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理子の視線は、顔を斜めに傾けて本の文字を追う美少女に釘づけになっていた。透き通るような白い肌に、ショートカットの髪がちょこんと載っている。漆黒色に輝くまつ毛の長さは、遠目でもはっきり分かるほどだ。
(……うわ……かわいい……なんだ、この子……)
「…………あー、
ドアを開けたまま固まっている理子に、見かねた丸山が声をかけた。せっかく部屋を涼しくしてるのに、と表情があからさまに不満を表していた。
「……あ、ああ、スミマセン…………」
後ろ手にドアを閉めた理子は、本に没頭する美少女に遠慮して、大きな丸テーブルの反対の隅の椅子を静かに引いて、音を立てないように慎重に腰を下ろした。美少女の方は、部屋に入ってきた理子に気を配る素振りはまったくない。
よほど部屋が寒いのか、冬物と思われる厚手のカーディガンを羽織っている。それはそうだ。暑がりの理子だから耐えられるが、夏とはいえ、一般人がじっと座っていられるほどの冷房の強度ではない。
共同研究室が冷房で寒いのを熟知している理子は、「サターン・ドーナツ」で熱々のコーヒーを買ってきている。外気温が高いから、テイクアウトでもすぐに冷めることはない。理子は熱いままのコーヒーをすすってから、包みでくるんだオールドファッションを一口かじった。小麦粉の粉っぽい食感を通り抜けて、地味なほどのかすかな甘さが口のなかにじんわりと広がる。
「
突然響いた鋭い声に、ドーナツを頬張る理子の動きが止まる。
「……どうしたの? 大丈夫?」
理子はドーナツから口を離して声をかけた。丸テーブルの対角に座る美少女が、右手の親指の腹を眺めている。
「……あ、いえ……はい、大丈夫です…………」
理子が見つめているあいだに、美少女の白い肌がぱーっと赤みを帯びた。
「東雲さん、
共同研究室奥の専用の机に座る助教の丸山が、回転椅子を回して理子に声をかけた。学生間のこういった調整も、助教の重要な業務の一つである。
「はい、はじめてお目にかかってます」
「
如月友香と紹介された美少女は、顔を真赤に染めたまま、ふたたび本に視線を落とした。とはいえ、意識はまだ、さきほど痛みを感じた右手の親指に向かっているようである。
「あ、そうなんですね……はじめまして。私、修士1年の東雲理子です」
「…………あ、如月友香です……よろしくお願いします」
美少女は年長の理子に気を
(続く)
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