夏季集中講義 霊が見た夢
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ピンクのランニングシューズの
うっすら輝きながら姿を見せつつある起きたての太陽が、暑い一日を早くも予感させている。むきだしの顔と首、そして腕には、抜かりなく日焼け止めを施してある。
8月に入り、期末試験やレポート提出を終えた
気になるのは――――理子は左手でお腹の肉をつまむ。
(……うーん、油断するとすぐに太っちゃうなぁ……)
取るべき授業もそれほど多くなく、基本的に自分で研究を進めていく大学院生が運動不足に陥るのは、仕方ないことかもしれない。だが、なんであれ現状を自分で「仕方ない」と認めてしまったら、成長はそこで止まってしまう。
(……理想の体型を目指さなければ……理子の理は……理想の理だし……)
そういうわけで、理子は早朝のランニングを実家での日課にすることにした。夜に走るのは危険だが、かといって明るいうちに走ろうとすれば、このくらい早い時間でなければ熱中症で倒れかねない。
(……起きるときは死ぬほどつらいけど、起きちゃえばなんとかなるもんだな……)
庭で軽い準備運動を終えた理子は、車が来ないことを確認してから道路に出た。できるだけ長く走れるように、時速7キロ程度の緩やかなペースで走り始める。自動車も歩行者もいない、静かで爽やかな朝だ。
(……ゆっくりだとそんなに苦しくないし、けっこう気持ちいいんだよね……もっと早く始めればよかったなあ……)
自宅のある住宅街を抜けて、駅の方につながる県道にさしかかったとき、理子の眼に中年女性とおぼしき人影が映った。
(……あれ?……もしかして
直感どおり、それが近所の主婦・
「おはようございます」
「……あ、ああ、理子ちゃんじゃない。走ってるの? えらいわね」
「えへへ。最近ちょっと太っちゃったので、挽回しないと。おばちゃんこそ、どうしたんですか、こんな早く」
「……うーん、それがね……」
見ると、本当にゴミを出しに外出しただけのような身なりだ。田畑美紀は言いづらそうに表情を曇らせて続ける。
「……実はね、おばあちゃんがいなくなっちゃって」
「えっ」
「……今朝気づいたら家にいないのよ。それで探してるんだけど……」
「何も言わずに出かけちゃったんですか、おばあちゃん……心配ですね」
「理子ちゃん、もし見かけたら教えてくれない? 見かけたら、でいいから」
「はい、もちろんです」
田畑美紀と別れた理子は、走るペースを時速6キロほどに上げて、駅前の商店街を目指して県道を走り抜けていった。
(続く)
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