15.オリジネータ攻略

 俺はサヤの見舞いに来た。

 サヤは一命は取り留めた。しかし、意識はまだ戻っていない。


 シェルター内の病院施設は満杯だ。ギガント戦で大量の負傷者が発生し、満足に治療が行き渡らない状況らしい。

 しかし、サヤはエクスタ隊員ということで優先的に治療を受けられた。


 負傷している人がたくさんいる中で優遇されるのは申し訳ない気持ちもあるが、戦力として勝るエクスタ隊員を残したいという戦略的意図なのだろう。


 いかんな。思考が良くない方向に行っている。

 サヤは無事だったのだ。良しとしよう。



 病室を出る。廊下ではサカザキさんが壁にもたれて待っていた。

 俺は廊下を歩くと、サカザキさんも隣に並んで歩き始めた。


「ギガントを倒した最後の攻撃なんだけど、」

 サカザキさんは歩きつつ、話を始めた。


「開発部の分析では、"飛行ユニットが過剰運転したことで引き起こされた"と考えられるらしいわ。」

「飛行ユニット?」


「飛行ユニットの原理はまだわかっていないけど、どうやら反重力的な特性があるみたい。その反重力を起こすエネルギーがソードから漏れた。」

 反重力? 原理が良くわからない状態で使っていたが、そんなフィクションっぽい原理だったのか。


 あの攻撃自体はなんとなく覚えがあった。あの男が捕食者のトドメに使用していた攻撃。あれとよく似ていると思う。



「重力操作の影響で突発的に超高重力領域が発生し、物質が分解されたんじゃないかですって。」

 良くわからないが、高重力で分解とか起こるのか?

 ただ、あれをいつでも出せるなら、有効な攻撃方法にはできそうだが・・・・・。


「あれは兵器化できそうなのか?」

 サカザキさんは悩むような声を出す。


「現時点ではなかなか難しいみたいよ。かなり偶然の現象だから再現もできてないみたいだし。」

 そうか・・・・・、仕方ない。


 それきり、俺たちはしばし黙して歩いた。



「そうそう、インヴェイダー本体への攻撃が行われることになったわ。」

「本体?」

 唐突な話題に、俺は足を止めサカザキさんに聞き返した。


「そう、アメリア北部で最初に確認された個体よ。ディフェンダーの上層部もこれ以上の抗戦は限界と感じているみたい。本体を攻撃することで短期決戦に持ち込むつもりよ。」

「本体を倒しても、拡散したインヴェイダーには影響がないのでは?」

 仮にアリの巣で女王を潰しても、兵隊は止まらないと思うが・・・・・。


「以前も言ったように個々のインヴェイダーには動力源が無い。とすると、動力を供給している何者かの存在が不可欠。ならば、最初の個体が動力源である可能性が高い、というのが上層部の判断よ。」

 確かに、その可能性は高そうに聞こえる。しかし博打であることには変わりないな・・・・。


「他に手もない・・・・・、か。」

「ええ。そして、作戦にはあなたも召集されているわ。」


 俺は足を止め、サヤの病室の方向を振り返る。

 救える可能性があるなら、賭けてみるか。


「わかった。」







 


 大会議場のような室内には、200人ほどの人間がひしめき合っていた。

 各国から集められるエクスタ隊員を総動員したらしい。これが今この星が出せる最大戦力ということか。


「諸君らに集まってもらえたことを喜ばしく思う!」

 大会議場前方の檀上に総司令官らしき男が立ち、マイクで全体に向けて語り始める。

 もちろん言語は異なるが、同時通訳のイヤホンから音声を聞いている。


「早速だが、これが現在のインヴェイダー本体、通称オリジネータの姿だ。」

 檀上の照明が落とされ、巨大なスクリーンに映像が映る。

 以前テレビ映像で見たときは銀色の玉だった。しかし今は銀色の樹木の様になっていて、幹から伸びる枝には銀色のつぼみが上に向き屹立している。

 つぼみは全部で6つか・・・・。


「奴の表面装甲はスプレッド同様に強靭で、我々の装備ではダメージを与えることはできない。」

 スプレッドの大元締めみたいなもんだしなぁ、上位互換でしかるべきだろう。


「望遠映像によると、オリジネータにもスプレッド同様の"敵の出口"がある。」

 映像では、オリジネータの根元からインヴェイダーが出現している。

 敵の出口から出てきているなら、根元あたりに出口があるということになるな。


「オリジネータはスプレッドに比べかなり巨大だ。確実に破壊するために内部へ侵入する!」

 あの出口から中へ入るのか!?

 そ、それはなかなか・・・・・・。


「中はどんな状態かわからん。その先は諸君らの判断に任せる。」

 肝心なところが放任だな・・・・・。








 全体の作戦は大胆かつ単純だ。

 軍と協力し山岳部にあるオリジネータに接近。軍が攻撃をサポートしつつ、エクスタ隊が突撃する。


 戦力の分散や逐次投入もしない。全戦力による正面攻撃だ。

 敵の立地は天然の要塞とも言うべき場所柄であるため、背後を突いたり、伏兵を忍ばせるような場所が無いというのが事実だが・・・・・・。



「ヒロム、震えてるんじゃないのか?」

「これは俺の国では"武者震い"と言うんだよ。戦いに備えて体が興奮してるんだよ。」

 彼はジョシュ・アディフラム、通称ジョー。なかなか陽気な性質の男だ。

 彼は俺の相棒だ。今回の作戦は二人一組でチームを組んで行う。


「ほう、ムシャか。かっこいいな!」

 なんか変なイメージ持ってそうだな・・・・。



「進軍開始!」

 作戦指令からの号令がかかる。

 オリジネータに向け、軍と共に山間部を進軍する。


 オリジネータのある山だけあって、インヴェイダーの数が多い。

「オリジネータにたどり着くまで死ぬんじゃないぞ!!」

 オペレータからの激励が無線機を通じて耳朶を打つ。


 俺はレーザーを照射しつつ浮上、飛行タイプをソードで切り裂き撃墜していく。

 後からジョーが追いついてくる。

「ヒロム、すげぇな。どうやったらそんなに動けるんだ?」

「たまたまだよ。」

 背後に近づく1体のインヴェイダーに向け、レーザーを打ち込み黙らせた。




 被害無しとは行かなかったが、遭遇したインヴェイダーの量からするとかなり軽微な被害で進んでこれたと思う。

 山と山の稜線に挟まれたくぼ地に、ソレは居た。


 オリジネータ、直接見るとなかなかに異様だ。銀色の樹木とはこれほど異常に見えるものか。

 それに付けているつぼみも樹木本体の大きさからするとかなり大きい。遠近感を狂わせるような異常さがある。


 オリジネータまで数kmほどの距離。ここで軍は停止し、けん制の攻撃を加える。

 俺たちはその中を進み、オリジネータへ取り付くのだ。



「行こうぜ、ヒロム!」

「ああ、たのむぜ、ジョー。」

 飛行ユニットを吹かし、俺たちは空へ躍り出た。

 オリジネータの方向から大量のインヴェイダーが進んでくる。地を覆うような数だ。


 俺たちはやや高度を高めにとり、地上のインヴェイダーは通過する。こいつらは軍に任せる。

 飛行タイプは無視できない。こいつらは落としながら進むしかない。


 タコ型5体ほど接近してくる。レーザーを撃ち込み1体落とす。すれ違いながらソードで更に1体。

 さらにもう1体が触手を広げながら飛び掛ってくる。2本のソードで触手を全て切り落とし、本体を串刺しにする。


 ついでに苦戦しているジョーにもレーザーで援護射撃を加えておく。

「助かったぜ、ヒロム。」



 オリジネータに近づく。間近で見ると改めてその巨大さに圧倒される。

 樹木の幹は直径100m以上はあるだろう。そこから上に200mほど、伸びた幹の先には更に巨大なつぼみが乗っているのだ。

 更に幹からは太い枝が伸び、それらの先にも巨大なつぼみが乗っている。


 遠近感が狂うほどの巨大な樹木だ。



 しばし呆気にとられてしまったが気持ちを入れ替え、改めて幹を確認する。


 根元には数個の洞が空いているのがわかった。あれが目的の"敵の出口"か。

 洞の中にはスプレッドの傘同様に虹色の膜のようなものが見える。


 俺とジョーは岩陰に身を隠す。他にも3チームが同じ岩陰に合流した。

「俺たちが援護する、お先どうぞ。」

 後から合流したチームメンバーが俺たちに先行を譲る。危険だから譲ったんだろうな・・・・。



「わかった。援護たのむ。」

 俺たちは岩陰から半身になり、オリジネータから湧き出してくるインヴェイダーを射撃する。

 次々と現れるインヴェイダーを撃ち抜き続けると、出口からの湧きが収まった。

「今だ!」

 俺とジョーは岩陰を飛び出し、一気にオリジネータ根元の洞へ飛び込む。


 虹色の膜をくぐる。目に飛び込んできたのは一面の虹色だ。


 まるで水晶のような、青く透き通った素材の中に虹色の色彩があふれている。

 壁面の素材が特殊なことを覗けば、天然の洞窟を思わせる形状だ。

 幸い薄明りに照らされているため、真っ暗ということはない。


 続けて、3チームとも中へ突入してきた。


「よし、進もうぜ!」

 なぜかジョーが仕切って進むことになった。

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