし」

「話が早くて助かるよ。簡単に魔法の属性は二分類に分けられる。生産魔法と非生産魔法の2つだ」

「ふむふむ」


 学校の勉強もこれぐらい興味がある内容なら満点を取れただろう。

 それだけ俺は真剣にガルムの話に耳を傾けた。


「生産魔法とは、いわゆる火、水、雷、風……そういった自然界に発生しているものを自身の手により創り出すもののことを言うんだ」

「じゃあこの前使ったやつは生産魔法か」

「うん。生産魔法は種類が多いのと、組み合わせ次第ではオリジナルの魔法を使えたりするから、少々奥が深いね」

「氷魔法とかもあんの?」

「もちろん。ただ、氷魔法は水魔法の派生にあたるから、水魔法を変化させて氷魔法にするという二段階の工程が必要になるけどね」


 即座に創り出せるものと、若干の手間がかかるものがあるのか。


「非生産魔法は?」

「代表的な魔法で言えば、治癒魔法がこれに該当するよ。基本的に非生産魔法は、相手に対して肉体的ダメージを与えることがない、っていう考え方で大丈夫」

「肉体的ダメージがない、ね。じゃあ精神的ダメージを負わせるものがあるってことか?」

「鋭いじゃん。精神に直接攻撃する闇魔法や、その洗脳を解く光魔法なんていうのも存在する。ただ、これらを使える人間は極々わずかだ。だから知識程度で覚えておくといいと思う」

「ガルムは使えないのか?」

「さぁ……どうだろうね。使ったことはないよ」


 なんか少し含みのある言い方だな……。

 もしかして俺にそこまで教えるつもりがないのか?

 だったら俺はどうにかしてその魔法を覚える方法を探してやるけどな!


「よし! じゃあまずは生産魔法から教えていくよ。準備はいい?」

「だからお前にやられた怪我のせいで動けねーんだって…………」


 ちょこちょこ煽ってくるのは天然なのかこいつ?

 ともあれ、このペースで行けば順調に成長できてるぞ。


 1週間。


 元の世界だと記憶にも残らないこの時間が、まるで小学生の1日のように色濃く感じる。

 まだ何も異世界らしいことはできてないけど、異世界に来ていると実感できている。


 こんなに充実しているのは久々だ!


 リア充だなリア充!


 ………………そういや元の世界でも同じような時間は流れてんのかな? ちょっと気になる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「紡げ、雷撃ショックボルト


 指で銃の形を作り狙うと、そこへ稲妻が走った。


「おお……おおお……でたぁぁぁぁぁぁ!!」

「どうやらコツを掴んだようだね」


 剣術と共に魔法の訓練を始めて3日目、遂に俺は魔法を使うことができた。

 簡単な電撃魔法になるが、俺にも魔法が使えると実感できただけでも充分すぎる成果といえる。

 マジでいくらやっても魔法が使えなかった時はめちゃくちゃ焦った。


「なるほどな……魔力を頭の中で魔法に変換するのに明確なイメージが必要なのな」

「明確なイメージねぇ。僕らの場合は産まれた時から魔力は身体の一部として生きてきたから、意識せずとも初歩的な魔法は使えたんだけどね」

「なんだよ嫌味かよ。自慢かよ。人が感傷に浸ってるんだから茶化すなや」

「ちなみにこれは豆知識なんだけど、1番最初に使えることができるようになった魔法がその人の得意魔法になるんだ」

「じゃあ俺は雷系統の魔法が得意ってことになんの?」

「そうだね。僕は火魔法が得意なんだけど……同じというわけではないみたいだ」


 雷系統か……風魔法とかに比べたら全然いいか。

 普通の人間に雷なんて使えないからガチ興奮するわー。


「他の魔法ももちろん使えるんだろ?」

「もちろん。訓練すれば全ての魔法を一通り使えるようになることもあるよ。僕が実際にそうだからね」

「お前なんなんだよ……マジで何者なんだよ」


 まだガルム以外の人に会っていないからなんとも言えないが、話だけ聞いているとこいつはまるで主人公みたいなスペックを持っている。

 その力の恩恵を俺も受けているというのだから、期待せざるを得ない。

 そのモチベーションだけで俺は頑張ってるんだぜ。


「ちなみにガルムが使った召喚術っていうのも俺は使えんの? それで俺も新たに誰か召喚してっていうのを繰り返したら無敵の戦闘集団できるんじゃね?」


 提案してはみたものの、俺以外に転移する人がいたら俺の特別性が失われるからやらないけどね。


「それは無理だよ」

「なんで?」

「なぜなら召喚術は魔法じゃないからね」


 魔法ではないと?

 なんのこっちゃ。


「召喚術は魔法を使ってできるものではなくて、僕の特有のスキルになるから。いや……スキルっていうのもなんか違う気がするんだけど」

「さっぱり分からん」

「僕の左目。小さな紋章が刻まれてるだろ?」


 ガルムは自分の左目を指差した。

 確かにその目にはローマ数字のIIのような紋章がある。


「最初に見た時から気にはなってたけどよ」

「気を遣って触れないようにしてくれてたの?」

「いや、こいつヤベー奴だなと思って。ああはいはい、そういうお年頃なのね分かります、でも近寄らないでねバカが感染うつるからみたいな」

「めちゃくちゃ辛辣しんらつじゃん! 僕の左目のことそんな風に思ってたの!?」

「大丈夫だって。みんな通る道だから。お前はお前のままでいてくれればいいんだよ」

「みんな通る道ってなに!? ミナトの世界でどうなのかは知らないけど、そんな病気みたいなものじゃないから!」


 お、病気とは中々いい線つくな。

 あながち間違いではないぞ。


「これは! ……………まぁいいか。特別な証だと思ってくれればいいよ。とにかく、僕はこの左目の力を使って召喚術を行うんだ。込めた魔力により、それに見合った能力のしもべを召喚する」

「それの究極系が異世界からの召喚だと?」

「まぁそうなるね。僕もまさか異世界から召喚するとは思わなかったよ。魔力の99%を使ったのも初めてだし」

「今まで試さなかったのか?」

「この召喚術も色々難点があってね。無機物であれば自由にしまったり取り出したりできるけど、生き物を召喚した場合、しもべって言っても形だけだし、ぼく自身召喚したものを無に帰すことはできないんだ。毎回召喚した生物は命を落として無に帰っていたからね」

「は? じゃあ俺が元の世界に帰せって言っても、お前は結局の所、帰す方法は分からなかったってことか?」

「そうなりまーす」

「ざっけんな!」


 てへっと舌を出しながらムカつく顔をしたガルムに剣を振りかぶった。

 が、案の定さらりとかわされる。


「それに今までの召喚獣に僕の力が付与されることなんてなかった。魔力をほぼ全て注ぎ込んで召喚した君だから、僕の力が恩恵として付与されているんだ。僕の分身みたいなものなのかな」

「不名誉すぎるなお前の分身とか」

「照れなくていいって」

「照れてねーわ!」


 結果論で言えば、俺は異世界生活を楽しむために今の状況を受け入れているけど、それを最初に聞いてたらマジでキレてたぞ。

 ………………あっ! だからこいつ言わなかったんだな!


「さ! 魔法も使えるようになったし、目標まではもう少しだ! そろそろ僕もここから出たいし、早いとこミナトには強くなってもらうよ!」

「いや、出りゃいいじゃん。時々ふらっといなくなって飯を調達してるのは、近場に買いに行ってるからだろ? なんか毎度申し訳ないけどさ」

「いや? これまで一度も外には出てないよ? ご飯はそこら辺で狩ってきてるだけだし」

「ちょっと待てよ……今さら聞くけど、ここどこなん? 洞窟の中って感じだけどさ」

「洞窟の中、正解! ただ、洞窟っていう呼び方よりももっと適切な呼び方があるかな」

「なに?」

「ダンジョン」

「ん?」

「ダンジョン」


 ダンジョン? それってあれか? これから俺も攻略するって言ってた場所か?


「なぁ、ここってもしかしてあれか? お前が言ってた超難易度ダンジョンとかいう……」

「うん。それの最下層」


 マジかよ!!!!!!

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