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理子はその日、21時までの時間を南郷五丁目駅前の「サターン・ドーナツ」の店内で過ごした。5限後に待ち合わせをしていた
今日はじめて会った相手とはいえ、大学から目と鼻の先での待ち合わせだったから、理子は友香の電話番号やアドレスなどを聞いていない。そうした連絡先の交換も含めて、あらためてプライベートな話をして仲良くなるつもりだったのだ。
(……如月さん、約束を破るようには見えなかったのに……うーん、なにか事情があったんだろうな…………理子の理は、理解の理か)
友香を信じる心を捨てきれない理子は、その未練に引きずられながらも、3時間ほど滞在した「サタド」を出て帰路についた。
*
翌週の月曜日。図書館で勉強していた理子は、読書に一区切りがつくと、前週のモヤモヤした気持ちを抱えながら共同研究室を訪ねてみた。授業のない月曜日に、理子がこの部屋に立ち寄るのはまれである。
現在は
といっても、表立って嫌なことをされるというわけではもちろんなく、ただそういう思いをするだけだ。内部進学者からすれば、ただの思いこみと笑われるだろう。いずれにせよ理子は、出席する授業の前後など、決まった時間以外に共同研究室に来ることは少ない。
「お、
ドアを開けて入室した理子に、助教の丸山が気さくに声をかけてきた。奥のソファには、理子と同期の内部進学者の男子学生が二人座っていて、理子に軽く
(……如月さん、今日は来ないのかな……少し待ってみるか)
理子は丸テーブルの席に座り、図書館で読んでいた本をバッグから取り出した。デイヴィッド・ヒュームの『
しばらくして、授業があるからか、あるいは別の理由があるのか、二人の男子学生が連れ立って共同研究室を出て行った。
(……また今日もいい感じに冷え切ってるな……)
理子はバッグにたたんで入れてあった薄手のカーディガンを羽織った。助教の丸山が極度の暑がりで、いつも部屋の冷房を強めにしているのだ。
ガチャという音がして、直後に「うっ」という声が聞こえた。
「……なんだここ、冷凍庫ですか」
理子の指導教員(になる予定)の
(続く)
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