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「……指、大丈夫なの?」
おたがいの自己紹介を終えたあとも親指を気にしている
「……はい、あの、どうかお構いなく」
お構いなく、というわけにはいかない。理子自身にも経験があるからだ。
おそらく友香はシャープペンシルを逆さまにノックしたのではないか。無意識にシャープペンシルの芯を出そうとする力がどれほど強いかは、同じミスをしたことがあるひとなら誰もが知っているはずだ。
「血、出てない?」
「……大丈夫です」
友香は両方の耳を桃色に上気させて、ふたたび本に集中している。
(……本人が大丈夫って言ってるのに、しつこくしない方がいいか……)
心のなかでかすかなため息をついて、理子も自分のドーナツに集中しようとした。友香のドタバタに気を取られたせいで、理子はまだ「サタド」のオールドファッションの4分の1をかじったにすぎない。
ガコッ。
硬いものと硬いものがぶつかったような乾いた音が響く。それからドンッとテーブルになにかを勢いよく置いた音が聞こえた。
見ると、友香が手で口を
「……如月さん? どうしたの?」
「…………」
(……さっきの音……もしかして?……)
理子の問いに答えない友香は、必死でなにかに耐えている様子だ。しばらくして友香は顔を伏せたままペットボトルをつかみ、今度はゆっくりと
(……この子……ひょっとして、ポンコツ?……)
「ポンコツじゃありません………」
理子は驚いて眼を見開いた。
「……私、なにも言ってないけど」
「あ、いえ……よく言われるので」
「…そうなの? しっかりしてるように見えるのに」
「………そんな……あ、ドーナツおいしそうですね」
「………あ……うん、おいしいよ」
「………あの……東雲さん………」
急に友香がもじもじしながら理子の顔を見つめる。
「……ドーナツ……一口もらってもいいですか……さっきから気になっちゃって……」
(……まさか、そのせいでポンコツだったの?……元々そうなのかもしれないけど……)
理子は残っていた4分の3のドーナツをきっちり半分に割って、全体の8分の3になったドーナツを笑顔で友香に渡した。
(続く)
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