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学期末の納涼会の相談をするために、理子を含む修士課程一年、通称
あやうく取っ組み合いのケンカに発展しそうなやり取りを、先ほどから理子は数歩離れたところでヒヤヒヤしながら眺めていた。
「なんでそんなこと気にすんの?」
「はあ? だって昔から言われてることでしょ」
「昔から言われてるって、誰かが勝手に言ってただけじゃん」
「なんで『勝手』って決めつけられるの? 意味があるからじゃないの」
「そうかなあ。僕は全然そう思わない」
普段は一枚岩に見える彼らが、なぜか今日は強い口調で言い争っている。
理子のすぐうしろでは、助教の丸山が心配そうに彼らの議論を見守っている。学生間の関係を上手に取り持つのも、助教に任された重要な仕事だからだ。
(……どうしよう……私もなにか言った方がいいのかな……)
自分だけ「外部進学」とはいえ、同期たちの言い合いをこのまま傍観していていいのかと
「……ちょっとちょっと、みんなどうしたのよ」
「……あ、丸山さん……」
M1男子四人のうちの一人が、申し訳なさそうに反応する。彼らにとって、年齢的にも立場的にも学生と教員のあいだにいる丸山は、どんな相談でも乗ってくれる兄貴分のような存在なのだ。
「なにがあったの? 僕でよかったら話、聞くけど」
直接口論をしていた二人が顔を見合わせる。数秒の間を置いて、片方の男子が言いづらそうに口を開いた。
「……いや……ただ、その、先行研究の扱いについて、ちょっと……」
「……ああ……もしかして……」
丸山の方に向き直った理子の眼に、丸山の苦々しい表情が映る。
「……『
大きくため息をついた丸山は、もう二度と会いたくないと思っていたひとに、街でばったり出くわしたかのような顔になっていた。
(続く)
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