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近所の田畑家のおばあちゃんがいなくなった――「おばあちゃん」の娘にあたる
ガードレールに守られた広い歩道に別れを告げ、最寄り駅の正面まで続く商店街のアーケードに入る。始発電車はもう動いている時間だが、駅前の商店街にはまだ
(……少しでもひとがいそうなところかなと思ったけど……時間が早いから関係なかったか……それにしても心配だなぁ、おばあちゃん)
もちろん理子も、田畑さんの「おばあちゃん」、
しかも、単に近所のおばあちゃんとして知っているだけではない。かわいいお
田畑美紀の息子や娘と幼なじみだった縁もあって、理子も田畑房枝の絵本には昔から親しんできた。学校の図書室に何冊も絵本が置かれている「先生」が近くに住んでいる――その事実に、小学生の理子は鼻が高かった。といっても、理子が生まれ育った町では多くのひとが理子と同じ気持ちだったのだが。
現在では田畑房枝も80歳を過ぎていて、新しい絵本が刊行されたという話はずいぶん前から聞いていない。「おじいちゃん」にあたる夫の
(……『ドロロンちゃん』シリーズ、ほんと好きだったなあ……昔の絵本なのに、みんなに人気あったよね……)
駅前の商店街は、ほとんどの店がまだシャッターを下ろしたままだ。商店街を走り抜けた理子は、駅には入らずに右に旋回する。いつもより速いペースで走っているから、さすがに息が上がってきた。
(……ドロロンちゃんだったら、すぐにおばあちゃん見つけられるのにな……)
神出鬼没のドロロンちゃんは瞬間移動もお手の物だから、困っている人や寂しい人、泣いている人のもとにすぐに飛んでいけるのだ。
駅周辺を過ぎてしまうと、人が向かいそうな場所はほかには思い当たらない。それでも、もう少しだけ遠回りして家に帰ろうか、と思ったときだった。
バス停のベンチに、ぽつりと座っている人がいた。田畑美紀と別れたあとは誰にも会わずに走ってきたから、早朝の風景に溶け込んだ人影が妙に新鮮に映る。
(……田畑さんのおばあちゃんだ……)
驚かさないように速度を緩めて、数メートル前で走るのをやめた。恐る恐る声をかけた理子に、田畑房枝は、なにかを諦めたかのような、あるいは誤魔化すかのような曖昧な微笑みを向けた。
(続く)
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